実戦

第10話 挑発



 いつも通り早朝に、歩が教室に向かっていると、とある集団に呼び止められた。


「……おい、ちょっと待てよ」


 見たことない男だった。歩はおかしな雰囲気を感じ取っていたが、えて正面から答える。



「何か用でも?」


「お前七条歩だよな?」


 リーダー格の男と見られる人物が威圧的に尋ねてきた。


「そうだけど? 何か用事でも?」


「お前、ワイヤー何てクソ武器で調子乗ってるそうじゃないか。おまけに模擬戦で八百長やおちょうして勝ったとか」


「いや、そんなことはないけど……」


「とりあえず釘は刺しとくぜ。この一年の中でナンバーワンはこの俺、水野みずのしょうだ。よく覚えとけ。校内選抜戦で戦えるといいな。ま、まずは予選を勝ち抜けたらの話だけどな。不正なしで」


 そう言って集団は去っていった。


(やっぱり、日本にもああいうのいるんだな。てか、日本の方がひどい気がするけど。わざわざ取り巻き連れてくるとか……ま、そんなのはどうでもいい。勝つだけさ)



 そしていつも通り一日が始まった。



「おーい、歩。おまえ最近どうよ? 校内戦の事は考えてんのか?」

 

 雪時は昼休みのチャイムが鳴ると同時に、歩に話しかけた。


「うーん、まぁまぁかな。できれば代表まで狙いたいけど」


「まじかよ!? そこまで狙ってるのか、1年なのに……でもそうなると、どこかで有栖川さんとは戦う事になるな」


「だよなぁ、正直戦いたくないよ。苦戦は避けられないだろうし。未来予知プレディクションが厄介すぎるんだよ」


「体験した俺から言わせれば、ありゃ反則級の強さだな。攻撃当たる気がしねぇよ」


「まぁ、なんとか頑張ってみるさ。まだ対策は思いつかないけど、手はあるから」


「お前まだ何か隠し持ってんのか? 引き出し広いな〜」


「ま、器用貧乏とも言えるけど。ワイヤーってだけである程度ハンデがあるわけだし、色々と考えなきゃ生き残れないから」


「で、実際のところどう考えてるわけ?」


 雪時は少し真剣な顔つきで質問した。


「まず、有栖川さんは間違いなく本戦に来ると思う。あのVAに弱点ないし。持続時間はわからないけど、俺のよりは保つはず。あとは、他のクラスの人だけど……正直まだ本戦に来そうな人のデータは集まってないからぶっつけ本番ってとこかな。でももちろん、優勝目指してやるさ」


 歩も真剣な顔つきをし、そう答えた。

 そしてデバイスを取り出し、雪時に見せるようにモニターを開いて説明し始める。


「過去のデータでは感知系の人が優勝してる例は結構少ない。なにもVAだけじゃなくて、CVAとVAを含めた総合力がものを言うんだ。そう悲観することはないさ」


「まぁ、俺も歩のあの試合見てからいろいろと理論についても勉強したしな! お互い頑張ろうぜ!」


「あぁ、打倒有栖川華澄だ!」 


「打倒誰ですって?」


「「……え?」」


 ふたりは思わず固まり、横を向くと……


 そこには華澄が立っていた。華澄の表情は眩しいくらいの笑顔だったが、ふたりはそれを怒っていると思った。いや、怒っていると思う以外彼らに選択肢はなかった。




「で、あたしを倒そうと思っているのね? ふたりとも」


「い、いやおれはそんなこと一言もい、言ってねぇ! 歩が勝手に言ったんだ!」

 

 雪時が歩に責任をなすりつける。しかし、実際に言ったのは歩だけなので反論のしようがなかった。



「ふーん、で七条君あたしに宣戦布告ってわけ?」


「え、まぁ頑張って倒そうかなと思いまして。ええ……よろしくお願いします……」


 歩は華澄を刺激しないようにと思い、敬語を使って答える。



「アハハハハハハハハハハハハハ!! そんなに怖がらなくても別に怒ってないわよ! あー、おかし!」


 華澄は怒っているふりに疲れたのか、盛大に笑い始めた。今までこんな姿は見た事がなかったので二人ともかなり驚いている様子だった。



 ……閑話休題。




「で、なんかいろいろ考えてるみたいだけど私に通用するかしらね? もちろん私は何も考えずに本能のままに戦うわ。あたしの未来予知プレディクションがあれば誰にも負けないしね」


 自信満々にいう華澄だが、その言葉に歩はすこしいきどおりを感じた。




「まぁ、そう思うのは自由だよ。優勝は俺がするけど」

 

 歩は皮肉をこめてそう返答する。それに対して、華澄も思うところがあったのかある提案をしてきた。




「じゃあ、先に負けた方は勝った相手の言うことを何でも聞くってのはどう? ありがちだけど、燃えるでしょ?」



「いいよ。そっちこそ怖じ気づくなよ?」



「ええ、では本戦で会いましょう。あ、そうえば七条君。放課後時間あるかしら?」



「うん、空いてるけど」



「じゃあちょっと話したい事あるから、よろしくね」


 華澄はそのまま教室を出て行った。


「おい! あんな約束していいのかよ! きっと無理難題吹っかけられるぞ! しかも放課後に約束なんてしてよ! どうなってもしらねぇぞ!?」



「勝てばいいんだよ。勝てば。あの驕った考えを打ち砕いてやるさ。放課後の件は大丈夫でしょ。たぶん、うん……」


 戦闘に関しては自信がある歩だが、女の子の相手はまだまだ苦手なようだった。




 そして、昼からの授業は自習となった。

 雪時はそれを見越して、実戦練習をするために場所を確保していた。





「おい、歩ちょっと付き合えよ! どうせ午後は暇だろ? 第4アリーナ30分だけ予約してるんだ。」



「まぁ暇だけどさ。どうせ暇って、なんか釈然しゃくぜんとしないな……で、実戦形式で練習でもするの?」



「あぁ、よろしくな!」


「あ、それあたしも行ってもいい? 見るだけだからさ!」


 突然、不知火しらぬい彩花あやかが声をかけてきた。歩に負けてから何かと最近絡むようになってきたのだ。彼女なりに何か想うところがあるようだ。




「あぁ、いいよ。別に見られて困るものはないし。いいよな、雪時」


「おう! かまわねぇぜ!」



 三人は第4アリーナに移動した。



「じゃあHPは200で、と……属性攻撃はなしでいい?」


「あぁ、そんなに本気出しても疲れが残るだけだしな」

 

 カウントダウンが始まる。



 ――3、2、1、START! 



 二人とも同時に飛び出す。雪時はハンマーを右肩に担ぎ突進してくる。対して歩は両手のワイヤーを針金のように変化させ投げつける。


「くッ!!」


 雪時はハンマーで薙ぎ払うが2、3本身体をかすめた。その隙を見て歩は空中に跳躍する。そのまま複眼マルチスコープを発動し、雪時のハンマーと両手両足をロックした。そして、両手のワイヤーで両手両足を絡めとりにいく。


「そうはさせないぜ!」


 雪時はそういうと、ハンマーを高速回転させすべてのワイヤーをはじきバックステップをし、距離をとった。



「おぉ、やるじゃないか。今まで通り防御なんかせずにつっこんでくると思ってたよ」


 歩は感心したようですこし目を見開いていた。




「俺も成長しているってことさ。それに眼が緋色になってたからな、あのままじゃ不利だからいったん距離をおいたってわけだ。そんじゃあ、ちょっとあげていくぜ」




 すると、雪時は今までの倍以上のスピードで近づいてきた。これには歩も対処しきれずワイヤーで中距離を保とうとするが、近距離に潜り込まれてしまった。





 雪時はVAを発動したことで、両腕が赤くなる。



 そして、歩めがけ高速のハンマーの振りを打ち込んだ。




「クッ!!!!!」


 歩はそのまま吹き飛んで行き、壁に激突する。両手のワイヤーを硬化しある程度は防御したがHPを半分以上もっていかれた。歩の残りHPは80 雪時は170。




 雪時はこのとき勝てると確信していたが、歩の目の色は蒼色に変化しており支配眼マルチコントロールが発動していた。




「そう来なくっちゃ!!」


 再びハンマーを担ぎ突進する。そしてそのスピードをのせたままハンマーをふる。突進したスピードにくわえVAの速さも加わってハンマーでは考えられないくらいの高速の攻撃が繰り出された。




 だが、歩はそれを避ける。尋常ではないスピードだが、余裕をもって。



 歩は隙をつき、スピードにのった腕にワイヤーをくくりつけ、その勢いのまま壁に投げ飛ばした。



 雪時は壁にものすごい勢いでたたきつけられてしまう。


 それに伴い、室内に轟音が響く。




(っく、流石に一筋縄じゃいかねぇか。だが、まだ終わってねぇ!)


 そう思い、すぐに戦闘を続行しようとし振り向こうとした瞬間……。



 首にワイヤーが巻き付けられており歩に対し背中をむけたまま、後ろにひっぱられてしまう。





「これで、終わりだッ!」


 そのまま、歩は雪時の背中に右手の拳を叩き込む。渾身の力を込めたその一撃は雪時のHPを一気に削っていく。




「うッ!!!」


 雪時は少し吐血して倒れこみ、HPが0になった。そして、試合終了のブザーが鳴る。


「大丈夫か?」


 歩は雪時に手を差し出した。



「あぁ、平気だ」


 そして、雪時は歩の手をとり起き上がった。




「一応、医務室いっておけよ? 大丈夫とは思うが」

「あぁ、そうだな。一応後で行っとくか」



 二人はフィールドから出て、飲み物を購入しアリーナの中にあるベンチで休憩をとった。



「やっぱり、七条君強いね!! 複眼マルチスコープまでならギリギリ何とかなりそうだけど、支配眼マルチコントロールはやっぱすごいね。あれを使えば負けなしじゃないの?」


 試合を観戦していた彩花がそう尋ねてくる。




支配眼マルチコントロールは持続時間がまだ短いんだ。ホントにここぞって時じゃないと使えない。あと弱点もあるしね」


「弱点?」


「正直、近距離から中距離なら何とかなるけど支配眼マルチコントロールは遠距離で逃げに徹されるとどうしようもないんだ。まぁでもみんな大体突っ込んでくるから助かるんだけどね」


「へぇ〜、そうなんだ〜」


 彩花は少し感心したようにそう言う。というのも、彼女なりに色々考えていたが、歩が自分のVAについてよく理解していることに少し驚いているのだった。




「戦って分かったけど、歩は有栖川さんとかなり良い勝負が出来るんじゃないか? 支配眼マルチコントロールは使いどころさえ間違えなければ無敵だろ」


「いや、彼女のVAの未来予知プレディクションがある限りそうもいかない。たしかに、彼女の攻撃はすべてかわせるかもしれないが、攻撃を与えることはおそらく難しい。しかも、彼女は先読みだから俺よりもわずかだが早く行動をとれるし、VAのスタミナはあっちが上だろうし。たぶん、ジリ貧になって俺が負けるね」


 歩は持っているお茶を見ているが、どこか遠くを見ているかのように答えた。


「え、おまえそれ大丈夫なのか? 負けたら何でも言うこと聞くんだぞ?」


「え? それなんの話し? そんないやらしい約束したの?」


「いや、別にいやらしくは無いけど……ただ売り言葉に買い言葉で、ね」



「ふーん、そうなんだ」



 彩花は不機嫌そうに目を細めながらそう言った。


 一方、雪時は本気で心配している様子だった。




「まぁ、奥の手はまだある。最悪、俺の自爆もあるかもしれないけど。けどま、大丈夫、勝つさ」


「心配無用か。有栖川さんとやる前に負けるなよ?」


「あぁ。もちろん」


「そうだよ? あたしをあんなに手込めにしたんだから負けちゃだめだよ?」


「言い方に語弊ごへいがあるよ……」


 それから三人は第4アリーナをあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る