夢回路を抜け出す答え
ぐるぐる浮遊する虫を追いかけるかのように
夢は又同じ場所に私を連れ戻す
『此処は何処ですか』と訊いたのは幾度目だろう
彼方(あなた)は私と 先ほどもこの場所辺りで
同じ会話をした事を 覚えていらっしゃるか?
彼方は私の質問に 遠い黄昏時の夕日を眺めて
「彼方は誰ですか」と問いを問いで返した
『私は……――』何かを答えた そのはずだった
私は はたして名前を答えたのだろうか
それとも 問をされた事への反論だっただろうか
古い線路沿いの草が 横を通った電車に少し引っ張られた
同時に私が答えた言葉は消える 答えを遮られるかのように
彼方の口元が小さく微笑んで 指は少し低い空を示した
私はつられてその指の先を見る 先にあるのは一番星
橙色に染まった小さな町の風景は 意外と鮮明であった
夢で見た場所であって そうではない場所に立たされ続けた私
私にしか分からない 問いと答えをそっと薄月に手渡された
その瞬間に 一定のリズムが鳴り響く
カンカンカンカン 上下交互の赤い点滅
不安と焦りとその中の安堵 全てを鈍らせようと必死に鳴る
そして草が又 電車に引っ張られ
今度は折れ曲がりそうなくらいの姿で耐えている
『暗くなるのが早いから もうお帰り』
私の言葉に 彼方は頷き小さく笑う
そして彼方はきっと あの日の事は 何も覚えては居りますまい
覚えている必要なども 一切無いのですから
私は彼方を見送った 空は赤黒く 星は先より輝きを増していました
まだ漆黒には遠い空なので 満天にはほど遠いが
それでも輝く星空が 私の眼前に広がりました
嗚呼私もいい加減 帰らなくてはなりません
今はもう少し居ても良いような気持ちですが そうもいきません
私はこの回路を 抜け出さなければなりません
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