第9話 勝負しろ
抗体組織 東京本部
遊園地での騒ぎがあった後、仕事を終えたエージェントたちは撤収していった。
だが、一部の者達には、まだ問題が残っている。
本部の中の一室。
広い部屋、組織長の執務室の中で水菜は立っていた。
対面、机の前で椅子に腰かけている人物は、水菜の所属する組織のトップ。
未踏鳥だ。
水奈は呼び出された部屋で、組織長の言葉を聞いていた。
「まったく仕事だけが取り柄だというのに、役立たずだな」
「……」
水奈は呼び出された部屋で、ただ静かに言葉を聞いているのみだった。
目の前には不快そうに表情を歪めた男が絶え間なく文句を繰り返している。
それは、いつもの事だった。
取り立てて感情を荒立てることはない。
こうするのも組織のトップだというのなら必要なことだというのも分かっている。
だから、水菜は反論しなかった。
「何の為に拾ってやったんだか」
「……」
「この分なら身体強化のメニューを少し増やした方がよさそうだな」
「……」
「お前の価値を証明しろ、し続けろ。さもなくば切り捨てるぞ」
「……」
いつものように聞き流すだけ、そう思っていたのに……。
「こんな人間に師事を頼むあの者の気が知れないな」
「……、……」
「特別な力を手に入れたからといって、調子に乗るとは。確か動機が『良い人間の味方でありたい』だったか、笑わせてくれる」
黙っている事ができなかった。
水奈は自分でも気づかぬ内に、その男へと口出ししていた。
それは、ずいぶんとした事がない行為。
記憶の底に埋もれるくらい昔にしたきり、忘れていた行為だ。
「彼を、笑わないでください」
己の感情を遥か高みにいる相手へと意思をつたえる。
何も知らなかった時には、当たり前にできていた事が、なぜか今は容易ではなく、難しくなっていた。
その事を、一瞬だけ不思議に思う。
それは互いの立場ゆえか、それとも己をとりまく環境ゆえなのか。
意見を受け取った相手、組織長は一瞬口の端をひきつらせた。
そして、不快そうな様子を隠しもせずに、水菜に問いかけてくる。
「ほう、この私に口答えするのか?」
「彼はあなたに笑われるような事はしていません」
「ふ、撤回しないか。いいだろう、今一度現実というものを分からせて……」
酷薄笑みを浮かべて立ちあがりかけた時、部屋のドアが開いた。
「てめぇ、この野郎。勝負しろや!!」
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