第6話 能ある虎は威嚇する

可愛いは正義。

それは前世の私の貫いた信条であり、今世の私に今なお根付いている。


「可愛い」の前では幾らでも白黒逆転する。


しかしだ。


「シャーナ、シャーナ!」

「しゃーなはボクの!」

「シャーナ、遊んでシャーナ!オレ強くなった!」

「しゃーなはボクとおひるねするの!」

「オレ、おやじにプチってされてももう平気!!」

「しゃーなはぷちってしないもん!」


白と黒の両方に正義かわいいが存在する場合、私は何方どちらにつくべきだろうか。


私の目の前でじゃれ合いを繰り返す白と黒の仔虎。


萌える。



隣ムラに住む母の従姉妹が我が家に遊びに来たのはついさっきの事だった。

母の従姉妹は仔虎を連れてやってきた。

真っ白なクジャとは対照的な真っ黒な仔虎のヴァルを。

久々に見る、ちょっと成長した可愛い黒虎に私は喜んだ。

2匹並べれば、可愛さ倍である。

更に倍率ドンである。


それにクジャとは年も近かった筈だ。

仲良く遊ぶ姿はきっと私を悶えさせてくれるだろう。


そんな事を思いながら私は黒い仔虎の遊具になりながら婚約者殿の来訪を待った。


ヴァルは私の背によじ登り、ずりずりと滑り降り、時に私の腹に潜り込む。

子供とは、一人遊びの天才であるので、私はただ寝そべっているだけである。

私が仔虎の遊び相手として役立つのはこの程度の事である。


そろそろ眠くなってきたなと目を閉じると


「シャーナ、シャーナ」


黒い仔虎がてしてしと叩いてくる。


目を開ければ、どこか緊張した面持ちのヴァルがちょこりと座っている。


「シャーナは」


「しゃーな!!!」


べしっ


ヴァルの言葉を遮って、ちょっとした衝撃と共に視界が白に覆われた。最近聞き慣れた声と共に激しい音でもって私の顔に体当たりをかましたのは、言うまでもなく、我が婚約者殿である。


「クジャ……」


私の呼びかけにも答えず、顔に張り付いたクジャの身体からフゥっ!という威嚇音と共に爪が顔面に刺さる。


地味に痛い。


「しゃーなはボクのおよめさん!!!」


シャッ!!


なおも威嚇するクジャをどう剥がそうか、と考えていれば、


「オマエみたいなチビがウソつくな!!」


フシャッ!!と威嚇して返すヴァル。


「ウソじゃないもん!しゃーなはボクのおよめさんになるんだもん!!」


「シャーナはオレがもらうんだ!!」


そんな話は初耳である。


「シャーナママに約束したんだからな!!」


後で母に確認せねばなるまい。


「ボクはしゃーなにキュウコンしてかったもん!!」

「オマエみたいなチビはシャーナにプチってされて終わりだろ!」

「しゃーなはボクにそんな事しないもん!!」


毛を逆立て、爪を立てて威嚇しあう2匹。

この場合は、ヒロイン(笑)らしく、「私の為に争わないで」とでも言うべきだろうか。

あくまでも「ヒロイン(笑)」なのがポイントだ。


「ね?しゃーなはボクをプチってしないよね!」


「クジャ」

「しゃーな?」

「お前の爪が痛い」

「!?」


瞬間、四肢を広げた小さな白虎がぼてり、と落ちた。


「シャーナ!大丈夫か!?」

「しゃーな!ごめんね!」


黒白の仔虎が私の顔によじ登り、ぺろぺろと舐め始める。


ここでキュン死にしても後悔はない。


と、思いきや。


「オマエ!シャーナから離れろ!」

「おまえがしゃーなからはなれろ!」


今度は白黒2匹の本気の爪が刺さった。


「2ふたりとも私から離れろ」


ぐるる……。


瞬間、2匹同時に離れた。


ちょっと威嚇しすぎたらしい。


許してほしい。一応私もメスなのである。

どれだけサバイバルな環境で育とうと、「傷は勲章」などという何処ぞの軍隊的思想が、一般の虎のデフォルト的思想であろうと、顔に傷を作りたくない乙女心をご理解頂きたい。


そこ、笑わない。


そして子虎達はと言うと、ちょっと距離を置いたところで2匹がかたまってビルビル震えていた。先程の喧嘩具合が嘘のように息ぴったりである。


涙目の仔虎超萌える。











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