第22話
家々や岩が崩れる音。パニックになって叫ぶ声。そして、力強さに満ちた鬨の声。雑多な喧騒の中、瑛は造化三神と相対していた。
造化三神からあの小さな混沌の塊が生まれ、そして弾ける。弾けた欠片は地を穿ち、岩壁を砕き、建物を破壊し、篝火を散らす。それらを全て無駄の無い動きで避けながら、瑛は新神を生み出し、時に銀の剣を振るう。領巾が無くなっているのは、既に何かに変じて使ったからなのだろう。
黄泉国にいるからだろうか。攻撃の力が、以前見た時よりも強力な気がする。造化三神だけではなく、瑛も。元黄泉国の女王、伊弉冉尊であるから、力を発揮し易いのだろうか?
強力な力と力のぶつかり合いを目の当たりにして、仁優とメノはごくりと息を呑んだ。とてもじゃないが、手を出せる状態ではない。瑛に加勢をしようと一歩近付いただけで、巻き込まれて命を落としそうだ。だが、いつまでも眺めているわけにもいかない。
「瑛!」
攻撃が当たらないギリギリのところまで近付き、仁優は瑛に声をかける。チラと寄こした視線で、仁優が目的を果たした事を察したのだろう。瑛は最後の欠片を避け、造化三神が再び小さな混沌を生み出そうとぶるんと震えたのを尻目に駆け出した。仁優達も、それを追う。
「遅いぞ。何をやっていた!」
「何、って……寄り道とかはしてねぇつもりだけど……」
いきなりの叱責に戸惑い、仁優は困ったように答えた。すると、瑛はハッとし、それからバツの悪そうな顔をする。
「……済まない、少し長居し過ぎたようだ。……さっさと葦原中国に戻るぞ」
慣れているとは言え、やはり黄泉族ではない者が黄泉に長時間いると心に異変が起きるのか。いつもより若干焦っている様子の瑛に、仁優はいつもなら瑛からは感じない不安や脆さを感じた。
仁優の不安が伝わったのだろうか。メノが、先程までよりも強く仁優の手を握る。その感触に、仁優は頭を振った。
ここで不安を感じたら、きっとまたあの不快な声が聞こえてくる。さっきは何とか切り抜けたけど、もう一度何とかなるとは限らない。今度は、心が壊れてしまうかもしれない。
そうならないためには……余計な事を考えない事。不安も何も感じないように、ただ一心不乱に走り続ける事だ。
瑛が剣で宙を裂き、黄泉族の門を創り出した。仁優とメノは、勢いを殺す事無く門を駆け抜ける。その後に、瑛が続いた。
門が消えかけた頃に、三人を追ってきた造化三神がその場に辿り着いた。そしてその巨体を、閉じかけた門に無理矢理ねじ込ませる。こじ開けられ拡げられた門を通り、巨大な混沌の塊は黄泉国から姿を消した。
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