第12話
暗い暗い、場所があった。どこまでも暗く、自分の足元すら手燭無しには見れないような場所だ。
所々に設置された篝火が無ければ、本当に何も見えない、闇の世界であったろう。篝火のお陰で、そこがどのような場所なのか、何とか視認する事はできる。
そこは、蓋のある世界だった。岩山を刳り抜いたかのような空間だ。ぐるりと岩壁で囲まれ、その壁はずっと上まで続いている。上の方は、濃い闇によって何があるのか全く見えない。だが、光をちらりとも見る事ができないという事は……この壁が上部でそのまま天井になっているのか。陽の光が遠過ぎてここまで届かないかのどちらかなのだろう。だからこの世界は、闇で蓋をされた世界なのだ。
そこは、一見するとテーマパークなのではないかと思ってしまうような世界だった。篝火で照らされたこの空間には、大小様々な家屋敷が立ち並んでいる。それらに、時代的、地域的、身分的な統一感は全く無い。高床式の建物があるかと思えば、寝殿造りの屋敷もあり、唐風の家も見受けられる。何も知らない者がこの場に迷いこめば、様々な国、時代の建物を集めたテーマパークだと勘違いするかもしれない。
そんな空間の、最も奥まった場所に宮殿のように豪奢な建物が建っている。そしてその周りを、宮殿を護衛するかのようにいくつもの屋敷が取り囲んでいた。宮殿周りの屋敷は皆、シンプルではあるがしっかりとした造りであるように見える。
立ち並ぶ屋敷群の中の内の、ひとつ。宮殿のお膝元とも言える場所に建つ屋敷に入り、更に奥。屋敷の主と家宰しか入れぬであろうその場所の、寝室であるらしいその部屋で。
灯台の弱々しい光がひとつあるだけの、薄暗闇の中で、ひと組の男女が目合っていた。寝台が軋み音を立てる度に、男に組み敷かれた女の口から押し殺した悲鳴が漏れる。
男の顔が、灯台の光で照らされた。
男――ウミは、女を優しく愛撫しながら、懐かしそうに言う。
「……お前とこうして向き合うのも、随分と久しいな」
「……」
女は、口を噤んだまま一言も喋らない。……否、物言いたいのを堪えているのか。女は、ふい、とそっぽを向いた。
「そんなに怒るな。確かに、お前をこの寝所まで導き押し倒したのは、不意打ち以外の何者でもないが……ここへ来るのに、この展開を全く予想していなかったわけではないだろう? 何せ、私とお前の仲だ」
「……」
女は、やはり口をきこうとしない。ウミは苦笑し、そして、寝台がギシリと大きく軋んだ。女が、一段と大きな悲鳴を上げる。
「そうだ。もっと大きな声で啼くと良い。今から私が話す言葉を誰にも聞かれぬようにな」
そう言うと、ウミは顔を女の顔に近付ける。そして、銀のイヤーカフが光る耳に向かって甘い声で囁いた。
「……そうだろう? 瑛……」
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