2015年4月集

1


かつて頂天を目指した男の銅像が、少しずつ高みに向かって伸びている。



2


特に食事中、少女の絵が描かれた額がカタカタと揺れる時があり、たいがい箸が転がった時である。



3


彼に何を言っても一点張りで意見を変えずに押し通す、石のような頑固者を一度、ハンマーで叩き殴ったら、パキッと二人に割れた。



4


幼少の頃から彼は、その誰か頭に浮かべると近いうちにその人物が体調をくずしたり、影響を与えてしまう思考を持っており、誰かを想うことはもってのほか、住んでいる環境のことなど考えることは一切なく、自分のことだけをただただ思って、一人でずっと寝込んでいる。



5


そこんじょそこらで立ち小便をすると、男の場合、どこからともなくギロチンが降ってくる。



6


宇宙柄の卵を見つけた青年がはしゃいでいるうちに落としてしまい、宇宙が広がるのかと思って身構えたが何も起こらず、割れた卵から出た美しい青い黄身に触れると青年はその黄身に吸い込まれて、割れた黄身のない同じ場所に立っていた。



7


激しく降る雨がリズムをうち、そのリズムに誘われて男女のダンサーがその雨の勢いに負けないほどダンスをしていると、その情熱に感服した雲が切れ間を作り、スポットライトを当てた。



8


彼は誕生日になると、ケーブルをつなぎ、今よりも一段古くした新しい個体に意思を移す作業を毎年行っている。



9


科学者は、花粉がくしゃみではなく、笑顔を誘発させる薬を開発していた時、くしゃみの勢いで開発途中の薬を浴びてしまい、笑いが止まらなくなってしまった。



10


彼はベッドの上で、刻々と進む時計の針を見て、生きていることを実感している。



11


電波塔に登った彼女は、あらん限り身の回りの悪口を叫び、電波で遠くまで送り伝えた。



12


簡単に手を伸ばして取った果実は苦かった。



13


晴れた時より雨の日が好きな彼女は、一つの傘を二人でかぶったその短い距離が好きだった。



14


世界がどんななのか、色々聞かされていた彼女は、初めて目を開き、しばしば辺りを見回して、そっと目を閉じた。



15


登り始めたハシゴは、一段登るたびに下の段が落ちていき、降りることができない。



16


その電話から適当な電話番号に電話をかけても、適確な悪口を言われてしまう。



17


夜が明けなかった朝、彼は、沈んだ太陽を吊り上げようと霧モヤの中の縄を引っ張りあげると、繋いでいた太陽は悲しく小さくなっていた。



18


誰にも愛されなくなった彼は、唯一自分を見つめ続けて目の前から全く動こうとしない安らかに目を閉じ微笑んでいる地蔵に涙ながらに唇を合わせた。



19


心の壁隅に吐き溜めができてしまったので、壁を壊して流そうと思っていたが、逆に向こうから凄まじい吸引力で自分が吸い寄せられて、笑った。



20


彼女は、お金を振り込むと若返る機械に、どんどん振り込み、そうするために働きすぎて、疲れて年老いてしまった。



21


バラ色の人生を送りたいと思っていた少年は今、バラ園を経営している。



22


桜が散ってしまうのはもったないと着物に刺繍したが、この時期になるとその桜は着物から抜け落ち、床に糸くずが転がっている。



23


彼は積み重ねた自信が重くとも軽々歩めたはずなのに、自信が失われて身軽になったにもかかわらず、一歩も歩くことができなくなってしまった。



24


一日の始まりに今日のタイトルをつけて行動する彼だったが、殺人事件とふと頭に浮かび、後ろを向くと妻が何かを振り下ろしてきた。



25


ロマンに憧れた彼は、ロマンクラブを発足し、ロマンを研究していたが、単なる誇大妄想の塊になり、それが小説となって売れ、彼はひっそりと湖の畔で悠々自適にロマンをまだ考えている。



26


彼女は熱さを気にせず、腕を伸ばして石の付いていない薬指の指輪に沈む太陽をつけて、私たちの輝きだね、とつぶやいた。



27


突然、笑い出して、笑いが止まらなくなった彼女は、どうも魂をナメクジがはって、くすぐられている。



28


朝起きた彼女は、鏡に写る無表情の顔に、その日の気分で柔らかな微笑みの表情の皮を張り合わせて、仕事に出かけていった。



29


苦労してやっと登りつめた人生の階段でひと休みできるかと思っていたら、まだ真っ暗で先が見えない果てしない宇宙に続く扉と、絶景を見ながら落下するジャンプ台があり、彼はひと休みをして、登って来た階段をゆっくり降りて別の階段を探しに出た。



30


頭の中でバットをめちゃくちゃに振り回す彼自身と、散らかした物を拾うもう一人の彼では片付かず、頭痛に悩まされているが、次第に散らかす物がなくなり、スッキリして自分が誰だかわからなくなった。

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