七日間のショートショートストーリーズ

伊豆 可未名

猫と私の冒険

 ある日、猫に魔法をかけられた。猫が「ついておいでよ」と言うから、私は言われるがままに猫の行く方へとついて行った。山手線を一駅分くらい歩いたと思う。途中の踏切で猫はちゃんと止まって電車を待った。猫なんだから仕切り棒なんか簡単にくぐれるのに、私を気遣ってなのか、電車が来ることがわかっているのか知らないが、猫は二十分くらいその開かずの踏切の前で止まっていた。

 猫は諦めて線路沿いを歩いて行くことにした。しばらく行くと後ろで踏切が開いているのが見えたけど、猫は気にしていないみたいだった。冬の曇り空だったけど、ちっとも寒くなかった。

 猫は私にも食べられる魔法の食材をくれた。おいしかった。

「帰ろうか」

と猫が言う。どこに帰るのかと思ったが、猫は来た道を戻り始めた。私と出会った場所まで戻ってくれるらしかった。魔法の食材を食べながら、また線路沿いを歩いた。私と猫が出会った場所で、私は最後の魔法を見る。

 木々に飾り付けられたイルミネーション。それは今まで見た電飾のとは違う、色とりどりの魔法の欠片だった。

「きれいだね」

 私は初めて猫に話しかけた。猫は「にゃあ」としか言わなかった。

 その少し後、近所で猫が車に牽かれたという話を聞いた。助けた人が教えてくれた。血塗れの猫を動物病院に連れていったが、死んでしまった。

 私は猫が連れて行ってくれた道を探した。もう猫はいない。魔法もない。だから、私はその道を見つけられなかった。どこまで行っても住宅地が広がっているだけで、踏切も見つからなかった。

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