おまけ・マリー編

「マリー、私の正妃になることになったノルセルだ。ノルセル、マリーとエシオと、そして息子のアルベールだ」


「は、初めまして!」

「まぁ、あなたがノルセル様?なんて可愛らしいお方…」

「初めまして。よろしくお願い致します」

マリーやアルタイルの都合の合う日を選び、ノルセルは初めて3人と顔を合わせることになった。

入室前からど緊張していたノルセルだが、マリーにノルセル様と呼ばれ顔面蒼白になる。


「マリー様!私ごときに様を付けるなど…」

「あらあら…あなた様はアルタイル様の正妃様なんですから、付けない方がおかしいですよ?ノルセル様が私のことをマリーと呼んでくださるのなら、私も様を外させて頂きましょう」

「そ…そんな…!」

あわあわしているノルセルを見て、皆は笑いに包まれた。


「マリー、ノルセルをいじめてやるな」

「あら、いじめてなどおりませんわ。あまりにも可愛いものですから、ついからかいたくなってしまって…」

「えぇ!マリー様!」

皆の笑い声に反応したのか、アルベールは小さな手足をもぞもぞと動かした。


「…アルベール様、可愛いですね。両手におさまってしまいそうです」

そう言いながらも、遠目から見るだけで赤子に近づこうとしないノルセル。

「…ノルセル様も抱いて下さいませんか?」

「え…!いいのですか!」

「もちろんです」


「あぁ、でも…私なんかが触れたら、壊れてしまいそうで…」

「大丈夫ですよ、さぁ」

そう言ってマリーから差し出された赤子を、おずおずとたどたどしい手つきで受け取る。

(小さい、軽い…っ)

今までにこんなに繊細で、愛おしいものに触れたことが無い。

自分で産んだわけでもないのに、抱いた瞬間に全身から加護欲が湧き出すのが分かった。


ノルセルがアルベールを抱いたのと同時に、アルタイルが執事に声をかけられる。

「アルタイル様、こんな時に申し訳ございません。公務の件で少し呼び出しが…」

「わかった。すまない、少しだけ席を外させてもらう。…すぐ戻る」

そう言ってアルタイルは皆に礼をした後、ノルセルの頭をひと撫でしてから退室した。



(どうしよう…オレ、マリー様達と会うの初めてなのに…)

初めて会う人たちの中に取り残されたノルセルは、入室時以上に緊張している。


「…かわいいですね」

気の利いた言葉が何も出てこず、最初に言った言葉だが、今のありのままの気持ちをもう一度口にする。

「ふふ。ありがとうございます。この子はアルタイル様がいなかったら生まれることの無かった命です。どうかアルタイル様同様、この子を我が子のように接してください」

そう言われ、ノルセルは自分の腕におさまるアルベールをもう一度見つめる。

顔が下を向きノルセルの顔が近づいたため、アルベールの伸ばした短い腕がぺしぺしとノルセルの頬に触れた。

(可愛い…可愛すぎる…!!)

思わずぎゅっと強く抱きしめたくなったが、生まれたばかりの繊細な子にそんなことして怪我をさせてはいけないと、ノルセルは耐えるのに必死だった。

そんな光景をマリーは本当に嬉しく思いながら、エシオと2人、優しく目を細めた。



ノルセルが充分に可愛さを堪能した後、アルベールがうとうとし始めたのでゆっくりとベッドに横にし、マリーが寝かしつける。

ぽん、ぽん、

「…ノルセル様は私がどうしてこの国に嫁いだのか、ご存知ですか?」

ぽん、ぽん、と規則的なリズムでアルベールに優しく触れながらマリーが尋ねた。

「あ…はい。マリー様がエシオ様と一緒にいられるようにと、アルタイル様がお見合いや求婚をされないようにと…お互いの利害が一致した契約結婚だとうかがいました」

「そう…」

ぽん、ぽん、ぽん…


「…アルタイル様はね、そうおっしゃったけど…私は本当は違うと思ってるんです」

「……え?」

少しの沈黙の後発せられたその言葉に、ノルセルは首を傾げる。


「…アルタイル様はwin-winの関係だとおっしゃったけど…実際には私だけが得をして、アルタイル様は何の得もしていないんです」

「え…?でもアルタイル様は、マリー様のおかげで結婚の話をしてくるものはほとんどなくなったと…」

その言葉に、マリーは首を振った。

「それはアルタイル様の嘘です。だってそうでしょう?一夫一妻の国ならまだしも…一夫多妻の国ので政略結婚することの多い王族が、1人の妃を迎えただけで結婚の話が無くなるわけがないんです。ましてやまだ正妃がいないのだから、"この子を正妃にどうだ?"って話になるに決まってるのに…アルタイル様は私が死ぬとか大げさに言ったから、私のために、こんな結婚をして下さったんです」

(…確かに。マリー様の言い分も一理ある)

アルタイルの主張と食い違うが、マリーの言い分は正論すぎて、ノルセルは返す言葉に困った。



「子どもも…本当は、この契約結婚はよくても他人の子を生ませるのはダメだと反対されていたようなのに…アルタイル様はそんなことを私に知らせないどころか、子どもができたことに一緒に喜んでまで下さって。…だから、私はずっと、アルタイル様に負い目を感じていたんです。アルタイル様は約束通り私たちに幸せな暮らしを与えて下さったどころか、こんな風に子どもができる幸せまで教えて下さったのに、私たちは何もアルタイル様にお返しができないと…」

「……」


(アルタイル様は優しいお方だと思っていたけど…)

アルタイル様はずっと、どんな気持ちでいたのだろうか。

マリー様は何も返せないと思っているけど、アルタイル様はきっと本心から2人が幸せになることを願って、そして喜んでいたんじゃないだろうか。

だから2人が幸せになることこそが、アルタイル様にとっての最高のお返しになっているんじゃないだろうか。

ノルセルはそんな風に考えを巡らせる。きっとそうに違いないと思いながらも、それはあくまで自分の想像でしかないので、口に出して伝えることはしなかった。


「…だからアルタイル様が正妃様を紹介したいと、そうおっしゃって下さった時、私たちは本当に嬉しかった。アルタイル様が大事な人を見つけられたことが…そして何よりアルタイル様のあんなにも幸せに満ちた顔を見れたことが」

そう言って優しく微笑まれて、胸と目頭がじんと熱くなる。


「…どうかアルタイル様と末永くお幸せに。私たちはたとえ何があろうとも、この先ずっとアルタイル様とノルセル様の味方でおります」

「そんな…っ顔を上げて下さいっ」

マリーとエシオに頭を下げられ、ノルセルがあわあわとしているところに、ようやくアルタイルが戻ってきた。


「ア、アルタイル様…!」

「…?どうした?マリー、まだノルセルで遊んでいたのか」

「ふふ。すみません。あまりに可愛いものですから」

そう言って顔を上げたマリーは2人が並ぶ姿を目に入れて、満面の笑みを浮かべた。

2人の幸せそうな姿を見ることが、子どもが生まれた時と同じくらい、最高に嬉しかったのだ。




終   2015.7.26




(さらにおまけ)

その後、マリーとエシオはマリーの母国へ帰り結婚することとなった。

マリーの母国では多夫一妻が認められているため、アルタイルと離縁することなくもう1人夫をとるという、いわゆる重婚をとる形となった。

他国の王族に嫁いだ者がその形をとるのは異例だったが、その相手も重婚なのは異例中の異例だったため、国内外で話題騒然となった。

しかし離縁しなかったため、結婚で有益となっていた両国の関係は継続され、そして

アルタイルとノルセル、マリーとエシオとアルベールの5人の仲睦まじい関係も、生涯続いた。

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