第29話 花言葉は有り得ない

 『青い薔薇の作り方』

 翌日、更に一晩をかけて、文を繋いでみた。とある遺伝子学の研究をする科学者の話で、その科学者は同僚である一人の女性に恋をしてしまった。愛のしるしに贈り物をと自然界に存在しない、青い薔薇を贈ることに決めた。しかしその時代では遺伝子組換えを抑制しようと考える風潮が高まっていて、青い薔薇づくりもこれに引っかかる。科学者は強行を試みて、失敗し、国家から目を付けられる。なら宇宙で作ろう。そう考えた一人の科学者のロマンに世界中が巻き込まれて……


 今度こそ最高のものを書けたと、畑先輩に見せると、予め用意されていたかのように引き出しの中から山羊を取り出して、原稿用紙を一枚ずつ食べやすいようにちぎっては与え、ちぎっては与え、最後の一片になった私の努力の結晶を眺めながら、唐突に思い出した。


 「先輩、山羊に紙食べさせたら、お腹壊します!」

 「ああ、そうだった、失念していたよ、じゃこれ」と手渡されたのは物語の終盤の頁であった。『君のためにこの薔薇を作ったよ。受け取ってくれる?』と残った主人公の台詞がやけに悲しく私を睨んでいた。


 「鈴ちゃんさ」と先輩が椅子に腰を据えたまま、上目遣いで尋ねる。私の胸の高さに先輩の座高が重なる。変な意味じゃなく。山羊はむしゃむしゃと口を動かす。

 「はい?」

 「宇宙もの好きなの?」

 「大好物です」あれ、ほんとに好きだったか?

 「そ、じゃあまた持ってきてね」

 「はい」


私は演劇部室を後にした。メエエ。

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