第16話 雨の細道

猫ってのは勝手気ままでいけない

腹が減っては人に近づき

眠くなればそこが道端みちばたであろうと

悠々として短い足を折りたたむ

野良にいる時はなんでも口にする割には

飼われるとどうにも好き嫌いが激しくなる

厄介やっかいなことに猫は一種の誇りみたいなものを

持ち合わせている



「というわけで私は猫が苦手なんだよ……かといって犬派閥の肩を持つわけじゃないんだけどさ」


久しぶりに旧友から電話が来た

前の学校にいた時に仲良くなった女の子だ

彼女の父が転勤族らしく

1年の途中から入ってきた女の子


「わかるか……神谷かみやぁ……うちに猫を置くということが 」


電話越しの声は笑っている

同級生と談笑するのは久しぶりなので

私の方はどちらかといえば強張こわばって聞こえるだろう……


「ハハ あんたの憎まれ口が聞けて安心した」

「私はなにも変わらないよ、どこにいても何をしていても 」

「うわ くさい台詞だねえ 」

「神谷の方こそ明日は我が身じゃんか。猫の里親探しなんて交番持ってきゃいいじゃん」

「貰い手探すのも結構楽しいもんだよー」

「物好きか」


そうだった神谷とはこういうやつだ

生まれながらの奉仕人

去年クラスに入ったばかりの頃、神谷に「なにかはまってることとかある?趣味とか」と聞くと「お父さん」と応えやがった……私はすぐさま番号を交換したね こんな逸材逃してなるものかと


「で どうなの、神谷んちはもうそろそろ鞍替えの時期じゃないの」

「こらこら よその家庭をジョッキーみたいに言うんじゃないよ、そうだねうちもそろそろ引っ越すと思う 今度は北の住処になるって言ってたしねぇ もしかするとあんたんとこに近づくかもねー」

「来るなよ、神谷来たら私の街が猫だらけになる」

「もー あんたはまたそんなこと言ってー

じゃーまた今度ね 雨降ってきたから洗濯物が危ない バイバイ」

「ん……またね」

ガチャン ディリン


ふぁぁぁ……

もうれつに眠い


福井でも雨降ってるんだな……

実は雨の日は嫌いじゃない

密かに気分が上がる

何が良いかっていうと景色が変わる

生き物が住処を追われて表に出てくる

屋根が濡れる……

音が聞こえる 雨音はなんとなしに懐かしい

こんな日は風が予期せぬものを運んでくる

そんなイレギュラーさが私の心を惹きつけては離さないんだ……


麦茶と焼き芋を持って縁側で涼むことにした

だるような暑さも

さすがに雨にはかなわない

ホクホクの芋を湯気と一緒に頬張っていると

どこからかこえが聞こえた……


軒下に聲の主が居た

例に漏れず風が運んできたようだ

さて こいつをどうするか…………………ニャァ







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