第71話 モンスターを迎撃せよ

モンスターが集団で向かってくるというので、すぐに移動を始めた。移動先はブリセイダが目星を付けていたという場所へ案内してもらう。


「モンスターの群だなんて、なんでまた急に来るんだ。危ないやつらは追い払ってるはずだろ」


「急ではない、おそらく話していたニオイのせいであろうよ」


「ニオイ?あいつらの服についてたっていうアレか。それがモンスターを呼び集めたって言うのか」


「そうだ。ただ、集められるモンスターの種類は限られている。この森に群になるほど生息しているとは考えられない」


「でも群になってるのは本当よ。なんなら自分でも見てくれば?」


「それには及ばんよ。それで、その群はあとどのくらいでこちらに来るのだ?」


「まだ距離はあるけど、一部は確実に後ろから迫ってきているわ。アタシたちの通った道を正確に辿ってきてるわ」


「間違いなくニオイを追って来てるな。逃げ切るのは無理か」


「目的地が見えた。あそこに陣を据えよう」


そこは森の中でも広く拓けた場所だった。大きな段差がいくつかあるが、森に慣れていない俺たちにとってはこれ以上ない戦闘向けの場所だ。

戦えない人たちを高い位置に誘導し、残りは彼らを守るように配置する。

俺たちが前衛で敵を受け持ち、エルフたちには遊撃で敵の数を減らしてもらう。


迎撃の準備を整えていると、ザラが足をフラつかせながらやってきた。


「道を木々の壁でふさいできたわ。小さいのは抜けてくるだろうけど、大型の邪魔はできたはずよ」


「上出来だ。あとは俺たちに任せて、後ろでゆっくり休んでてくれ」


「そうさせてもらうわ。でも、必要だったら呼びなさいよ。思った以上に数が多いから、覚悟しといた方がいいわ」


「お、おう。わかった。みんなに回復薬を配っておくよ」


ザラがそこまで言うからには、半端な数ではないのだろう。この先のことなど考えずに、できることを全部やっておくべきかもしれない。


空いている場所に、アイテムボックスから木材を取り出して並べる。様子を見に来た男たちに手伝わせて、それを組み立て始めた。


「モンスターの先頭が見えた。あと数分で来るぞ!」


「わかった。後は俺一人でやるから、残りは配置についてくれ」


エルフの伝令と戦闘要員を持ち場にもどらせ、仕上げにとりかかる。

それの接合部には印をつけてあるので、やり方さえわかっていればプラモデルのように簡単に組み立てることができる。

最後に接合部分が外れないように止めれば、それが完成した。


「できた。ミミル、こっちに来てくれ!」


「グレイさ、呼んだか?」


「ああ、この上に乗ってみてくれ」


組み上げたそれの上にミミルを乗せると、感心したように声を上げた。


「うわあ、ここからなら前がよく見えるだなあ。グレイさ、こんなもの持ってただか」


それはいわゆるやぐらだった。弓などは高い位置からの方が狙いやすいし、遠くへ飛ばせる。森に慣れたエルフたちは木の上でも問題ないだろうが、ドワフであるミミルにはしっかりした足場が必要だった。


「そこならバリスタでしっかり狙えるだろ?こんなに早く使うとは思わなかったけど、せっかく用意したんだから役に立ててくれよ」


「おう、オラ頑張るだよ!」


ミミルはやる気のあふれた顔で応えてくれた。

あとは俺も頑張るだけだ。


「先頭、見えた。……思ったよりも多いんですけど!?」


俺が配置につく前に、敵がやってきてしまったようだ。いそいで敵が見える所までいく。


「弓隊、タイミングは任せる。とにかく撃ちまくれ!」


俺の号令を待っていたかのように、モンスターの群に向かって無数の矢が放たれた。

矢はことごとくモンスターに突き刺さり、よろめかせ、倒して数を減らしていく。


「だいぶ減ったな。よし、前列は腰を落として盾を構えろ。突進の勢いを止めるんだ!」


盾持ちは俺を中心とした5人ほど。2枚の大盾は両脇の男2人に渡して、俺はカイトシールドと呼ばれる大きめの盾を装備している。

両端は数合わせのエルフなので、中の3人で大部分を食い止めないといけない。


「さあ、来やがれ!」


【挑発】を込めて叫べば、反応したモンスターたちが俺を睨んだ。

うなり声を上げながら突っ込んでくるモンスターたちを、足を踏ん張って受け止める。両脇の男2人も、大盾を必死に押さえて耐えている。


「今だ、後列、かかれ!」


「行きます!」


後ろにいたパドマが槍を構えて前進し、盾の隙間からモンスターを串刺しにする。

貫かれたモンスターは悲鳴を上げて、地面へと倒れた。


「さあ、ワタシに続きなさい!」


「は、はい!」


戦闘は初めてなのだろう、槍を持って固まっていた者たちも、パドマの気迫に勇気づけられて前進してきた。


何人か腰が引けてはいるが、槍で突けばモンスターに傷を負わせられる。

俺たちがモンスターを押さえているので攻撃に集中できるためか、すぐに動きはよくなってきた。






ほどなくして、モンスターの群は殲滅できた。

傷の具合を確認すると、全員が軽傷で済んでいるようだった。


「フィー、大丈夫か?初めての実戦だけど、ヤバかったら言ってくれよ」


「ははっ、いえ、ぜんぜんだいじょうぶです。まだまだもっと戦えますよ」


言葉がどこか食い違っている気がする。

アドレナリンが出て興奮しているんだろう。動けないよりはるかにマシなので、無理しないように言うだけにする。


「みんなも念のため回復薬を飲んでおけよ。装備もおかしい所があったら交換するから言ってくれ」


「えっと、もう終わったんじゃないんですか?モンスターはみんな倒しましたよね」


「いや、たぶんまだ……」


言いかけた声に重なるようにして、見張りのエルフが声を上げた。


「第二陣、来ます!中型も混じってます、気をつけて!」


「終わりじゃないみたいだな」

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