第23話 気に入らないねェ!!

 

 アノコロワ~…


 背中に乗っていたコインをばら撒きながら弱々しく宙に舞い上がるカイコ虫。

 触覚や羽根がヨレヨレでかなりのダメージを受けている様だ。

 だがまだ時間遡及を発動する気配はない。

 恐らくもっと深刻な状態にならないと発動できない能力的縛りがあるのかもしれない。

 しかしこれは千載一遇のチャンスだ!


「行きますわよ~『ジャックポット』!!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』が高々とゴールデンハンマーを掲げると天空に裂け目が出現、土砂降りの黄金の雨が降り注ぐ。

 直撃を受けまたしても地面に押し付けられるカイコ虫。


 アッアッアノコロワ~ハッハッハッ!!


 堪らず時間遡及を繰り返すカイコ虫であったが例え身体が万全の状態に戻ろうとも大量のコインの重みにより地面でジタバタするだけだ。


「今ですわ!!」


「おうよ!! 『アイビーウィップ』!!」


 今度は『森の守護者フォレスト・ガーディアン』出番だ。

 地面のありとあらゆる方向から鋳薔薇の蔦が飛び出しカイコ虫を雁字搦めにして更に地面に貼り付けにした。


 アッノッコッロッワ~…


 苦し気な鳴き声を上げるカイコ虫の身体に蔦がめり込んでいく。


「おっと!! やり過ぎると切断しちまうな…」


 当初はこのまま切断でフィニッシュと思っていた『森の守護者フォレスト・ガーディアン』だったが、奴に時間遡及の能力がある限り例えバラバラになったとしても元通り復元する事だろう。

 ならば更なるダメージの為に拘束していた方が都合が良い。


「よし!! ツバサいいぞ!! 派手にブチかませ!!」


「はい!! ミドリさん!! 『エアバースト』!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』のステッキから小さな空気の球がカイコ虫に向かって放たれる。

 その球はゆっくりと進み、大きさも徐々に膨らんでいっている。

 そして遂にカイコ虫の眼前に到達した。


「さあこれで仕上げよ!! 『カマイタチ』!!」


 今度は先程とは打って変わって高速の衝撃波、クロスした空気の斬撃が追い打ちを掛ける。


「みんな逃げて!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の呼びかけに一同はカイコ虫から一歩でも遠くへ離れるべく一目散に離脱を開始。


 カマイタチが先に放ったエアバーストの空気の球を切り裂くと同時に物凄い大爆発が起こったのだ。

 強烈な爆風、その場に留まっていられない程だ…と言っても火薬が爆発した訳では無いので熱くは無い。


「うおおお!! 何だこりゃ~!? とっ…飛ばされる~!!」


 吹き飛ばされゴロゴロと転がる『森の守護者フォレスト・ガーディアン』。

 彼女はカイコ虫に少々近づき過ぎていた様だ。


 『エアバースト』で作られた空気の球は圧縮空気で、言うなれば空気の爆弾…そして『カマイタチ』がその爆弾を破裂させるための起爆の役割をしたのだ。

 動き回る敵には中々仕掛けられる連続魔法コンボマジックでは無いが『億万女帝ビリオネア・エンプレス』、『森の守護者フォレスト・ガーディアン』がカイコ虫を拘束してくれたからこそ出来た大技、チームプレーの賜である。


「凄い威力…立っているのがやっとですわね…」


 ゴールデンハンマーをアンカー代わりにして辛うじてその場に踏みとどまる『億万女帝ビリオネア・エンプレス』。

 目を開けていられない風圧が暫く続く。これではカイコ虫がどうなっているのか全く確認できない。


 やっと風が収まって来た…果たしてカイコ虫は…


 シャアアアアアアア!!!


 先程とは違う鳴き声…カイコ虫は馬面の巨大な芋虫に姿を変えていた。


「やりましたわ!!成功です!!」


「後は倒すだけだな…って…えええ!!?」


 カイコ幼虫は腹這いとは思えない程の猛スピードで地面を走り抜けていき、茂みの中に隠れてしまった。


「どうなってるの…?」


 カイコ幼虫を見失った『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』がキョロキョロしていると背中に強い衝撃を感じた。


「きゃあああっ!!」


 背中に当たった物…それは糸だった。あのカイコ幼虫が吐き掛けて来た物だ。

強い粘着力を持つ糸でグルグル巻きになった彼女はそのまま地面に落下してしまった。


「…うっ…ぐっ…」


 意識が朦朧とする『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「ツバサ~!!」


 ユッキーが心配そうに声を上げる。


「油断しましたわ…まさか成虫より幼虫の方が強いなんて…きゃああ!!」


 死角より高速で飛んできた糸に絡め取られその場に固められてしまった『億万女帝ビリオネア・エンプレス』。


「ああ…わたくしとした事が…」


「みんな!!」


 とうとう残るは『森の守護者フォレスト・ガーディアン』ただ一人となってしまった。

 しかし彼女は妙に落ち着いていた、しゃがみ込み地面に片手を触れる。

 辺りを警戒しつつ少し走っては地面に手を触れる…何度も繰り返した。

 その行動にはいかなる意味があるのか…。


「…うわっ…!! しまった!!」


 随分動き回ったがとうとう『森の守護者フォレスト・ガーディアン』も糸に捕らわれてしまった。

 結局魔法少女達はカイコ幼虫が隠れてしまってから一度も姿を補足出来ないまま全滅してしまった事になる。


「へへ…芋虫野郎…アタイが何もせずにやられたと思うかい?」


 不敵な笑みを浮かべる『森の守護者フォレスト・ガーディアン』。


 バクン!! ギョアアアアア!!!


 何処からとなく妙な音とカイコ幼虫の悲鳴が聞こえる。

 何と少し離れた位置でカイコ幼虫が巨大なハエトリソウに挟まれているではないか。

 ブスリと鋭い歯の様な葉が奴の胴体を数十カ所貫いている。

 これではもう逃げる事は不可能だ。


「近寄って来ないお前を倒す為にあちこちの地面に踏んだら起動する食虫植物のトラップを仕掛けておいたのさ…」


 グッ…ギョアアアア…!!


 巨大ハエトリソウの葉が完全に閉じ、茎がまるで生き物が食物を飲み込む喉の様に動きそのまま地面に消えていった。


「ふぅ~間一髪…」


 一気に脱力する『森の守護者フォレスト・ガーディアン』。


「お前ら!! みんなを糸から解放するんだ!!」


「おお~!!」


 ユッキーたちマスコットは魔法少女を救出すべく行動を開始した。


 時間が掛かったが何とか体に絡みついていた糸を取り去り一同は少し開けた草原の芝生の上で休息を取っていた。


「みんな良くやってくれた!! これでこの地域の作物は安泰だ、礼を言うよ!!」


「こちらこそありがとう…!! ミドリさんがいなかったら私達全滅してたもの…」


「本当にそうですわね…私に至っては怪我まで治してもらって…感謝の言葉もありませんわ」


「よせやい…照れるじゃないか…」


 笑い合う三人。

 満身創痍だが皆で協力して難敵を打ち倒した事で三人には強い絆が出来つつあった。




「フン…とんだ茶番だな…あの程度のカキン虫に苦戦するとは…」


「…誰…!?」


 皆が声のする方を見るとそこにはあの『大地の戦乙女グラン・バルキリー』が腕を組んで立っていた。

 傍らに突き立てられたマジカルフラッグがたなびいている。


「…あっ…あなたは…!!」


 彼女の顔を見るなり『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の表情が険しくなり身体が震える。


「ツバサさん…?」


「ツバサ…?」


 その様子を見た『億万女帝ビリオネア・エンプレス』と『森の守護者フォレスト・ガーディアン』はすぐに察した…。

 この目の前にいる魔法少女が『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の今置かれている状況を生み出した原因の一部を担った人物…。


「お前は…『魔法少女狩りマギカハンター』に襲われた時にツバサたちを見捨てて逃げた奴だろう…?話は聞いてるよ」


 『森の守護者フォレスト・ガーディアン』は『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を庇う様に間に割って入る。


「逃げたとは心外だな…自分の置かれた状況を的確に判断し各自撤退が最良の策であると判断しただけの事…」


 全く悪びれもせず堂々と言い放つ『大地の戦乙女グラン・バルキリー』。


「では…そのためなら周りの人間は犠牲になっても良いというのですか?」


億万女帝ビリオネア・エンプレス』も『森の守護者フォレスト・ガーディアン』と並ぶように『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の前に出る。


「自分の身を自分で守れない様な弱者には用は無いのでな…

 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』…貴様には失望したよ…魔法を使いこなすセンスはあるが精神が余りに未熟…!!

 これでは吾輩の目的を達する為の同志には成り得ない!!

 それに『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』…所詮魔力の劣る男に魔法少女など無理な話…実力も弁えずに最前線に出て来るから命を落とすのだ!!」


果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を指差し罵倒する『大地の戦乙女グラン・バルキリー』。


「…ううっ…うわああ…」


 顔を両手で覆い泣き崩れる『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。

 やっと落ち着き始めたツバサの心の傷を深くえぐった。


「あなた…!! これ以上わたくしの親友たちを侮辱するようなら黙っていません事よ!!」


 今迄に無い程激怒し声を荒げる『億万女帝ビリオネア・エンプレス』。

 しかし向かって行こうとする彼女を制止する腕が差し出される。


「何故邪魔をしますの?! わたくしは…!!」


「アタイはああ言う類の人間が一番気に入らないんだ…ここはアタイに任せてくれないか? アンタは病み上がりで本調子じゃないだろう…?」


 『森の守護者フォレスト・ガーディアン』は不敵な笑みを浮かべる。


「気に入らなければどうすると言うのだ…?」


 相変わらず尊大な態度でこちらを睨みつける『大地の戦乙女グラン・バルキリー』。

 しかし『森の守護者フォレスト・ガーディアン』も負けていない、ゆっくり彼女の目の前まで歩いて行き額が当たるほどの間近で睨み返す。


「『決闘デュエル』だ…お前に『決闘デュエル』を申し込む…」


「…よかろう…受けて立つ…」


 尚もにらみ合いを続ける両者。

 お互いの主張が真っ向からぶつかる…決着は『決闘デュエル』で着ける事となった。

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