第10話 強制的仲直り法?
今、ツバサの部屋には重苦しい空気が充満していた。
『
『
ファンタージョンから
「……………」
ツーンと右の方を向くチヒロ。
変身を解除しているので今はショートカットで前髪をヒアピンで留め、水色のワンピースを着ている…だが男の子だ。
「……………」
同じく左方向にそっぽを向くカオル子。
こちらも変身解除で私服状態、高価そうな金の刺繍の入ったブレザーとチェックのプリーツスカートのコーデだ。
「むぅ~~~~~」
不満げにツバサが変な唸り声を上げる。
30cm×30cm程の正方形のミニテーブルを三人で取り囲んでおり
真ん中がツバサで板挟みになっているものだから実に居心地が悪い。
残った一辺には白リスユッキーがちょこんと乗っかっている。
「ところでユッキー…初めにこれだけは聞いておきたかったんだけど…」
このままでは話が進まないのでツバサが話を切り出した。
「何でありんす?」
「ユッキーはやたらとあの守銭奴ラゴンの事について詳しかったけど
どうしてなの?…私達魔法少女のサポートの為に情報を調べて来たって感じじゃ無かったものだから気になってたんだ…」
「………」
一瞬ユッキーの表情が曇ったがやがて意を決して…。
「その話をするには俺たちマスコットの存在の秘密から話さねばならないんだが…」
いつもの癖のあるしゃべり方では無く普通に話し出し、脇に居るピグとダニエルの方に視線を送った。
「…何か事情がありそうですね…いいでしょう」
「…仕方ないな~本当は社外秘なんだぜ?」
二匹も承諾した様だ。
「実は俺たちマスコットは元々はファンタージョンの人間だったんだ…」
「「「ええ??」」」
ツバサとチヒロ、カオル子の三人が一斉にテーブルの上に乗り出し顔をくっつけユッキーへと詰め寄る。
一瞬たじろぐユッキーだがさらに続ける。
「…経緯はどうあれマスコットはみんな『マザー』に人間の頃の体と名前を渡す事を条件にマスコットと言う存在へと転生しているんだ…」
衝撃の事実…!!
「そんな…!!」
愕然とするツバサ。
無理も無い…そんな事普通は考えもしないであろうから。
「じゃあ…ピグも元は大人の男の人なんだ?」
チヒロがピグに問いかけた。
「…そうですよ」
「…今度からお風呂は別々に入ろうね…」
「………」
赤面してうつむくチヒロ。
「君は男の子じゃないか!いいじゃん男同士なんだから!」と言うツッコミを入れたかったがやめた。
ピグは何とも言えない残念な表情をした。
「ところでマザーとはどなたですの?」
二人のやり取りを無視しカオル子が疑問を口にする。
「…全マスコットの母と言うべき存在…しいて言うなら女神…創造主…
俺は守銭奴ラゴンに住んで居た村を滅ぼされ家族を殺された復讐の為に
自らマスコットになる事を志願したんだ…一緒に奴を倒してくれる魔法少女と出会うために…」
「もしかして…それが私…?」
ツバサの言葉にユッキーは無言で頷く。
「契約によりマスコットになった後は少女達に魔法を勧めて魔法少女に仕立て上げ、魔法を餌に課金をさせて『
ツバサに向かってペコリと頭を下げる。
「やっ…やめてよ~ユッキーらしくないよ?それに魔法少女になったのは
私が自分で決めた事だし…」
前に突き出した両手を振りながらユッキーに非が無いと言うツバサ。
この件に関してはお互い様、課金を勧められて我慢する事が出来なかったのはツバサにも原因がある訳で…本人も少しはそれは自覚していたのだ。
しかしここまで魔法少女の世界に首を突っ込んでしまっては今更辞められないのも事実。
だからこそこの守銭奴ラゴン大討伐は成功させなければならないのだが…
「それよりお姫ちゃんと金ちゃんに何とか仲直りしてもいらわないと…」
そう言いながらツバサは交互にチヒロとカオル子を見る。
「それは無理という物ですわ!!いきなり魔法で攻撃してくるような人なんかと協力なんて出来ません!!…それに二年前…
バン!!とミニテーブルに手を付き立ち上がるカオル子。
「それはこっちのセリフだよ!!いつも自分勝手で人の言う事を聞かない…それに二年前…僕をお屋敷から追い出したのはカオル子さんの方だろ!!」
負けじと手を付き身を乗り出すチヒロ。
ミニテーブルを挟み睨み合う二人。
頭上で火花を散らされているツバサには堪ったものではない。
「…う~ん…どうしたらいいの…?あ…」
ふとツバサの脳裏にあることが思い浮かぶ。
素早くユッキーを鷲掴みにして連れ出し、いがみ合う二人に背を向け部屋の隅で話しかける。
「いきなり何するでありんす…!!」
ついいつもの口調に戻ってしまう。
「…ねえ、聞きたい事があるんだけど…」
「…何でありんす?」
ツバサが神妙な顔つきだったのでそれ以上文句を言うのは止めた。
「さっき戦っていた時…二人に触った時に何だか二人の昔の記憶みたいなのが見えたの…」
ツバサはマジカルカードリーダーの画面の『リーディングエア』の文字をユッキーに見せる。
「『リーディングエア』は触れた相手の思考や記憶を瞬時に感じ取る事が出来るアビリティでありんすな
使いこなせればお互いの思いを嘘偽りなくダイレクトに伝え合う事が出来るでありんすよ」
「はぁ~…やっぱりね…じゃあこんな使い方は出来る?」
ツバサとユッキーはある妙案を思い付き二人のもとへと戻った。
「変身!!」
『カキーン!!ハイリマシター!!』
「ツバサちゃん!?」
「一体何ですの!?」
突然目の前で変身したツバサに驚くチヒロとカオル子。
「二人がこんな調子だと守銭奴ラゴンを倒せないでしょう?
一度、お互いの心の中を覗いて見たらいいよ!!」
「「あっ…!!」」
『
するとそこから眩い光が発生、三人を飲み込んでいく。
「ここは…!?」
気が付くと『
『…お父様…
とても広い書斎
大きな机に着き書類にペンを走らせている髭を蓄えた初老の紳士に話しかける少女。
年の頃は五、六歳、クルクルと巻き上げられた揉み上げ
小脇にはウサギのぬいぐるみを抱え、肩には高級そうなブラウンのバッグを掛け上目づかいに気味に紳士…いや父親を見ている
「これは…!三年前の
「ええっ…!?あっ…本当だ見覚えがある…」
目の前に突然展開した映像に驚嘆するカオル子とチヒロ。
「そうだよ…これは私のアビリティ『リーディングエア』で二人の心を繋いだの…この空間では嘘が吐けないから金ちゃんとお姫ちゃんは三年前、お互いをどう思っていたか確かめられると思うの…」
「…そう…」
『
妙にソワソワしてどこか落ち着きが無い。
チヒロはじっと唇を噛みしめていた。
『この間、外国の高級菓子や小遣いをあげて友達を作ったんじゃなかったのか?』
仕事の手を止め少女に問う
『あの子たちは次の日から遊んでくれなくなりましたわ…
ですから
少女はバッグから一冊の本を取り出し父親に見せる…タイトルは『赤毛のアン』
『あんなお菓子やお金をあげないと遊んでくれない子達じゃなくて
心から通じ合えるアンの親友…ダイアナみたいな子が友達に欲しいの!』
「…昔からお金や物でどうにでもなると思ってたんだ…」
「………」
チヒロはカオル子に軽蔑の眼差しを向けるがカオル子は無言で視線を逸らす。
友達に対する情熱を熱弁する少女、その熱意に負け父親が言う
『…分かった…今度お前と同じ年頃の子を我が家で預かる事にするから
その子と友達になればいい…』
『まあ!!それは楽しみだ事…!!ありがとうお父様!!』
父親に抱き着き満面の笑みを浮かべる少女であった…
「…まさか…これが切っ掛け…」
チヒロの表情が見る見る青ざめる。
そして映像が切り替わる。
『…済まない…チヒロ…』
半ズボン姿の幼いチヒロの肩に手をついてひざま付き謝る中年男性。
『…パパ…どうして!?』
涙ぐみながら叫ぶように問いかけるチヒロ。
どうやらこの中年男性はチヒロの父親の様だ。
『パパの会社が倒産して出来た莫大な借金を財前様が一時的に立て替えて下さるんだ…但しチヒロ…お前を財前様に預けるのが条件でな…頼む…分かってくれ…』
顔をくしゃくしゃにして頭を下げるチヒロの父親。
黒服に黒サングラスの男2人がチヒロを両側から掴み黒いリムジンへと乗せようとする。
『そんな!!そんなのヤダよ!!助けて!!パパ!!助けて!!』
チヒロも抵抗するが男達にはまるで歯が立たない。
簡単にリムジンへ乗せられてしまった。
尚も車の窓を内側から叩いて父親に助けを乞うチヒロであったが
防音加工がされているらしく声は全く外には聞こえない。
そしてそのまま無情にもリムジンは走り去っていった。
「…うう…ぐすっ…」
「…まさか…そんな…チヒロが
涙ぐむチヒロと愕然とするカオル子。
「…え~と…私…ここに居ていいのかな…?」
あまりの重い展開に戸惑う『
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