第6話 第5号 実戦向け魔法を使ってみよう(応用編)


「出でよ!!トルネード!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の魔法、『トルネード』は激しく渦巻く竜巻で敵を攻撃する魔法だが、それと同時にその竜巻で巻き込んだ敵の自由をある程度奪う事が出来るのだ。

 ハエに似た形態のカキン虫が3匹。

 竜巻に呑まれ洗濯機よろしくグルグルと為す術無く回っている。

ハエと言ってもかなりの大きさで

 猛禽類の鷹程の大きさがある。


「受けなさい!!ジェットストリーム!!」


 『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』が掲げたマジカルスタッフの先端にはめ込まれている宝玉から鉄砲水の様な激しい水流が竜巻ごとカキン虫を見事貫き霧散する。

  そして消滅した場所にコインが数個現れ、二人が懐にしまっているマジカルプリカに向かって飛んで行き吸収されていった。


 この様にしてカキン虫退治の報酬がダイレクトに回収され

彼女ら魔法少女は現金のチャージだけに頼らずとも何とか活動できるのだ。


 当然だが『週刊 魔法少女』の本自体は現金で買う必要がある。




「ふ~っ…今日も私達二人のコンビネーションで大勝利だね!」


 カキン虫があらかた片付いたのを確認し、一息吐きながら『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が微笑む。


「ええ…かなり息が合って来ましたね」


 それに対して『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』も微笑み返す。

 彼女たち2人がパーティーを組んで『ファンタージョン』に来るようになってもう数日が経っていた。

 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が『トルネード』でカキン虫を拘束後『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』が『ジェットストリーム』でとどめを刺す…この戦法が功を奏し二人はこれまで順調に戦って来れた。

 この戦法は『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』が提案してきたものだ。


「今日はこれで帰るね、私まだ『週刊 魔法少女 第5号』を買ってないんだ~じゃあね!」


「はい、また宜しくお願いします」


 お互い挨拶を交わし『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』はゲートを潜って現実世界へと帰っていった。


「ふふふ…今日も上手くいったね…」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』と別れた途端

いつもの丁寧で女性的な言葉遣いから一転、少年的な口調に変わる

虚飾の姫君プリンセス・イミテーション


「………」


「…?どうしたんだいピグ…何か言いたげだけど…」


 先程のつぶやきに対してジッと見つめてくるピグに違和感を覚えた

虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』はピグに言葉を掛ける。


「…なあチヒロ…こんなパートナーを騙す様なやり方…もう止めないか?ブヒ」


 ピグがオドオドとした態度で口を開く。

 ピグが言うチヒロとは恐らく『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』の本名なのだろう。


「何故…?騙すだなんて人聞きの悪い…効率よくイェンを稼いでいるだけだろう?それにこれはこの世界の…魔法少女のシステムを上手く利用しているに過ぎないんだよ」


 特に悪びれるでもなく答える『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション


「…あとでどうなっても知らないブヒよ?…」


「バレたらバレたで新たにパートナーを探せばいい事さ…」


 寂しそうに虚空を見つめる『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』であった…




「よし!!第5号ゲット~!!」


 両手で掴んだ本を宙に掲げて意気揚々と書店からの帰り道を歩くツバサ。

 今回は5月分のお小遣いが入ったばかりなので本を金額面で買いそびれる事は無かった。


「…なあツバサ…」


「何?ユッキー」


「この数日、『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』と組んでの戦闘の事なんでありんすが…ちょっと気になる事がありんす…」


 ツバサのショルダーバッグからひょっこりと顔を出し話しかけて来るユッキー、表情はどことなく険しい。


「へぇ~どんな?」


「魔法戦闘の決まり事の一つに、カキン虫に対して複数人が攻撃を加えた場合、最終的にそのカキン虫にとどめを刺した者に取得イェンの約9割が入って来る様になっているでありんす」


「それで?」


「気付かないでありんすか?!

ツバサはいつもトルネードでカキン虫の動きを止めてばかりで

とどめはいつも『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』の方でありんす!!

だからお前様は損をしている…悪い言い方をすればあの娘に利用されているかも知れないでありんすよ!!」


 余りにも人事の様に聞いて来るツバサに対して少し頭に血が上るユッキー。

 思わず怒鳴り付けてしまった。


「まっさか~!お姫ちゃんに限ってそんな事は絶対しないよ~

ユッキーは考え過ぎだと思うな~」


 あっけらかんとそう言い放つツバサ。


「…はぁ…どこまでもお人好しでありんすなツバサは…

後で後悔しても知らないでありんすよ?…」


 呆れかえったユッキーはモソモソとバッグの中に潜り込んでしまった。




「さて…今回の内容は…?」


 自分の部屋に帰るなり『週刊 魔法少女 第5号』を開く。




【今号は『実戦魔法 応用編』と称して

少し変わった用途の特殊な魔法を覚えて使って行きましょう】


・リプレイスメント(風属性 特殊移動魔法)…200イェン

・コピーLv1(無属性 分身魔法)…200イェン

・ブーストLv1(風属性 補助魔法2)…200イェン

・ダビングLv1(無属性 能力複製魔法)…200イェン


・今週のガチャ 何が出るかは回してのお楽しみ…500イェン




「…何これ?」


 使い道がイマイチよく解らない魔法のオンパレード。

 それに軒並み購入額が前回より上がっている。


「…これは…今回は買わない方がいいかな?先月みたいにお金が足りなくなっても困るし…」


 さすがに前号を買いそびれそうになった事で懲りたらしくツバサは魔法購入に慎重になっていた。


「その号に載っている魔法はその号限り…次の号が出た時点で購入不可能…後で必要になっても手に入らないでありんすよ…?

まあ時間はまだあるからよく考える事でありんす」


「またそういう事言う~!!」


 ユッキーはまるで深夜に放送している通販番組の様にこうやってツバサの購買意欲を駆り立てているのだ。

 ツバサはマジカルプリカの残高を見る。

 ここ数日の稼ぎもあるので何とか全部購入する事が可能だった。


『マイドアリー!!ユーカキンシチャイナヨー!』


『カキーン!ハイリマシター!』


 お馴染みの電子音が鳴り全ての魔法が購入された事を告げる。


「とほほ…」


 かなりのイェンを消費してしまい落胆するツバサであったが

すぐに気持ちを切り替え、お楽しみの課金ガチャを回す事にした。

 早速マジカルカードリーダーをタップ、インストールを開始。


『スタートゥ!!』


『ダラララララララララ…』


 ゴクリと喉が鳴る…そして何故か緊張してしまう。


『カシャン!カシャン!ドキューン!!』


『ゲット!!カマイタチLv1コングラッチュレイション!!』



「わあ…何か出たよ?これって凄いの?」


 喜々として目を輝かせるツバサ。


「ほほう…これは中級攻撃魔法でありんすな…

真空の刃であらゆる物を切り裂く魔法でありんす

ただ使用料もそれなりなので心して使うのがよろしいおす」


「…やっぱり…」


 分かってはいたけど…お約束ですから。

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