第17話 真VSハイライト
「……そんな、私の魔力は……やっぱり役に立たないの……」
ルナはその場にへなへなと膝を崩す。
たった一撃防がれただけで戦意を削がれた様子のルナ。
真は内心情けないと感じていた。
確かに不可思議な力で一手無効にされたかもしれない。
だが、そこからまた違う方法を考えなければただ無意に死ぬだけだ。
実戦なら思考を止める事はそのまま死へと直結する事を真はよく知っていた。
その辺りまだ少女はそう言う経験が余り無いのだろう。
「うん、悪くは無いね。魔導士は力の集中に時間が掛かると聞いていたけど、その速さなら魔力結石の扱いとほぼ同格だ。威力も魔力結石の力を増大させる魔力機さながら……でも手加減したね?」
「え……そ、それは」
「心配してくれたんだ?嬉しいね、でもその心配は無用だよ。何せ先にどんな魔力が来るか分かっていたわけだし……」
ハイライトは情報を開示した事を改めて嫌みのように言う。
ルナはその言葉に顔を俯かせた。
「魔力にはそれぞれ固有の力があるよね?だけどそれに同じ魔力を向けるとどうなるか、特に魔力結石マナマイトはその魔力が結晶化した物だ。となればこうなるのは当然だね?」
ルナはハイライトの言葉に何が何やらと言った様子だったが、真は今の話で先程起こった事態を何となく理解していた。
(つまり同種の魔力は無効って訳か……)
魔力マナとはエネルギー。
魔力結石マナマイトとはそのエネルギーが結晶化したもの。
つまりルナの放った水の魔力はハイライトが恐らく手に持つ水の魔力結石の養分になってしまったと考えれば今の事態も多少納得できた。
あくまで根本の原理をオカルトファンタジーと捉えればの話だが。
「……うん、でも良かったよ。後はゆっくり経験を積んで、学んで、成長していけばいい。君は今日から立派なギルド員だ、階級はDの三級。資格証が出来るまで受付でも二階のロビーでもゆっくり待っててね。まぁ、あれなら次の彼の試験を見ていってもいいし……」
ハイライトはそう言うと、初めて真へと視線を向けた。
それに釣られる様に不本意ながらハイライトの言葉に納得したルナも後ろを振り返る。
「……あっ、貴方はあの時のっ!?」
ルナがそのつぶらな目を大きく広げて真を見る。
今まで緊張していたのか真の存在には全く気付いていなかった様だが、真にはそのルナが発する言葉の意図する所が掴めなかった。
「何だ、君達知り合いかい?同胞……って事も無さそうだけど……まぁいい。君はシン、だったかな?魔力結石マナマイトの扱いは無しで武術試験のみだね、じゃあ行ってみようか……悪いけど同性には遠慮しないよ?」
よく喋る男だと真は思った。
端整な顔立ちからモテるのだろうか、口の方も中々に達者だ。
真はその言葉に特に何も返さず、視線を向けたままのルナの横を無言で進んだ。
「武器は何が得意かな?そこから好きなのを選んで」
ハイライトが向けた視線の先には鎖の掛けられた棚があった。
何と無しにそこへと歩み寄る。
武器は細身の剣から刃先の短い物、とても片手では持てないような大きな剣に斧、槍、弓と原始的で有りながらもその種類は多岐に渡っていた。
思わず元素を収束させた時に出来上がる刀に近い形の剣を手に取った。
(……案外重いな)
元素を収束させた物にも多少の重量はある。
物質は全てその原子量の数で重さが決まるのだから当然だ。
だが普段真が使用しているのは科学の力によって無理矢理結合させた純粋な単元素のみ。
それに対してこの鉄の塊でしかないような剣はまともに扱えるかと言う不安を真に抱かせた。
「……ファルシオンか、じゃあ僕もそれで行こう」
いつの間に近付いたのかハイライトも隣で真と同じような剣を手に取り、先程の立ち位置まで踵を返す。
真も場の流れでルナがいる辺りまで距離を取った。
「あ、あの……貴方は、シン様、私……覚えていますか……あの、村で助けて頂いた……」
「……え、と……」
これから試験が始まると言うそんな最中、ルナは必死に真へと自分の存在を主張して来る。
その様相は当に必死とも受け取れたが、真にはその少女の存在が記憶の中からすっぽりと抜け落ちていたのだった。
「話は試験の後でしたらどうだい?」
「……あっ、ご、ごめんなさい」
ルナはハイライトの言葉と真の何とも煮えきらない態度にはっとして室内の後ろへ下がり、教官と真を見守った。
真は既に忘れてしまっているのだがルナはかつて真が転移した最初の場所、村でただ一人の魔導士として皆からその期待を一身に背負い、初めて対峙した魔物ブルーオーガの大群に絶望していた少女だ。
ルナにしてみればもう駄目なのだと諦めたそんな矢先に颯爽と現れ、自らの最大の力が及ばなかった魔物を一瞬にして一刀の元切り伏せた真を英雄の様に憧れここまで追い掛けてしまいたくもなるだろう。
だが結果的に話しかけたその相手は曖昧な態度であからさまに誰だとでも言いたそうな顔、自分を覚えて貰えていない事へのショックと同時に何故都のギルド員であった筈の真が自分と一緒にギルド登録試験を受けているのかルナの頭は錯乱状態にも近い筈である。
「じゃあいつでもどうぞ、シン君。君の実力を見せてくれ」
真はルナとの不思議なやり取りを意にも介せず試験を進めようとするハイライトの言葉を受けて我に返った。
今は試験中であり、それは即ち戦闘の真最中だと。
慣れない剣を片手に持ち、過去に古武術剣技を教えられた時の記憶を手繰り寄せる。
――――一太刀振ったら殲滅まで
そんな言葉を脳内で反芻し、真は腰だめに剣を構えてその一歩を踏み込んだ。
一間の攻防。
真の振るった剣は容易くもハイライトの構えた剣によってその軌道を止めざるを得なくなった。
今までの切れ味とはまるで比較にならないそれ、今や真に取ってはただ重いだけの手荷物でしかない。
だが真もそのままで終わる程未熟ではない、そのまま剣の刃を滑らせながらハイライトの剣筋を逸らし直ぐ様下段からの切り上げ。
スピードの乗らない剣筋はハイライトのスウェーによって躱される。
「おっと……まだまだ粗いねぇ、でも動きはいい」
切り上げを躱された所に出来た隙を狙ったハイライトの胴薙ぎが迫る。
真はそれを予測していた様にバックステップで避けようとした――――が。
(……重いっ!)
予測しているよりも剣の重量が真の動きを鈍らせていた。
鍛えているとは言え加速システムも使用していない合金製ブーツはそれも真の枷となる。
このままでは、と思った刹那真は反射的にその鉄の塊、剣を手放し真横へと転がってハイライトの剣撃を寸での所で躱す事に成功した。
「……おいおい、剣士が剣を手放すなんて……命を手放すのと相違ないよ?」
ハイライトは自ら振っていた剣の剣先を床に付け、もう一方の手で真が放った筈の剣を掴みながらそう言った。
「……剣士と言える程でもない」
「んー、確かにそうだねぇ、でもその目はまだ全然って感じに見えるな」
真の扱う物は剣であって剣に在らず。
あくまで地球の科学技術によって構築された刀の様な形をした分子でしかない。
本格的な、本物の剣をこの世界でその道のプロフェッショナルと同じ様に扱う事等今の段階で出来る筈もないのだ。
だが戦闘に関して真は地球で、荒廃したあの日本で数少ない選ばれし戦闘人員。
このまま終わらせるつもりも毛頭なかった。
ここで科学技術を使ってしまうと言うのも一瞬考えた真だったが、ここはあくまで実力を見せる為の試験、命のやり取りをする場ではない事を冷静に思い出す。
真はハイライトから少し距離を取ると、合金製ブーツを脱いで揃えハイライトを視界に捉えたままゆったりとした構えを取った。
「へぇ…………もしかして無手流かい?少し構えが違うが流派によるからな……リヴァイバル王国出身とはね、こんな所で同胞に会えるなんて……光栄だよ」
(……まさか、こいつも?)
真の視界には二本の剣を投げ捨て、両手を前に出したまま腰を落として構えるハイライトの姿があった。
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