第9話 科学の及ばない力


(今のは……何だ)



 此方を見据えながら薄ら笑いを浮かべる男を見詰めながら真は目の前で起きた出来事に思考を巡らせていた。


 銃等の火器を持っている様子は無かった筈だ、手に何かを握っている様には見えたがそれが光ったのは何か。

 電磁砲とは違う、明らかに火の、塊が、真に向け飛んできたのだ。

 そんな事象が可能な武器が過去の地球にあっただろうか。

 出来ない事は無い、だが手に握り締めている時点でそれは不可能と真は判断せざる負えなくなっていた。



「俺も、やるぜ」



 ふと先程剣の峰を叩き折られ蹴り飛ばされた筈の男がよろよろと立ち上がりそう呟いた。


「情けねぇなリック、お前はそこであいつが燃え尽きるのを見てな!」

「冗談じゃねぇ!もう殺してやる、この魔力機マナコアにいくらかけたと思ってやがる!このくそがぁあ!」



 折れた剣を構え直した男はそれを振りかぶりながら真に迫った。

 懲りない奴だ、とそう真が相対する構えをとったそんな刹那。


「炎舞断!」


 突如男の折れた筈の剣身が燃え盛り、炎と共に真に向け降り下ろされた。



「っ!」


 咄嗟にそれをバックステップで躱すが、火炎を纏った謎の剣による横凪ぎの追撃が真のメッシュアーマーに掠る。

 だが生憎とこのメッシュアーマーは断火断熱性、耐久柔軟性に優れ通気性も良く、腐食もしない超軽量型特殊防具だ。

 メッシュなので多少の熱は感じてしまうが刃物による攻撃等、ちょっとした傷を付ける程度にしかならない。


 だが真はこの事態に少なからず動揺を隠せないでいるのも事実だった。

 額に汗が一筋垂れる。

 それは眼前で燃え盛る炎の熱か、それとも焦りか。


 真は必死に現状を把握しようと勤めた。



 剣から炎が上がる事象。

 出来ない事は無い。例えば剣からブタン、アセチレン、何でもいいが可燃性ガスを噴出させ放電か何かしらの方法でそれに着火させる。

 だが目の前に燃え盛る剣の炎はその勢いを止めてはいない。

 剣の例えば束にそこまでの容量のガスを圧縮して封入させられるだろうか、否である。

 元素には決まった原子量が存在する、どこまで圧縮させようとも限界はあるのだ。


 とすれば一体どんな方法でこの剣は炎を纏っているのか。

 そもそもここまでの炎を纏い続けて尚剣が熱で溶けるような様子は無い。

 ただの鋼性に見えるが違うのだろうか。


 幾つもの推測が浮かんでは現状を見る度に打ち消されていく。

 真の知識で現在の状況を分析するのは最早不可能だった。



「おらぁあっ、ぼおぉっと突っ立てちゃ話になんねぇぜぇっっ――――ぅぶっ!?」



 炎纏う剣が横凪ぎに振り払われ、隙だらけの男の肋に蹴りで一撃食らわせ他の仲間の元まで吹っ飛ばす。

 男は地面に踞り、その剣から吹き出る炎も霧散していった。



「……訳が、わかんねぇ」


 真は不可思議な出来事に一旦思考を停止する事に決めた。

 今はどうあれ戦闘の最中だ。

 ただ目の前で振るわれる物がいかなる力であろうとも臨機応変に、ただ今の自分に出来る最大限の対処で切り抜けるしかない。


 真はいつだってそうしてきたのだ、剣から炎が出ようが火弾が飛んでこようが、見える、動けるならやりようはいくらでもあった。



「っち、役立たずがっ!てめえらも魔力でやっちまえ、一斉射撃で奴を射抜くっ」


「は、代頭っ!自分達、魔力結石マナコア持ってないっすよ!」

「馬鹿がっ!そこに集めてんのは何だと思ってんだ、水の魔力結石マナコア位使えんだろうが!」



 リーダー格の男に何やら怒鳴られた男達は一斉に一輪車に積み上げた鉱石らしきものを次々と手に取り、此方へと翳す。


「やれっ!」

水の光矢ウォーターレイ!」



 男達の掲げたその手からは淡い水色の光が漏れ、刹那矢の様な水弾が真に向け放たれた。


 先程の火弾とほぼ同じ速度で迫り来るそれは男達の数だけ放たれ、瞬く間に数十本へと数を増やす。

 冷静にそれを見極め、致命傷になりうる軌跡の物を幾つかを避けるが全てを避けきる事は困難だった。


「ぐかっ!」


 3つほどの水矢を胸に受け、衝撃が全身の神経を駆け巡る。

 ただの水弾でありながらその衝撃は言うなればソフトボールを投げつけられた程度の物である。



「ハッハァアッ!ぶっ殺してやるぜぇっ」



 意外だった。

 目の前の不可思議な現象に少しばかり畏れを感じたのは事実だ。

 地球であればただの水であろうと高圧で放てば硬い石像でも切断できる、メッシュアーマーですら保てるかと言う不安は拭えなかったのだ。



 だが実際にその身でこの男達から放たれた水弾はどうか。

 メッシュアーマーによる衝撃吸収も大きいのだろうが、この程度の水圧ならアンドロイドキルラーの超合金アームによる打撃の方がよっぽど生死に関わるだろう。


 真にとって拍子抜けも良い所だった。



 不思議な現象は後々考える事にして、とにかく今はデバイスとブーツの回収だ。

 それからこの街では情報も得ずらい、都とやらの場所でも聞いてここを出ようと真は考え全力を持ってこいつらを制圧しようと構えた。



「やっちまえっ――――」

「何してるッッ!!」



 と、リーダー格の男が周りの男達に再び水弾放射の合図をとった刹那、真の背後から洞窟内全土に響き渡るような金切り声の様な怒声が響いた。



「おっ……お頭っ!?」

「お頭」



 その声に男達の動きが一切停止する。

 真もそれにつられる様、ゆっくりと背後を振り返った。



「お前ら…………これは、何だ?」



 栗色の髪を後ろで一つに纏めた女。

 端正な顔立ちに銀色のプレートはその豊満な胸を何とか押さえ付け、下も女性の大事な部分だけを隠すように付けられている。

 女性である事を確実に認識させる脚は太股から露出されているがその姿はまさに西洋の騎士さながらだ。


 女は片手に一人の男の襟首を持ち引きずりながら驚愕と怒りが混同したような表情でリーダー格の男を睨み付けていた。


 女がゆっくりと此方へ歩みを寄せる。

 引きずられている男はとうに意識を無くした様子で無力な人形の様にズルズルと地面に体を擦り付ける。

 見れば昨日の宿屋の男の様だった。



「か、頭……帰ってたん――――」

「これは何だと聞いている!ザックッッ!」


「くっ!」



 見るに恐らくリーダー格より更に上、そう言えばこの男が代頭と呼ばれていた事を思い出す。

 そしてこの女が本当の頭なのだろう、真はそう予測し現状に頭を混乱させた。


(……全く、面倒な事になったな)



 睨み会う二人のリーダー格であろう男と女、怯える周りの男達。

 それに挟まれ真は所在無さげに構えを解いた。

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