その科学は魔法をも凌駕する。

Sinbu

異世界転移

第1話 駆ける戦場

端末起動デバイスオン戦闘状態バトルフィールド展開オープン


 戦闘状態バトルフィールドを展開する。

 携帯端末デバイスから捕捉元素を識別、一覧を確認。


 N、C、H、O……と幾種類もの元素記号がディスプレイに並ぶ。

 その中からいつも通りにCを選択。


「粒子結合、安定……カーボナイズドエッヂ」



 炭素原子を一気に収束させ、それを予め組み込んである構図通りに形成させる。

 手の内にはまるで最初からそこにあったかの様に黒々しく、流曲した日本刀の様な物が存在を現した。



「……加速システム」


 履いている灰色の合金製ブーツへ携帯端末デバイスから反磁力発生を指示し、真の体は一気に前進した。


 眼前に阻む防衛システムコンピューター、通称アンドロイドキルラー。

 対戦闘用に特化されたその外観はまるで大昔のアニメに出てくる機動戦士、その装甲はタングステンカーバイド製。

 いわゆる超合金である。


「……っ、ジョイントすらこの固さかよ」



 アンドロイドキルラーの装甲が超合金とは言え、その接続部分は稼働領域である。

 だからそこまで硬度は保てないと、真はそう踏んでいたのだが、どうやら見込みが甘かった様だ。



 さすがに最深部の超重要施設だけあり、設備費用には莫大な投資がされている。


 磁力反発による加速とカーボナイズドエッヂによる切削を最後の防壁であるアンドロイドキルラーの装甲はものともしなかった。



「その首ごと切り落としてやる。出力強化、戦闘状態バトルフィールド拡張オーバーフロー



 アンドロイドキルラーから一端距離を取り、携帯端末デバイスを素早く操作する。

 だがその間にもアンドロイドキルラーは標的と見なした真を目掛け拡散波動放電エレクトロニクスをその腕から放って来た。



「収束安定、ダイヤモンズドエッヂ!」



 ギリギリの所で携帯端末デバイスが拡張された戦闘状態バトルフィールドからCを追加捕捉し、透き通る刀を掌に出現させた。

 浴びせられる拡散波動放電をダイヤモンドエッヂで切り捨て、そのまま加速システムでアンドロイドキルラーに肉薄する。



「邪魔だぁ!」



 刹那、アンドロイドキルラーの頭部らしきそれは滑り落ちる様に切り落とされ僅かな放電を見せながら本体もろともその場に倒れ込んだ。









 日本閉鎖隔離。

 高度な科学技術は人類を滅亡へと導くのに十分すぎる要因と成り得た。

 全ての労働が機械化され、人々は働き口を無くした。

 機械操作、プログラム開発、それすらも全てコンピューターが行う様になった世界。


 日本は焦りすぎた、世界の発展に追い付く為、科学技術を発展させ過ぎた。

 科学技術の発展は生活をより豊かにする反面、使い方を間違えれば全てを無に返す事すら不可能にはならないのだ。


 あるクラッカーによって最先端科学技術の設計図は日本のみのローカルネットワークに流出した。

 それを使い世界を滅亡に導く為の機械が生まれてしまってもそれは誰も責められない。



 海外の国連は日本がひた隠しにするその事態を逸早く入手し、科学技術の規制と情報保持を完全に行った。




 そして日本は信頼を失ったのだ。


 科学技術の情報のみを国連加盟国らに奪い取られ、見捨てられた、そう言えば早いだろう。



 日本は悪のプログラミング組織、デスデバッカーによって統率を失い、対武力によって破滅の一途を辿ったのだ。



 だがそれに対抗する組織も当然出来上がる。

 レジスタンス、フォースハッカー。


 日本はその組織によって二等分し、他の国々から見捨てられた島国の中で少ない命の取り合いとなっていた。



 そしてそんな中でデスデバッカーはある物を開発していた。

 粒子分解移転装置、身体を構成する分子を粒子化分解し、他の場所にて再構築する技術。


 これを利用し、特殊シールドで保護された日本外への脱出と他国の圧制を目的として。


 だが今度はそれを巡り二つの組織はぶつかり合う。

 日本の人口は残り僅かとなり、真を含む四人のフォースハッカーと十人のデスデバッカーのみとなってしまっていた。



 だがフォースハッカーはただその粒子分解移転装置を奪うのが目的ではない。


 最終目的は



 ――――真、時間がないわ。複数のアンドロイドキルラーを捕捉、急いで



「……あぁ、わかってる!」



 携帯端末デバイスから仲間の通信が入る。

 それに愛想の一つもなく返事を返す真。



 ――――貴方が頼みよ……歴史を……頼……



 ノイズによって通信が遮断される。

 通信妨害だろう。だがもう遅い。



 真はアンドロイドキルラーが守っていたデスデバッカーが作成した粒子分解移転装置へ入り込むと、仲間から託されたデータをその装置にアウトプットした。


「くそ……通信回復はまだか」



 通信は恐らくデスデバッカーによって妨害された。

 だがフォースハッカーのメンバーも馬鹿ではない、すぐにまた通信ブロックを解除してくるだろう。


 しかし装置のガラス越しにアンドロイドキルラーの大群が此方へ向かってくるのが見え、真はもう時間が無いと悟った。



「もう間に合わない、スイッチは」


 緑色のon、グレーのoffとemergencyと刻印された赤色のボタンがある。

 恐らくはonだろう。


 装置の操作に関して無知にも近い真は仲間からの指示を受けたい所であったが迷っている時間は既にない。

 ここまで来るのにどれだけの苦労があったか、そして次のチャンスは恐らくないのだ。


 フォースハッカーの目的はこの粒子分解移転装置にあるデータプログラムを追加して次元移転を行う事にある。

 歴史を変えてくれと、そんな最後の想いを託された真。


 歴史を変えなければならない。

 科学技術が発展しきる前に、この未来の現状を過去の人間に、過去のフォースハッカーのメンバー達自身に伝える為に。




「どうにでもなれって……どうせこのままじゃ何も変わらない」



 実際真自身もう死ぬ事に躊躇いは無かった。

 愛した者を奪われ、何もなくなったこの国にもう思い残すことなど無いのだ。

 フォースハッカーのメンバーも恐らく同じ事を思っているだろう。


 だからこそ、ならば最後にと、これはそんな意趣返し的な行為なのだ。

 真は迷わずonと刻印された緑色のスイッチを押した。



 刹那、視界が眩い光に包まれやがて真の意識は霧散した。







 気付けば眼前に鮮やかな萌木色の大地と雲ひとつ無い青空が広がる。

 十年振りに見るそんな空の色は転移を成功させたと言い聞かせるに十分だった。



 しかしどの辺りに転移したのか。 

 周りを見る限りそこは集落の様にも見える。

 平和を造形したかの様な雰囲気、ポツポツと佇む藁葺き屋根。

 少なくとも都心ではないのは確かだがそれにしても今まで真がいた日本では考えられない程古めかい家屋は構造物と言うには無理がある程だ。

 かろうじてそれが家屋だと分かるのは木材ながら扉と言えるものが付いていたからだろう。


 フォースハッカーのメンバーは数十年前の地球、と言う星に座標を合わせるので精一杯と言っていた為下手をすると日本ではない可能性もある。




 ――――ブルァァャゥゥゥッ


「あぁ?」



 と、その時だ。

 建ち並ぶ家屋の先、集落の何処からか何かの叫び声とも呻き声とも取れる鳴き声が聞こえてきた。

 動物か何かだろうか、聞きなれない声だけに現状把握に不安が拭えない。


 とにかくここが何処か、日本か海外かも分からない上いつなのかも分からない。

 真は兎に角声の聞こえた場所へと足を向けることにした。



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