第10話
家を飛び出してから数時間、辺りは暗くなりほとんど見えない。
街にいた人は次々にあの生物に刺されていった。
そんな中俺が逃げ切れているのは俺に寄生しているハリガネムシのおかげだ。
{まーえ}
俺は十字路を右に曲がった、生物が俺のいた場所を勢いよく通りすぎていった。
{みぎー}
「またか……」
俺はハリガネムシの指示通りに走り出した。
街はまるで廃墟と化していた。
生きている人はほとんどいない死の街だ。
燃え盛るビル、人の死体、黒い街の中一つだけ白い物が見えた。
その白い物はこちらに近づいている。
{しょう……めん?}
「まさか……あれもか!?」
急いで左に曲がる。
「……ふう」
額の汗を拭った瞬間目の前にあの白い物が飛び込んできた。
「なっ!?」
反射的に果物ナイフを構えた。
「へ!? え? なんで、なんでナイフ!?」
飛び込んできたのはあの生物では無かった、ポニーテールの白衣の少女だった。
「…………」
少女は俺を睨みながら小さい銀色の物を取り出した。
「……メス!?」
生物学上の雌ではない、医療用のメスだ。
「….………」
少女はメスを俺に向けながらジリジリと近づいてくる。
「いやっ、間違えだ! あの生物かと思ったんだよ」
「……信じられない」
「えーと、じゃあ」
果物ナイフを地面に置いて両手を上げる。
「…………」
「…………」
睨みあいの後少女はメスをポケットに直した。
「…………」
しかし少女は警戒を解かない。
「えっと……」
どうにか弁解しようとした時頭の中で声が響いた
{みぎ、くる}
「やばっ」
俺はとっさに少女の手を掴んで走りだした。
「何、なに!?」
戸惑う少女を無理やり引っ張った。
「何なの……」
抗議しようとした少女の近くをあの生物が通った、さっきまで俺達がいた場所だ。
{ひだり}
「こっちこい!」
俺は少女の手を掴んだまま走り出した。
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