第2話
「さてと……」
手を胸の前で抱え込み肩で息をする俺を見ているのかいないのか、ヤールは話し出す。
「握手も無事に済んだことだし、俺からクオンにいくつか質問してもいいかい?」
そして何事も無かったかのようにヤールは俺に話しかけた。
(いや、こいつ俺の様子を見て何も思わないのか!俺自身情けなさと恥ずかしさで一杯なんだが!?)
しかし、ヤールには俺の心の叫びが聞こえるはずもなく、毛ほども気にする様子はない。
「……な、何が聞きたい」
仕方なく俺は精一杯何でもない風を装って返事をした。だが、何となく質問の予想は出来ている。
——その服何なの?どこから来た?それってどのへん?なんで一人で旅を?仲間は?家族は?なんでいないの——
嫌な記憶が蘇る。この村に辿り着くまでに何度かされた質問だ。物珍しいのは理解できるし、好奇心だってあるだろう。しかし、俺だって言いたくないこともある。
こいつに聞かれたらどうしようか。俺はヤールを見る。機嫌を損ねれば追い返されるかもしれないし、仕方ないだろう。
だが、覚悟を決めた俺が予想もしなかった方向から質問は飛んできた。
「じゃあね……好きな食べ物は?」
「へ?」
思わず声が漏れた。
「え?俺、何か変なこと言ったかい?」
本当に不思議そうな顔をするヤールを見て、遅まきながら俺は思った。この男は普通の人間ではない。
「あ、いや、いい。好きなのは……蜂蜜だ」
「お、いいね。俺も好きだよ蜂蜜。まあ俺は甘いものならなんでも良いんだけどねー」
おかみさんに言っておかないとなー、なんて言いながらヤールは頷く。
俺はそんなヤールを見ながら、考えを巡らせていた。どうして俺の生い立ちを聞かないのか。理由があるとすれば、気付かなかったか、意図的に避けたのどちらかだろうか。
いや、気付かなかったはずはない。あの人垣の中から俺を見つけたのだ。俺の格好がここらでは普通じゃないのは分かっているはず……
「よし、じゃあ二つ目だ」
その言葉で俺の考えは一旦断ち切られた。ヤールはやはり何も気にしていないような顔でこちらを見る。
「あー、いや、聞くよりも見せてもらう方が早いかな」
ヤールが何を言おうとしているのか、先の質問の突拍子のなさも手伝ってか俺にはよく分からなかった。一体俺の何を見ようというのか。
しかし、直後に俺は思い出した。この男が何者で、俺が何を言ったのかを。
「君の力、見せてくれるかい?」
彼の口調は相変わらず穏やかだったが、その声色には少しばかり真剣味が混じっていた。
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