毒童話をどうぞ
三塚章
見えないイト
昔々、大きな国を治める王様がいました。その王様は大のおしゃれ好き。あちこちから仕立屋を集めては美しい服を作らせるのが趣味でした。そして出来上がった服を着てパレードをし、町の人々に自慢するのです。
今日も、仕立屋が新しい服を持ってきました。
「いかがですか、王様。これが、愚か者には見えない糸で作った服でございます」 うやうやしく差し出された仕立屋の両手を見て、王様は目を丸くしました。
そこにあるはずの洋服が見えないのです。けれど、愚か者に思われたくない王様は言いました。
「おお、これはすばらしい! さっそくパレードしよう!」
驚いたのは町の人たちです。城から出てきた王様が、パンツ一丁だったのですから! 町の人達は、まじまじと王様の姿を見つめました。
畑仕事をしない王様の肌は、赤ちゃんの肌のように真っ白です。水仕事もしないから、手にはアカギレの一つもありません。そして、でっぷりと太ったおなか。きっと、町の人が見たこともないようなごちそうを食べてこうなったにちがいありません。町の人達皆、王様が太っているのは知っていましたが、改めて裸を見ることで彼の豊かな生活を見せ付けられた気がしました。
町の人たちは知らずに自分のおなかをさわりました。ぺったんこでした。今年は、麦のできがよくなかったのです。その麦も、ほとんど税として王様にとられてしまいました。王様は笑います。
「うははは! 今回の服はきれいじゃろう! 何しろ、高かったからのう! 愚か者には見えない服じゃぞ!」
どうやら、王様は町の人々が一生懸命作った麦を、金にして仕立て屋に払ってしまったようでした。騙されている事にすら気づかずに。だって、愚か者に見えない糸なんて、あるわけがないでしょう?
ふと、町人の一人が自分の家へと入っていきました。また一人、またもう一人と、町の人たちは家へ入って行きます。
そして、次に出てきたとき、彼らの手には、それぞれ包丁が、クワが、棍棒が握られていました。王様は裸です。鎧も何も、着ていません。少し殴ればすぐケガをしてしまうでしょう。護衛の兵士が剣を抜きましたが、町の人達は、ちっとも怖くありませんでした。恐さより、怒りの方が大きかったからです。
おしゃれな王様が住む国の隣は、ひげの王様が治める国でした。
「王様、計画通り、反乱が起こったようです」
おしゃれな王様に服を売った男は、仕立て屋の変装を取って、ヒゲの王様の前にひざまずきました。彼はひげの王に仕える家来だったのです。
「国が乱れている今なら、攻め落とすのも簡単でしょう」
「うむ、よくやった」
ひげの王様は、満足そうにうなずきます。
「それにしても愚かな王だったの。この私の意図が見えないとは……」
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