第2話
「ん、んん~」
どのくらい意識を失っていたのだろう。
あまりよく覚えていないがあの時は、まだ朝だった様な気がする。
太陽の光から察すると昼ぐらいだろうか。
観音開きの出窓に近付き開け、ボクは目を細め右手で陰を作りながら見上げる。
「?」
気のせい?
太陽の光が二重に見える。
「・・・!!」
気のせいではなかった。
太陽が二つあるのだから二重に見えるのは当然だ。
ボクの記憶が確かならばE/Oでの太陽は一つだった筈だ。
ならば、あれは夢ではなかったという事なのだろう。
女神ヴィーナスによるE/Oのデスゲーム宣言。
しかし、それはある声にて中断する事になる。
それがヴァーニシアと名乗る異世界の神だった。
彼女は言った「
何を言ってるんだと思ったけれど、こう現実を見せ付けられては信じるしかない。
ボク・・・ボク?
ああ、そうか・・・何か変だと思ったらボクはいつからボクなんだろうか。
前は違った呼称をしていた様な、・・・あれ? 前、何?
おかしい・・・。
ボクがE/Oのプレイヤーでこのアキラ・ローグライトは、初代アキラ・ツキモリから数えて八代目となるプレイヤーキャラなのは間違いない。
じゃあ、現実世界のボクは誰なのだろうか。
アキラ・ローグライトとしての記憶は、ある筈のない幼少期からある。
しかし、現実世界のボクの記憶は、E/Oのプレイヤーだという事以外さっぱり思い出せない。
どういった名前で性別と年齢は?
人種、出身地に家族構成、そして、どんな人生を歩んで来たのかもボク自身の事なのに全く思い出せない。
もしかしたら、E/Oをプレイする前に誰かと会う約束をしていたのかもしれない。
E/Oではあった筈のフレンドリストも今はなくなってしまい、それを確認する手段がない。
なくなったものは、フレンドリストだけではない。
これはゲームではなく、現実世界だという列記とした証拠なのかも知れない。
当然、HPゲージやMP・SPゲージなんてものはボクの視界には存在しないし、現実時間とゲーム内時間、方位磁石もない。
メニューもないからログイン・ログアウトも存在しない。
腕を抓ればダイレクトに痛みが入り痛覚軽減もない。
その代わりなのだろうか。
スキルと相成って感覚が鋭くなっている様な気がする。
例えば、ここから一キロメートルほど離れた所にある西門の見張り台に何羽の鳥が留まっているとか、この香ばしい匂いはどこから来ているのかが分る。
ちなみに、鳥の種別までは分らないが三羽留まっているし、この香ばしい匂いは階下つまり一階のキッチンから匂っている。
幾ら考えても現実のボクの事を思い出せそうにない。
ならば、このアキラ・ローグライトで出来る事探っていくしかない。
確かボクはまだ一般人で傭兵にもなっていなかった筈なので、まずは傭兵登録をしに行こう。
ボクは自室のドアを開け廊下に出た後、階段を下りる。
「あら?」
階段を下りる足音が聞こえたのだろう。
「アキラちゃん、どこへ行くの?」
「散歩です。
自然とボクの口から”母様”という単語が出る。
以前はNPC(ノンプレイヤーキャラ)であった彼女だがボクにとっては十六年間育ててくれた母親だ。
どう見ても十代後半から二十代前半にしか見えない長い耳を持つエルフの女性で、十六歳の子供がいるなんて到底思えない程の現実離れした美しさだ。
というか、現実のボクの母親の顔が全く思い出せないのだからそんな彼女を母親だと認識しても仕方がない。
「晩御飯までには帰って来るのよ」
「はい」
母親からの了承が得られたと判断し、ボクは玄関の扉を開け外へと出る。
「んっ」
やはり、
ゲームでは太陽が出ている出ていないでの暑さの違いはなく、場所の環境で決定していて天気はあまり関係がなかった。
つまり、暑い、眩しい・・・、 これが転移後に初めて外に出ての第一印象だ。
そして、街の喧騒、鳥の囀り、澄み切った空気、身体全てで体感する、それらが複合的に作用し、ここ・・・異世界ヴァーニスは、ボクにとって現実なのだと再度認識する事になる。
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