日常

第70話① 遠征(初日)

 夏。

 前々からずっと計画を練っていた「釣り遠征」を実行することとなった。

 キャンプを兼ねて県外への遠征。

 子供たちにとっても楽しい思い出の一つになればいいと思う。

 

 

 準備を始める。

 前日。

 持って行くものをクルマに積み込む。

 幼馴染達のクルマは、全てセダンベースのステーションワゴンなので、容積的にあまり余裕がない。後部座席をつぶしてボートのエンジンやデッキ、エレキや釣り具を積んだらほぼ満載だったりする。

 当然積むことができない荷物が出てくるわけで。

 積み込んだ時点でユキに連絡。みんなの家をまわってレジアスエースに荷物をぶち込む作戦だ。

 しかしまぁ…自分のボートや釣具などを積んだ上での6家族分の荷物となると、かなりかさ張る。後方の視界が完全に無くなった。この時ばかりはバックモニター付きのナビを付けとけば、と思うユキだった。

 にしても流石キャブオーバー。後ろが見えないながら荷室には尚も余裕がある。

 グッジョブ!レジアスエース!!である。



 そして当日。

 ユキの家の庭にボートを積んだクルマが集結。

 

 ちなみに各家族のクルマは以下の通り。

 千尋&菜桜はマークⅡブリット。

 環&守はステージア。

 美咲&悠太はカローラフィールダー。

 渓&敬壱はアテンザワゴン。

 千春&弘明はレガシィツーリングワゴン。

 海&涼はクラウンステーションワゴンだ。

 ボートは各ペアが所有していて、カートップにて運搬する。

 全車荷物満載で二人乗りとなってしまったため、ユキファミリーは人を乗せる用にグロリアも出す。お子様(有喜、幸、研=海の2歳になる子供。読みはケン)はこちらで移動することになった。

 

 

 

 全員揃い、荷物の最終確認をし、いざ出発!

 初めて大量の荷物を積んで走ったレジアスエース。

 乗り心地がマイルドになっていた。高級車みたいにフワフワだ。

 普段からこの乗り心地だったら…なんてことをユキはちょっとだけ思った。


 道中は至ってスムーズ。何の滞りもなく目的地へ到着。

 途中、キャンプ場からそんなに遠くないところにスーパーやコンビニがあったので、食材などの追加は比較的容易にできる。あまりキャンプらしくないかもだが、なんともありがたいことだ。

 到着し、バーベキューしやすいようクルマを並べる。


 キャンプ場にはスロープが併設されており、管理棟でスロープ使用料を追加で支払うとボートを出せる。オカッパリは宿泊する者に限り無料。日帰りのオカッパラーは有料という、遠賀川流域では馴染みのないシステム。

 なぜ有料かというと、この湖はワカサギを放流しているからだ。その放流資金として料金を徴収する。冬場はドーム船にてワカサギ釣りが楽しめるとのこと。

 

 湖に目をやると、ほぼ満水。

 ダム湖なのにこの時期(夏休み)の満水は珍しい。というのも今はまだ田んぼのシーズンのため水が必要なのだ。よって数mほど減水している場合が多い。もしかしたら農業用水じゃないだとか、ごく最近大雨が降ったとか、そういった理由じゃないだろうか?

 それはいいとして、かなり切り立った地形なので急深であることが想像できる。

 所々に立ち枯れ。

 岩盤地帯。

 ガレ場。

 岩から土にマテリアルが変わるところもある。

 スロープの対岸には岬があって分岐もある。

 とにかくどこを狙っても釣れそうなので、逆にポイントがしぼりにくそうな湖だ。

 

 スロープ横の駐車場では数台のクルマが止まっている。どれもルーフキャリアが着いていたり、トレーラーをけん引していたりするから今まさに湖にボートを出してバス釣りしている人たちのクルマだ。



 早速準備に取りかかる。

 とはいっても車中泊。

 やることといったら荷物をおろして、クルマの中で寝れるようにするだけ。

 コンロや折り畳みイス、簡易テーブルを引っ張り出して設置し、あとはバーベキューコンロに火を熾すだけなのである。

 テントを張ったりする手間が無いため気楽でよい。


 大人達全員でユキのクルマから荷物をおろす。

 あっという間に終わった。



 そしてやっと釣り。

 今日は移動日だから時間が短い。よって釣り方は日が暮れるまでのオカッパリ。

 ボートは明日の早朝から。


 キャンプ場の周辺は釣りがしやすいように整備してある。

 水際には遊歩道。

 手すりもあって足場も良い。子供連れでも安心して釣りできるところが高ポイントだ。

 足元には所々で魚が群れている。魚種は…ざっと見た感じオイカワ、カワムツ、アブラハヤ、ブルーギルなど。

 子供達にはこいつらを釣らせることにした。


 有喜はあれから何度ものべ竿を使ってハヤを釣っているため、なんとか一通りできる。

 いつものように二人の子供を引き連れてポイントへと向かう。

 二人とも有喜が優しいのでとても懐いており、言う事をちゃんと聞く。有喜はお兄ちゃんぶりたい年頃なので、何かイベントを催すときは喜んで世話係をしてくれる。かなり助かるのだ。

 最も魚影が濃いと思われるトコロに場所を取る。

 そして練り餌を丸め、ハリに刺し、振り込む。

 すぐにウキが消し込んだ。


「きた!」


「わー、スゲー!」


 向こうで子供たちの歓喜の声が上がる。

 サオを立てるとキラキラと銀鱗が躍る。

 素早くハリを外しバケツの中へ。

 再び練り餌を付けて振り込むと、


「もうきた!」


 激しく入れ食いである。

 ヒマすることなく楽しめそうなので安心した。



 大人たちはというと。

 全員バス釣り。

 昼間から夕方へと移る時間帯である。

 季節的にも時間的にもあらゆるルアーが通用するはず。

 全員、今一番やりたいルアーから始め、結果を出した者に合わせる作戦だ。


 ワイルドハンチ黒金を引いていた桃代。

 開始後数投で


「おっしゃ!食った!」


 ヒット。

 真正面に投げてただ巻きできた。

 かなりの引きだ。

 数十秒後、抜き上げる。

 40cm程のキレイなバス。


 もしかしてこの湖、とてつもなくポテンシャル高い?


 明日のボート、期待せずにはいられなくなってきた。



 それからは回遊してくる度、あらゆるルアーに反応してくれる。

 中でも特に巻きへの反応が良いようだ。

 ワームの操作がもどかしくなってきて、全員プラグやスピナーベイトにチェンジする。


 何、このパラダイス?今までこんな爆釣したことあった?


 ここ数年、釣れなかった分を取り返すつもりで投げまくる。

 夢のようなひと時。

 

 これ…ボート出さんでもよくねぇか?っちゆーか、出したらスゴイことになるんじゃない?

 

 最早楽しみしかない。

 最終的にこの日は30~45cmの魚を一人5本以上釣り上げた。

 子供達もハヤを大量に釣って大満足。

 

 魚影があり得ないほど濃い。

 ただただ驚くばかりである。

 

 

 

 ボチボチ飯にしよう!ということになり撤収。

 管理棟にはシャワーもあってサッパリできる。ホント至れり尽くせりだ。

 順番にシャワーを浴びでバーベキューの時間。

 釣りしながらも火の管理はしていたため、すぐに焼くことができる。

 三つのグループに分かれ食材を焼く。

 飲み物をみんなに配り、

 

 「「「「かんぱーい!」」」」

 

 宴の始まりだ!

 子供達もいつもとは違う雰囲気が楽しいらしく、テンションが上がっていて普段よりよく食べてくれる。つられ食いだと分かってはいるが、これだけ食べてくれると見ていて気持ちいい。

 大人たちはというと。

 まぁ、いつもの家飲みの延長といった感じだけど、久しぶりの幼馴染全員集合に加え、幼稚園や小学校からの幼馴染も参加。

 普段よりも若干テンションが高い。

 この日、ミクだけが仕事の都合で参加できず。

 オンラインでの参加で羨ましがっていた。

 ガッツリ盛り上がって夜遅くまで飲み明かした。

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