エピソード24/家庭教師

俊之としゆき「こんばんは」


絵美えみの家に俊之がやって来た。


今日は隆行たかゆきの家庭教師をする予定だ。


しかし、いつもの時間より、少し早めに絵美の家に来た。


絵美「いらっしゃい」


絵美が出迎えに来た。


俊之は家に上がり、二人でリビングへ向かう。


俊之「こんばんは」


絵美の父「こんばんは」


リビングで座っていた絵美の父が応えた。


絵美の母「こんばんは。今日は早いのね」


台所から絵美の母が言った。


俊之「今日は絵美と余り話をしている時間が無かったから、少し絵美と話をしたいな~って思って」


絵美の母「あら、そうなの!?」


絵美の父「俊君、まあ、座んなさい」


俊之「その前に昨日はお魚を頂いちゃって、どうもありがとうございました」


絵美の父「そんな事は気にしなくていいんだよ。昨日は隆行も釣ったから、ウチだけじゃ食べ切れない。それで山ノ井やまのいさんにも、おすそ分けをしただけなんだから」


俊之「とても美味しかったです」


そう言うと、俊之は絵美の父の正面に座った。


絵美は俊之から見て左の側に座る。


絵美の父「そう言って貰えるだけで、釣ってきた甲斐があるってもんだよ」


そして絵美の母が麦茶を持って来る。


絵美の母「はい。どうぞ」


絵美の母が麦茶を俊之の前に置く。


俊之「すみません」


そして絵美の母が俊之から見て右の側に座った。


俊之「それで、長谷川はせがわはどうだったの?」


俊之が絵美に訊いた。


絵美「うん。一応は大丈夫そうだったよ」


俊之「そか」


絵美「でも、明日も学校は休むみたい」


俊之「そんなに酷い風邪なの?」


絵美「夏風邪だからねぇ~」


絵美の母「俊君は体は丈夫な方なのかしら?」


俊之「俺は殆ど風邪なんて、ひいた事がないですね」


絵美「そうなんだ」


俊之「風邪をひいている暇なんて、ありゃしない」


絵美の父「そりゃ、頼もしい限りだな」


俊之「それに何とかは風邪をひかないって」


絵美の母「あら、それを言うなら、絵美の方なんじゃないかしら!?」


絵美「お母さん~」


絵美の父「ははは」


俊之「絵美も体は丈夫なんですか?」


絵美の母「そうね。この子も小さい頃から、体だけは丈夫だったわね」


絵美「だけって、何よ~」


俊之「いいじゃんか。風邪で寝込んだりしたら、退屈で退屈で嫌気がさすと思うよ」


絵美「木綿子ゆうこもそう言っていたな~」


俊之「だろ!?」


絵美「だからさ、木綿子、私達が帰ろうとすると、必死に引き止めようとするんだよ」


俊之「ははは。そっか」


絵美「でも、私達はそんな事をしたら、余計に木綿子の風邪を長引かせちゃうんじゃないかと思って、すぐに帰って来たんだけどね」


俊之「それで、すぐに家に帰って来たの?」


絵美「ん~ん。私はちょっと由佳ゆかんチで遊んできたんだ」


俊之「そっか。そんじゃ、そろそろ隆行ん所でも行くかな」


絵美「私も勉強をしよ」


俊之と絵美は立ち上がる。


絵美の母「俊君、いつもありがとうね」


俊之「いいんですよ。隆行はもう、俺の弟みたいなもんだし」


絵美の母「そうね。私達、いつの間にかに、こんな孝行息子が出来ちゃったわ」


絵美の父「少しは絵美を見直さなきゃならんかな」


絵美「お父さん、見直すって何よ!?」


絵美の父「ははは」


笑ってごまかす、絵美の父。


絵美「もぅ~。俊君、行こ」


俊之と絵美は歩いてリビングを出る。


俊之「ちょくちょく、そっちも覗くから」


絵美「うん」


そして絵美は自室へ、俊之は隆行の部屋へ行く。


俊之「うぃ~っす」


俊之が隆行の部屋の戸を開けて入って来る。


隆行「俊君、いらっしゃい」


俊之「昨日は釣れたんだって!?」


そう言いながら、俊之が部屋の戸を閉めた。


隆行「そりゃあ、ちゃんと釣りをすれば釣れますよ」


俊之「そうなのか!?」


隆行「俊君も次、ちゃんとやれば、絶対に釣れると思いますよ」


俊之「じゃあ、今度は、ちゃんと釣りをしてみるかな」


俊之が隆行とテーブルを挟んで、対面する様に座った。


そして鞄から勉強道具を出し始める。


隆行「俊君」


俊之「何?」


隆行「勉強を始める前に、ちょっと話を聞いて貰ってもいいですか?」


俊之「いいよ。んで?」


俊之は手を止めた。


隆行「香織かおりの事なんですけど」


俊之「順調だって、言ってなかったっけ!?」


隆行「うん。だから、それで、」


俊之「うん」


隆行「今度、香織の家に呼ばれちゃって」


俊之「いつ?」


隆行「今度の日曜日なんですけど」


俊之「そか」


隆行「香織は親が、知人の結婚式に行くから、家に居ないって言っていて」


俊之「ほう」


隆行「それって、やっぱり、」


隆行が言い辛そうにしている。


俊之「そうだな~。難しいところだな」


隆行「因みに、俊君はもう姉貴と、」


再び隆行が言い辛そうに、言葉を途中で止めてしまう。


俊之「Hの事か!?」


隆行「そうです」


俊之「しているよ」


隆行「やっぱり」


俊之「ふふふ」


隆行「姉貴が俊君のところに、泊まりに行ったりしているのは知っていたから」


俊之「そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろ」


隆行「そうなんですけど、なんか照れ臭くて」


俊之「彼女、同い年だったよな!?」


隆行「はい」


俊之「難しいよな。思春期の女って」


隆行「全然、分かんないんですよ」


俊之「思春期じゃなくても、難しいのかもしれないけどな」


隆行「ははは。それも、そうですね」


俊之「男みたいに、もっと単純になれないのかなぁ」


隆行「因みに、俊君はいつなんですか?」


俊之「何が?」


隆行「初Hです」


俊之「ああ。俺は絵美が初カノだし、つい、この間だよ」


隆行「そうなんですか!?」


俊之「俺は隆行と違って、中学の時は、全然、もてなかったからさ」


隆行「そうは見えませんけど」


俊之「ははは。取り敢えず、サンキュ。でも、本当なんだよな」


隆行「そうなんだ」


俊之「だから、正直に言うと、分かんねーんだよね」


隆行「そっか~」


俊之「男はさ、中学生にもなれば、したくてしたくて仕方がなくなったりもするんだけどな」


隆行「そうですね」


俊之「勿論、女の子も関心そのものは、ない事もないのかもしれないけど」


隆行「興味はあるでしょうね」


俊之「Hに対して、積極的な意味での関心なのか、抵抗を感じているのかは、微妙だよな」


隆行「本当に女って、分かんないです」


俊之「ただ、基本的には女の子も助平ではあると思うよ」


隆行「そうなんですかね」


俊之「絵美も最初は、そうでもなかったけど、最近はHに対して、積極的になってきた部分があるからな」


隆行「それは聞きたくなかったです」


俊之「あはは。隆行は、そうかもしれないな」


隆行「そうですよ。だから、姉貴の話は、ちょっと聞き辛くて」


俊之「とにかく、所詮、人間は男も女も助平だとは思うんだ」


隆行「男も女も、かぁ」


俊之「助平なのが、どちらかだけだったら、人類は此処まで歴史を築く事は出来なかったんじゃないかって」


隆行「なるほど。俊君、上手い事を言いますね」


俊之「ただ、環境や経験によって、個人差が生じたり」


隆行「そうですね」


俊之「場合によっては、例外も出てきたりするからさ」


隆行「例外ですか!?」


俊之「性に関心を持てない人間とかさ、性の対象が同性だったり」


隆行「ははは」


俊之「ちょっと話が逸れちゃったけど、結局は、当事者が肌で感じとるしかないんじゃないかな」


隆行「やっぱり、そうなっちゃいますか」


俊之「正直、俺にも分かんねーって。ただ、Hをする様な展開になる事は考えておいて、コンドームだけは、ちゃんと用意をしておいた方がいいだろうな」


隆行「そうですね」


俊之「今度、使わなくても、いずれ、そう遠くない時期に使う機会はあるだろうしさ」


隆行「それなら、いいんですけどね」


俊之「なんだったら、俺のを少し分けてやろうか?」


隆行「それはいいですよ。自分で用意をします」


俊之「遠慮をするなって」


隆行「遠慮じゃなくて、そこまで俊君に頼っちゃったら、香織に申し訳ないなって」


俊之「そか。因みに、隆行はどうなのよ?」


隆行「どうって、どういう事ですか?」


俊之「だから、隆行は彼女とHをしたいのかって事」


隆行「そりゃあ、したくてしたくて仕方がないって感じですね」


俊之「あはは。そうだよな~。俺も、そうだったもんな」


隆行「ただ、いざとなると、怖くなってきちゃって」


俊之「そか」


隆行「今まで、何も出来なくて」


俊之「ふふふ」


隆行「でも、香織の家に行ってまで、何も出来ないんじゃ、駄目なんじゃないかって」


俊之「そうかもな」


隆行「それで俊君に話を聞いて貰ったんですけど」


俊之「そっか」


隆行「結局は、俺がしっかりしなきゃいけないんですね」


俊之「まあ、そういう事だな」


隆行「どうもありがとうございました」


隆行が頭を下げた。


俊之「もう、いいのか!?」


隆行「はい」


俊之「じゃあ、始めるか」


隆行「はい」


隆行は勉強道具を揃え出す。


俊之「取り敢えず、今日は先ず、自分でやってみて」


隆行「はい」


俊之「それで分からない所があったら、後で纏めて教えるから」


隆行「分かりました」


俊之「俺はちょっと、絵美の様子を見てきてからにする」


隆行「はい」


俊之は立ち上がって、隆行の部屋を出る。


隆行の部屋の戸を閉めると、絵美の部屋の戸を開けて、絵美の部屋へ入って行く。


俊之「ちゃんと、やっているか~!?」


絵美「やっているよ~」


俊之「そか。偉い、偉い」


俊之は絵美の近くまで行って、絵美の頭を撫でた。


絵美「子供扱いをしないでよ~」


俊之「あはは。ごめん、ごめん」


絵美「俊君がすぐ傍に居ないのは、ちょっと寂しいんだけど、それでも、隣の部屋に居るって思うと頑張れるんだ」


俊之は絵美の後方に回って、絵美のベッドに座った。


俊之「それだけ、ちゃんと勉強をしていたら、今度のテストは楽しみだな」


絵美「そうかな!?」


絵美は上半身だけ、俊之の方へ振り向いた。


俊之「このまま、順調にやっていけば、50番以内はいけるんじゃないかな」


絵美「本当に!?」


そう言いながら、絵美は体全体で俊之と向き合う形に座り直した。


俊之「うん。ウチの学校は特別に進学校な訳じゃないし、ちゃんと勉強をしている奴なんか、そんなにはいねーはず」


絵美「そうなのかな」


俊之「だから、ちょっと勉強をするだけで大違いなはずだよ」


絵美「そっか~」


俊之「きっと、みんなをびっくりさせられるよ」


絵美「だったら、いいんだけどね~」


俊之「佐藤さとうの口、閉じなくさせてやろうぜ」


絵美「うん」


俊之「話、変わるけどさ」


絵美「何?」


俊之「絵美、中学の時も俺の事を好きだったんだよね!?」


絵美「うん」


絵美が少し照れる。


俊之「当時の絵美って、俺とHをしたいとか思ったりしたの?」


絵美「えーーー!!何、急に変な事を聞いてくるのよ~」


俊之「ぶっちゃけちゃうとさ」


絵美「うん」


俊之「俺は絵美とHをしたいって思っていたんだよ」


絵美「へぇ~、そうだったんだ」


俊之「男はさ、Hがしたいって気持ちが先にきたりもしちゃうんだ」


絵美「そうなんだ」


俊之「Hがしたいから、付き合いたい。Hがしたいから、好きだ、みたいな」


絵美「俊君もそうだったの?」


俊之「俺はHをしたいとか思える様になる前から、絵美の事を好きだったからな~」


絵美「そっか~」


俊之「ただ、Hをしたいと思える様になってからは、そういう感じもなくはなかったよ」


絵美「そうなんだ」


俊之「だから、俺の場合は高校に入ってから、真面目になれたりもしたんだろうけどね」


絵美「ふ~ん」


俊之「絵美とHがしたいから、付き合いたい。付き合いたいから、真面目になろうって」


絵美「そっか」


俊之「そういう邪な気持ちでもないと、中々、難しいんじゃないかな」


絵美「何だか、面白いね。邪な気持ちで真面目になるって」


俊之「だから、俺が助平じゃなかったら、多分、俺、今も中途半端な不良をしていたのかもしれない」


絵美「あはは。中途半端な不良かぁ~」


俊之「それで、絵美はどうだったの?」


絵美「私!?私は、ねぇ」


俊之「うん」


絵美「Hがしたいとか、そういうのは無かったかな」


俊之「そっか」


絵美「仲良くなりたいな~って、そんな感じだったと思う」


俊之「なるほどね」


絵美「だって、付き合ってもいないのに、Hとかまでは考えられないよ」


俊之「女の子って、そういうもんなのかな?」


絵美「それは分かんないけど、私はそうだったよ」


俊之「そっか~」


絵美「でも、付き合い始めてからは、Hな事をしてみたいと思う事はあったよ」


少し照れ臭そうに絵美が言った。


俊之「そうなんだ。助平」


絵美「俊君の方が助平じゃ~ん」


俊之「あはは。それは否定が出来ないけどさ」


絵美「ほら~」


俊之「そんじゃ、そろそろ隆行の方へ戻るとするかな」


俊之は立ち上がった。


絵美「ねぇ」


俊之「何?」


絵美「何で急に、そんな事を訊いてきたの?」


俊之「ちょっと、気になっていたんだ」


絵美「何が?」


俊之「だから、俺は中学の時から絵美とHをしたいって思っていたからさ」


絵美「うん」


俊之「絵美の方はどうだったのかな~ってね」


絵美「そっか」


俊之「じゃあ、また後で油を売りに来るね」


絵美「うん」


俊之は絵美の部屋を出て、隆行の部屋に戻った。


隆行が一瞬、俊之に目を向けるが、すぐに勉強に集中をする。


俊之は隆行と対面する位置に座る。


俊之「キリのいいところで、一旦、休憩をしよう」


隆行「はい。このページだけ済ませちゃいます」


そして俊之は自分の勉強道具を広げ、自分の勉強を始める。


俊之はいつも、こうして隆行の勉強を見ながら、自分の勉強をしていた。


数分もすると、隆行の手が止まる。


隆行「終わりました」


俊之「じゃあ、先ず、分からなかったところを言って。教えるからさ」


隆行「はい」


そして俊之は幾つか隆行からの質問に答えながら、丁寧に教えていく。


その後に休憩に入る。


俊之「さっき、絵美に訊いてきたよ」


隆行「何をですか?」


俊之「中学の時に絵美は、どう思っていたのかって」


隆行「そうなんですか!?」


俊之「それで、中学の時はまだ、俺達は付き合っていなかったからさ」


隆行「うん」


俊之「絵美が言うには、付き合ってもいないのに、Hの事とか考えられないってさ」


隆行「そうなんだ」


俊之「男は付き合う前から、Hな事を考えるよな」


隆行「そうですね」


俊之「結局、付き合う前の話だから、余り参考にはならなかったのかもしれないけどさ」


隆行「姉貴の話ってのも、俺からすると素直には聞けませんけど」


俊之「ははは。とにかく、男女で違いはあるのかもしれないな」


隆行「そうですね~」


俊之「因みに、お前等はいつから付き合ってんの?」


隆行「夏休み前くらいからです」


俊之「何だ、まだ、つい、この間なんじゃん」


隆行「そうですね」


俊之「それじゃ、そんなに焦らなくてもいいのかもな」


隆行「そうですか!?」


俊之「だって、まだ二ヶ月も経っていない感じだろ!?」


隆行「もうすぐ二ヶ月、経つ感じですね」


俊之「ちょっと早過ぎる感じがしないでもないな」


隆行「俊君は、どれくらいかかったんですか?」


俊之「俺は三ヶ月くらいかな」


隆行「そうなんだ」


俊之「だから、大して違わないのかもしれないけど、それでも早いくらいだとは思うからね」


隆行「そうかもしれません」


俊之「とにかく、がっつかない方がいいのかもな」


隆行「ははは。がっついていますか!?」


俊之「ただ、どういう展開になるかは分かんないから、準備だけは万端にしておいた方がいいんだろうな」


隆行「そうですね」


俊之「それで、後は成り行き次第で、な」


隆行「その成り行きってところが、怖かったりもするんですけどね」


俊之「まあ、なるようになるさ。俺だって何とかなったんだから」


隆行「そうだと、いいんですけどね~」


俊之「それじゃ、そろそろ再開をするか」


隆行「はい」


俊之「今度は分からないところがあったら、すぐに訊いてくれていいから」


隆行「はい」


二人は各々の勉強をし始める。


昼間はまだ、残暑も残ってはいるが、夜も更けてくると、すでに秋になっている様に感じる。


そんな初秋の夜であった。

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