エピソード17/二人の太公望!?

俊之としゆき「おはようございます」


朝早く、絵美えみの家に俊之がやって来た。


今日は絵美の父と釣りに行く予定だ。


絵美の父「おお、来たか。ちょっと待っていてくれ」


家の奥から絵美の父の声が聞こえてきた。


そして隆行たかゆきが玄関にやって来る。


隆行「おはようございます」


俊之「隆行も行くの?」


隆行「俊君が行くのに、実の子の俺が行かない訳にはいかないですよ」


俊之「そか、そか」


隆行「それに、俺、俊君とちょっと色々と話をしたいなって思って」


俊之「ん!?何を?」


隆行「それは、釣りでもしながらって事で」


俊之「OK」


すると、絵美の父がやって来る。


絵美の父「お待たせ。道具はもう全部、車に積んであるから」


俊之「すみません」


絵美の父「じゃあ、行こうか」


俊之、隆行の順に玄関から外に出て、絵美の父が最後に玄関から外に出た。


そして絵美の父が玄関の戸を閉める。


家の前の道に車が停めてあった。


普段は少し離れた駐車場に停めてある。


俊之が来る前に絵美の父が準備の為、家の前まで車を移動させていたのだ。


絵美の父「さあ、乗った、乗った」


そう言いながら、絵美の父は運転席に座った。


続いて隆行が運転席の後ろの席に座る。


俊之「お邪魔します」


最後に俊之が助手席の後ろの席に座った。


絵美の父「なんだ!?二人共、後ろでいいのか!?」


絵美の父が車のエンジンを掛ける。


隆行「俺、俊君と話をしたいから」


俊之「だそうです」


絵美の父「そうか。じゃあ、出発をしよう」


絵美の父がギアを入れて、アクセルを踏む。


車が発進した。


すぐに丁字路に突き当たる。


絵美の父がハンドルをきって、車が左折をした。


絵美の父「俊君、ありがとうな」


俊之「どうしたんですか?」


絵美の父「俊君が来なかったら、隆行は来なかったと思うんでね」


俊之「そうなんですか!?」


隆行「俺、父さんと釣りに行くなんて、何年ぶりだか」


俊之「そうだったんだ」


隆行「父さん、こんなに喜ぶんだったら、たまには相手をしてあげれば良かったかな」


絵美の父「何、生意気を言っているんだ」


俊之「やっぱり、いいですね」


隆行「何がですか?」


俊之「父親ってさ」


隆行「そうでもないけどな~。うるさいばっかで」


絵美の父「隆行、父親に向かって、うるさいとは何だ」


隆行「ほら、これだもん」


俊之「ははは」


この後も三人は他愛のない話を続けながら、海へと向かった。


一時間ちょっとも過ぎると、目的地に到着する。


今日は磯釣りをする予定だった。


三人はそれぞれ、車のトランクから出した釣り道具を抱えて、釣りをするポイントへと向かう。


そして俊之は先ず、絵美の父に釣りの仕方を教わる。


絵美の父は俊之に釣りの仕方を一通り教えると、俊之の事を隆行に任せて、自分のポイントを探しに行く。


隆行はすぐ近くの岩場で腰を下ろして、釣りを始めた。


俊之も隆行の方へ行き、少し距離をとって釣りを始めて、隆行に声を掛ける。


俊之「んで、話って何?」


隆行「姉貴の事なんですけど、」


俊之「うん」


隆行「俊君、何で、姉貴なんかと付き合っているんだろうなって」


俊之「お前な~、姉ちゃんに向かって、なんか、はねぇだろ」


隆行「実際のところ、姉貴の何処がいいんですか?」


俊之「何処って言われてもな~。俺は絵美の可愛らしいところが好きだとしか言えないな」


隆行「そんなに可愛いですかね」


俊之「だから、一言で言えば、俺のタイプなんだよな」


隆行「確かに見た目は、悪くはないのかもしれないけど」


俊之「けど!?何だよ?」


隆行「姉貴、馬鹿でしょ!?」


俊之「お前な~、俺の彼女に向かって馬鹿って」


隆行「すみません」


俊之「まあ、いいさ。その内、びっくりするだろうから」


隆行「どういう事ですか!?それ?」


俊之「だから、絵美、今、俺と一緒に勉強をしているからさ」


隆行「そんな簡単にびっくりする程、成績が上がったりしますか?」


俊之「少なくとも、絵美が馬鹿じゃないって事は判ると思うよ」


隆行「ふ~ん」


俊之「隆行は絵美の事を二度と、馬鹿とか言えなくなると思うな」


隆行「じゃあ、100番以内に入ったら、ちょっと見直すかな」


俊之「100番以内だったら、先ず間違いないかな」


隆行「マジですか!?」


俊之「上手くいけば、50番以内だって、いけると思うよ」


隆行「そうなったら、マジでびっくりしちゃいますね」


二人は釣りの事なんか忘れて話し込んでいた。


恐らく、針についていた餌はもう、なくなっているであろう。


そんな事は気にも掛けずに二人は話を続けている。


俊之と隆行は別に誰かを待っている訳ではないが、まるで中国の故事に登場する太公望の様に、釣れるはずのない釣り糸を垂らして、格好だけ釣りをしている様な感じで、いつまでも尽きる事の無い話を続けていた。

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