6 失踪
坂下理紗子とそんな会話をした夜からほぼ半月後――彼女ではない別のカメラマンとフィリピンのマニラ市に海外取材が決まった前夜――宮原が神崎から電話を受ける。
「神崎くん、どうしたの? こんな時間に」
「宮原さん、驚かないでくださいよ」
「何をだい?」
「三枝木さんが行方不明になりました」
「行方不明って、いったい?」
「ぼくの知り合いにN新聞社の人間がいるんですが、そこから情報を得たんです。現在、社の方には顔を出されていないそうですし、極秘の取材などでもないみたいですよ。あそこは人材が厚いですから三枝木さんがしばらくいなくても記事に困ることはないでしょうが、社内全員が困惑しているようですね。キツい冗談はお好きだったですけど、三枝木さん、無断欠勤するような人じゃなかったですから」
「事故なのかな? それとも事件?」
「さあ、それはぼくにはわかりかねます。捜索願はご家族の方から出されているようですが……。取材に出かけて数週間家に帰ってこないことが何度あっても家族に連絡を入れなかったことは一度もなかったようですし……」
「そうか、わかった」と宮原は神崎に応え、途方に暮れる。「残念だが、こちらにできることは何もないな。元気でいてくれればいいが……」
「はい。ぼくもそう願っています」
神崎からの電話はそれで終わったが、宮原は携帯を持ったまましばらくの間放心してしまう。たった今、自分の耳で聞いた話の内容が信じられない。何かの偶然だろう、何も心配することはない。心の一方でそう思いつつ、また別の一方では、まさかそんなことが起こったのか、三枝木があの世界的な陰謀に巻き込まれたのか、と叫んでいる。
三枝木は奇妙な復帰の噂について取材を続けていたのだろうか? そして何かを掴んで謎の組織に拉致されたのか?
少数の例外を除けば、一般人が日本国内で国際的な陰謀に巻き込まれる可能性は低い。……とすると、三枝木は海外での取材中にアクシデントに見舞われたのか? だが、それならば三枝木の家族は渡航先から最低一度は連絡を受けているはずだ。しかし今の神崎の話にそれを示唆するものは見当たらない。それとも三枝木は家族にも内緒で単独渡航を試みたのか?
わからない。結論を出すにはあまりにも情報不足だ!
「ん、どうした? 寝不足か?」
翌日、成田空港で直接待ち合わせをしたカメラマンの沼田健之にそう指摘されても宮原には苦笑することしかできない。
「心配事が重なりましてね。……沼田さんはN新聞社の三枝木さんをご存知ですか?」
沼田は噂には聞いたことがあるが面識はないと応える。だから宮原もそれ以上三枝木の件には触れない。
宮原の胸の中で漠とした不安だけが大きく拡がっていく。
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