第28話「常識」
「ふぅ~~朝から屋敷の掃除をしていたので、お風呂が気持ちいです」
「お、おう……」
俺はるりりんに誘われ一緒に風呂の湯船に使った。一応、お互いにタオルで体は隠しているが、それだけなのでお湯でタオルが体に張り付き、るりりんの凹凸の悲しいくらいに存在しないからだのラインがハッキリと見て取れる。
「ちょっと、マサヤ! いくら同じ風呂に入る仲だといってもそんなジロジロと私の体を見るのは止めてくれませんか? さ、流石の私も恥ずかしいです……」
「お、おう、すまんな」
なるほど、どうやら俺の『ヒュプノ』で一緒の風呂に入ることは大丈夫だが、体を見られるのは別で恥ずかしいらしい。
いや、恥ずかしいのライン分からねぇえよ! 一緒の風呂に入るのは恥ずかしくないのに体を見られるのは恥ずかしいってどういうことっすか!
まぁ、俺もあまり、るりりんの体を直視しているといろいろと不都合な現象が起きてしまうから一旦ここは目線を反らして心を落ち着けよう。
いやいやいや! 別に俺はるりりん相手に変な気とか起こさないからね! だって、俺ロリコンじゃないもん! そう、ロリコンじゃないの! 大事なことだから二回言いました!
「大丈夫、俺はロリコンじゃない……ロリコンじゃない」
「おい、マサヤ……? 裸の私が隣にいる状況でその言葉を何かの呪文みたいに唱える意味を教えてもらおうじゃないか? 返答しだいではこの風呂が木っ端微塵に吹き飛ぶ事になりますよ?」
すると、るりりんが怒り任せにこっちを振り向き炸裂魔法を詠唱し始めた。
「おい、バカ! 止めろ! その格好でこっちに振り向くな! 炸裂魔法唱えるな! 暴れえるな! タオルが取れるだろう!」
「ええい! タオルくらいなんだって言うのですか! マサヤはロリコンじゃないんですよね? なら、私が正真正銘の全裸になったって関係ないでしょうが!」
「開き直るな! 何でお前はこうも無駄なとこで俺より男らしいんだよ! あああああ、もう分かった分かった! 確かに、俺はロリコンじゃない! だから、お前が全裸になると余計恥ずかしくて困るんだよぉおお!」
「え、マサヤ……それはどういう事――ひっ!」
そして、次の瞬間、るりりんは俺の腰に巻かれたタオルの異常事態を視認して顔を真っ赤にし大人しく湯船に浸かり出した。
「こ、これは……失礼しました。私としたことが少し取り乱したみたいです」
「お、おう……大概お前はいつも取り乱しているよ」
「……………………」
「……………………」
や、やべぇ……超気まずいんだけど…………正直、あんなもんを、るりりんに見られた俺は軽く自殺を考えるくらいには落ち込んでいる。
すると、先に口を開いたのは、るりりんだった。
「そ、そういえば聞いてください! マサヤ、最近のクエストが順調なおかげで私のスキルポイントも溜まり、ついに後10ポイントもあれば上級魔法を習得できるようになったんですよ」
「お、おお! そうか。そういえば、るりりんは上級魔法を覚えるが目的だったもんな。なぁ、るりりんは上級魔法を覚えたあとはどうするんだ?」
俺は何となくいままで口に出さなかった、るりりんが上級魔法を覚えるという目的を達した後のこれからの事を聞いてみた。最初は成り行きで組んだパーティーだったが、るりりんとは意外と長い付き合いになったし、楽しくやっていけてると思う。だけど、るりりんがもし上級魔法を覚えたら里に帰ると言い出したら俺は――……
「私ですか? そうですね。最初は里に帰って皆に冒険の自慢でもしてのんびりとクラスつもりでしたが……最近はこのままマサヤ達と暮らすのも悪くないかもと思ってますよ?」
「そ、そうか」
「ええ……むしろ、この屋敷を手に入れたのは炸裂魔法を覚えていた私の功績でもあるんですからその屋敷を手放して帰るなんてとんでもないですよ!」
「何を言う! この屋敷を手に入れたきっかけは確かに、るりりんへ屋敷の解体の依頼があったからだが、屋敷の交渉をしたのは俺だぞ!」
「いいえ! ですからこそ――」
そして、俺とるりりんは裸のまま風呂場で取っ組み合いの喧嘩をしそうにになるまで言い争いを続けた。
「ふぅ……マサヤと言い争いをしてたら危うくのぼせる所でした」
「それはこっちのセリフだ……」
「明りがついているな。この声はるりりんか? 開けるぞー」
言い争いも終り二人で脱衣所に戻り体を拭いていると、その場にアプリの声が聞え次の瞬間、脱衣所のドアが開かれた。
あ、これヤバイ状況や……
「すまない。帰りが遅れてしまった。私も風呂に入っても――って、マサヤ! る、るりりんまで! 何で二人が脱衣所にいるんだ!」
「いや! あ、アプリちょっと待て! これは誤解――」
とっさに、俺が何か言い訳をしようとするとそれよりも先にるりりんが当然のように言った。
「何でって……お風呂に入っていたからに決まっているじゃないですか?」
「風呂に入っていただと! ままま、まさかそれはマサヤと一緒に……なのか?」
「ええ、そうですよ」
それを聞いた瞬間、アプリは鬼のような形相で俺をにらみつけた。
「マサヤ……貴様、仲間であるはずの、るりりんにまさか手を出して――」
「待て! 待て! 違う! 誤解だ! アプリ、話を聞いてくれ!」
「何が誤解だ! 男女が同じ風呂に入るなどそんな非常識なことがあってたまるか!」
すると、その言葉を聞いてるりりんが俺に助け舟を無自覚で出してくれた。
「は? アプリ、何を言っているのですか……知らない人ならとも無く、仲間と同じ風呂に入ることの何がおかしいのですか?」
「へ? る、るりりん? しかし、お前とマサヤは男と女であって結婚もしていない男女が同じ風呂にはいるなど、そんな不潔なことあっては――」
「一体何か不潔なんですか? 別に私とマサヤは一緒の風呂に入っただけでいやらしいことなど何一つしていませんよ?」
「そ、それは……」
俺はこれはチャンスだと思い、状況を誤魔化すためにアプリへ一気に畳み掛けた。
「そうだぞアプリ! 俺とるりりんは何一つやましい事などない! むしろ、俺達は仲間なんだから一緒の風呂に入るのは当たり前だろう? 他人ならともかく仲間という信頼関係があるからこそ一緒の風呂に入るんじゃないか? 信頼する男女が一緒の風呂に入るのなんて『冒険者なら当たり前だろう?』『なぁ、るりりん?』」
俺は最後の方のセリフに少しだけ『ヒュプノ』のスキルを使い言葉に説得力を持たせた。
「ええ、そうですね。こんなの常識ですよ」
「そんなバカな! 男女が同じ風呂に入るのは仲間なら当たり前の常識なのか!」
「そうだぞ『これは常識だ』なぁ、るりりん?」
「はい、紅魔族でも常識です」
「まさか、こ、この……私の方が常識が無いと言うのか? 嘘だろう! マサヤ? 嘘だと言ってくれ、るりりん!」
「『常識だよ』」
「常識ですよ」
「まさか……これが民の常識だなんて……う、嘘だぁあああああああああああああああああ!」
その日、アプリの叫びが屋敷中にこだました。
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