アニメ研究会の幽霊部員「あさり」は、俺の幼なじみで美少女抱き枕絵師
第6話 文末に「www」をつけて話されるとムカつく
途中でファストフード店に寄って昼食と時間調整をして、6限目から教室に行く。ちょうど先生が出欠を確認しているところだった。こういうとき「八木颯太」という名前だと最後の方に呼ばれることもあって、自然に受業に合流。病欠も遅刻も滅多にしない真面目で無口な生徒というイメージ戦略が功を奏し、重役出勤に何か言われることもなかった。放課後は、学校の部室棟に向かう。アニメ研究会の部員は総じて成績こそ良くないものの、長年アニメとゲームを摂取してオカルトや異世界のことなら一家言あるダメ人間ばかり。幽霊に抱き枕が乗っ取られたという今朝の出来事を話せば、冷静かつ客観的なアドバイスをもらえることだろう。
「やっぱ碧ちゃんだよなあ、マジ来てるよ碧ちゃん。クメも昨日の回見ただろ?」
「キテる……って、青木部長、負け犬ヒロイン好きすぎwww」
「負け犬でくくるな。たとえ絶望的な状況でも、勝利を諦めないからいいんだよ! っていうかお前『ヤツデ』五期ちゃんと見てるわけ? あれ実況が捗るタイプのアニメだから後で追いかけるとけっこう辛そうよ?」
「え~、録画してはいるけど本当にそれ見ないとダメ? もう、五~六話は録画溜まってるwww」
「切りたいなら、じゃあ俺からこのすべてを切断するハサミを奪ってからに……」
扉越しでも会話が丸聞こえなほどの大声で、部長の青木と部員のクメが与太話をしている。青木は青髪ヒロイン好きで、緑髪ヒロイン好きのおれとはわりと近い感覚を持っている。クメは明るくていつもヘラヘラ笑っているのだが、煽られているように感じることがよくあるのはなぜだろう。
二人の話を止めるために、わざとらしく大きな声をあげて部室に入る。
「二人とも、大変なんだ!」
「あれ、八木チャン!? 今日は学校を休んでエロゲ三昧って話なんじゃwww」
「いいね、そのドラマチックな入り方! いいね!」
「ホントにちょっと真面目な相談なんだけど、朝起きたら抱き枕のエクリプスが人間になって実体化して、歩いたりしゃべったりするようになってて」
精一杯説明しようとするが、自分でもうまく消化できていないものを相手に伝えるのは難しい。
「いや、そういうのいいから。プラズマと見間違えたんだろ?」
「部長、オカルト=プラズマってなんて90年代の返しwww 抱き枕がプラズマだったら、すぐ病院呼ばなきゃマズいwww」
「本当に、おれのエクリプスちゃんに、女子高生の霊魂が宿って、受肉したんだよ!」
たしかにエクリプスには月食の意味はあるけど、UFOでも幽霊でもねえよ。ああ、大声なんて出し慣れてないから、途中で声が裏返ってしまった。隣の室内ゲーム部で笑い声が起こっているようだが、きっとおれには関係ないことだろう。
「受肉www なになに、イエス来ちゃった? 八木チャンと抱き枕と幽霊で三位一体? いつも話題作は徹底批判とかアンチキリスト気取ってんのに改宗ッスか? 改宗」
「クメの前でキリスト教ワードは面倒だからやめろよ~。こいつ、この間も新約聖書はラノベだとかツイッターで荒ぶってたじゃん? 俺らドン引きしてLINEにキャプチャ張りつけて遊んでたやつ!」
「は? は? はァ? 自慢じゃないですがあれの自己トゥギャり二千ビューいきましたから! みたいな? 部長の零細ニュースサイトの月間アクセス数くらい稼いじゃったかなwww って気を使って言ってませんでしたけど」
「は!? キュレーターだし俺、αツイッタラーからリンクされたこともあるし……」
流れ弾で変なダメージをもらっている部長を見て、ようやく少し冷静になってきた。
「だからさ、信じられないだろうけど、たしかにおれの寝床に現前したワケよ、二次元のキャラが! エクリプスが三次元に!」
「二次元と三次元。そのエクリプス、トータルで何次元なのwww」
クメ、それエクリプスじゃない、イクリプスや。
「ああ、なんか八木チャンのそういうノリ懐かしいねえ。去年まで、部室に抱き枕カバー持ってきて飾ってたような熱さを感じるよ、いいじゃんいいじゃん」
「避難訓練のときに一人だけ走って部室棟に行ったと思ったら、校庭で抱き枕を持って整列してる八木チャンは最高にカッコ良かったwww」
そんなことあったかな、うう、頭が……。
「で、人になったエクリプスは抱いたのか?」
「……抱いてない」
中身はぜんぜん知らないJKで、気持ち悪いとか言ってくる相手に抱きつけるほど精神強くない。クメが「ちょwww 罵られるとかそれなんてご褒美」とか言ってる。お前がクラスの女子に罵られるように、トゥギャッターをプリントアウトしてバラまいても同じことが言えるか試してみようか?
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