第4話 筋肉つけると俊敏性落ちるって、思ってた?
ちょうど少年が小学校6年の頃には、世間で格闘技ブームが始まり掛けていた。小学校の同級生の間でも、誰が、どの格闘技が最強かとの話がしばしば議題に上がるようになっていった。
当然この時、彼は相撲最強のスタンスで論陣を張った。と言っても、それは飽くまで
ただ相撲出身の格闘家は、この格闘技ブームにあまり関わりがなかったため、他の格闘技のように話の中で触れられることもほとんどなかった。そうした時間がしばらく続くと、相撲が、そして自分の存在が無視されているような気がしてくるのである。そうなると黙っていることがじれったく、彼の心には相撲最強と言ってやりたいとの思いが膨らんでいった。
――やっぱ小学生はダメだねぇ。試合に出てないから弱いって決めるけるのはアホの極みですよ。ほんと、どこかにアホに付ける薬売ってないのかねぇ。無知は罪なんですよ、無知は。ってかそもそもさぁ、あんなヤオだらけの大会に出てる人間が強いとか本気で信じちゃってんのかね? その感覚が信じられない。キミらガキかって。あんなの世界一を決める大会じゃないからね。ほんとに強い奴は出てないのよ。言っちゃおうか、ほんとのこと? 相撲が最強ってこと言っちゃおうか? いや、でもアホに通じるかねぇ。アホって無駄に頑固なとこあるからね、すぐ信じるくせに。そんなことで労力使いたくないしねぇ。やっぱ止めとこっか・・・
何のことはない、神秘主義のジレンマである。彼からすると、信教の苦しみのような心地よさがあったため、こうした心境に陥っても、やはり直ぐに打ち明けることはしなかった。が、スイッチが
「今日夜あるの見るでしょ?」
「K-i? 一応見るよ」
「ペーターとベルネルド、どっち勝つと思う?」
「ベルネルドって知らない。どんなタイプ?」
「多分ボクサーだったと思う」
「じゃダメだね。ボクシングは最弱だから」
「最弱でもないでしょ。もっと弱いのない? あれとか、あるじゃん、なんかバアちゃんとかが公園でやってるの」
「あー、それ多分太極拳。あれダンスだから。格闘技に入れるのダメでしょ」
「ダンスだったら、相撲も似たようなもんじゃね?」
「いやガチだから。相撲は」
「でも相撲K-iとかに全然出て来ないから、ほんとの強さとか分かんないじゃん。出たらフルボッコにされるかもよ。相撲って打撃ないし」
「いや、張り手とかあるし」
「蹴りないじゃん」
「いや、けたぐりとかもあるから。十分蹴りにも対応できる。ってか、そもそもあの脂肪と筋肉の壁にパンチとかキックとか意味ないからね。間合いに入ったら、力士なら張り手一発でぶっ飛ばせる。脳が揺れるからね、あれは」
「でも相撲ってさ、動き遅いじゃん。当たらないんじゃない?」
「それ
「でも逆に相手が逃げまくるタイプだったらキツくね?」
「それはある。まあその時は体ごとロープ際に追い込んでいくってパターンでいけんじゃない? あーでも、K-iだとレフェリーが試合止めるでしょ。あれ卑怯だよね。あれされたらキツイかも」
「じゃあ総合だったらいける?」
「無双するね」
「でも相撲って寝技あんの? 柔道とか相手だったら相撲キツくね?」
「いや、張り手とかで仕留めれば、
彼の最強説には中身がなかったので、初めの頃は苦しかった。取り分け空手や柔道を習う同級生などは、経験に裏打ちされた具体的な指摘をしてくることもあり、少年にとってやぶさかではない難敵だった。しかし彼は決して諦めることはしなかった。そしてまた彼は絶対に異論を認めなかった。彼にとって相撲最強は、
このように苦労しつつも、少年は相撲最強説を唱え続けた。そして苦しみながらも、異教徒との交流を続ける中で、彼は次第にそれらしい論法をも身に着けていった。つまりパクったのである。
しかし相手は同じ子供である。彼のあまりに自信満々の
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