第三話「永遠の忠義 後編」
次の日
「嵐童殿、お話があります」
「ん? なんだ?」
彦右衛門は昨夜の事を話した。
「・・・・・・すると何か、ワシは既に死んでいると? そしてこの城も」
「ええ」
「そんな事が」
「嵐童殿、本当の事です」
「いや、お主が嘘を言ってないのはわかる。だが何故ワシには御館様のお姿が見えぬのだ?」
「拙者にもわかりませぬ」
「そうか・・・・・・いや?」
「何か思い当たる事でも?」
「・・・・・・おお、思い出してきた。たしか敵が攻めてきた際に一人黒い影のような異形の者がいた。その者は御方様や女中達を取って食おうとしていたのだ」
「もしや妖魔の類?」
「わからんが・・・・・・ワシはそやつから御方様達を守ろうと必死に戦いそしてそやつを倒した。だがそやつは今際の際にワシに向かって何やら呟いておった。その後ワシは敵の武将に・・・・・・そして気がついたらこの城で皆の帰りを」
「それはもしかすると、何かしらの呪いでは?」
「そうなのかもしれんな。だが何故に?」
「それはお前を利用する為だ」
「誰だ!?」
彦右衛門と嵐童は身構えた。
そこに黒い影のような者が現れた。
「ふ、余計な事を言いおって」
「貴様妖魔だな! 何故嵐童殿に呪いを!?」
「俺はそいつに一度討たれたが、時をかければ甦れる。その際にそいつの想いを使わせてもらおうと思ってな」
「何?」
「そいつの忠誠心は人並み外れたもの。そしてその想いが作り出したこの城は見事なものだ。俺はいずれここに他の妖魔や心に闇を持つものを集めて打って出るつもりだった」
「な・・・・・・?」
「嵐童、お前には主達の姿が見えないようにしておいた。いずれ時が来れば俺が主の姿でお前に共に戦おうと言うつもりでいたが」
「たとえ呪われていようと、ワシが御館様とお前などを見間違えるか!」
「そうかもしれんな、では普通に言おう。俺と共にお前の主を討った者の子孫を滅ぼさぬか?」
「何?」
「お前の主を討った者の子孫はこの国の権力者となっている。そやつらさえいなければ、もしかしたらお前の主の子孫が天下を治めていたかもしれんぞ」
「・・・・・・彦右衛門殿」
嵐童が彦右衛門の方を向いて語りかけた。
「もう戦乱の世は終わったのだな?」
「はい、もうはるか昔に」
「国は平和か? 民は?」
「全ての者がとは言えませんが、平穏に暮らしています」
「そうか・・・・・・誰が国を治めようと、民が平穏な暮らしができるならそれでいい。御館様はいつもそう言っていた。だからワシは御館様についていった」
「嵐童殿・・・・・・」
「その平穏を壊すものなどについて行ったら、ワシは不忠義者だ!」
「ならお前を俺の中に取り込むまで、この城はお前なくしては姿を保てぬからな」
妖魔が嵐童を取り込もうと襲いかかった。
「させるか! はあっ!」
しかし嵐童は妖魔を弾き返した!
「な、なんだと!? 想いの力が増している!?」
「ワシを取り込もうなど百年早いわ!」
「ぐ・・・・・・おのれ」
「隙あり! どりゃあああ!!」
彦右衛門が妖魔に斬りかかる。
「ギャアアアーーーー!!」
妖魔は彦右衛門に一刀両断にされ、消滅した。
「やった・・・・・・」
嵐童よ・・・・・・
「あ・・・・・・御館様!?」
どうやら儂の姿が見えるようになったようだな。
「御館様・・・・・・」
お前が命懸けで城を守ってくれたおかげで、儂の妻子や他の者達は皆逃げ出せた。
そしてその子孫達は皆平穏に暮らしておるぞ。
「そ、そうでしたか・・・・・・」
ああ。お前のお陰で後の世に命を繋ぐ事ができた。
礼を言うぞ、嵐童。
「勿体なきお言葉で・・・・・・」
これからは儂等と共にあの世からこの世を見守ろう。
皆お前が来るのを待っているぞ。
お前の好物や酒を用意してな。
「は、ははっ!」
嵐童は頭を垂れた。
さて、彦右衛門殿。
「はっ!」
礼を申すぞ。儂が今の世に生きていればお主を召し抱えたのだがな。
それは叶わぬゆえ、せめてこれを受け取ってくれ。
彦右衛門の前に一粒の豆が浮かんだ。
「これは?」
それはあの世で仏様に頂いた豆だ。それを食えば力が何倍にもなるぞ。
「え、そのような物を拙者に?」
ああ、いずれ儂が認めた者に渡すようにと言われていたのだ。さあ。
「は、では早速」
彦右衛門はその豆を食べた。
すると
「おお・・・・・・力が溢れてくるようだ」
「よかったな、彦右衛門殿」
嵐童の体が透けていった。
「嵐童殿・・・・・・」
達者でな。短い間だったがお主と過ごせて楽しかったぞ。
「ええ・・・・・・」
嵐童の姿が消えた。
気がつくとそこは城の中庭があったあたりだった。
「嵐童殿・・・・・・ん?」
ふと見るとそこにはあの幻の城の中庭と同じようにたくさんの花が咲いていた。
「・・・・・・嵐童殿の心を・・・・・・永遠の忠義を現しているようだな」
彦右衛門はそう思いながら再び仕官を求めて旅立った。
とある浪人石見彦右衛門の不思議道中記はまだまだ続きます。
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