第二話「美貌の女妖怪と…… 前編」
昔々一人の浪人が旅をしていた。
旅の合間に用心棒などして食い扶持を稼ぎながら仕官の口を探してたが
ひょんなことから妙な事に巻き込まれるようになった。
はたして浪人石見彦右衛門は無事仕官できるのだろうか?
「はあ、なかなか光らんなこの数珠」
そう呟きながら歩いていた。
そして夕暮れ、山の麓にある小さな村に辿り着いた。
「どこかに泊めてもらおうか、それとも先へ進むか」
そう思ってると、
「もしお侍様、こんな所で何をなさってますかの?」
この村の住人らしき老婆が声をかけてきた。
「いや、どこか泊めて貰えそうな所はないかと思いまして。ないならこのまま進もうかとも」
「それならわたしの家に泊まりますか? 何もおもてなしできませんが」
「雨露しのげるだけでもありがたい、お願いします」
「でもお侍様、夜が明けたらできるだけ早くこの村から出てった方がいいですよ」
「はて? それはどうしてですか?」
「この村にはたびたび妖怪が出るのです」
「な、なんと?」
「その妖怪は物凄く美人の女妖怪で、村の男はその美貌に惑わされて皆食べられてしまいました。その中にはうちの息子の
「それはまた気の毒に。息子さんを亡くされ、さぞ」
「いえ、死んでませんが」
「は? 今食べられたと?」
「ええ、だから違う意味で」
「そっちかー!」
「はい、皆骨抜きにされて働かなくなりました。このままでは村が……ううう」
老婆が手で顔を覆って泣き出した。
「ふむ、それなら拙者がその妖怪を退治しよう」
「え?」
「なに、こう見えても妖魔の類に対抗できる力はあるぞ」
「しかし、退治できたとしても皆正気に戻ってくれるでしょうか?」
「それはやってみないとわからん。それでご老女、その妖怪はどこにいるかわかりますか?」
「山の方から来るのはわかってるのですが。そうじゃ、夜道など歩いていたら、たいてい餌食になります」
「なるほど。それなら拙者が夜道を歩いてれば向こうから来るかも」
そして彦右衛門は妖怪をおびき寄せるため道を歩き出した。
しかし、いくら歩いても何か来る気配がない。
「……感づいたか? そうだよな、きっとそうだ。決して拙者がいい男ではないので襲いたくないというわけではないよな」
「いや、あんたそこそこいい男だよ」
「うわあああー!? 急に話しかけるなー!」
見た目は絶世の美女、件の妖怪がいつの間にか真横にいた。
「そんな叫ばなくてもいいじゃない」
「おのれ貴様!」
彦右衛門は刀に手をかけた。
「ちょっと待って、私の話を聞いて頂戴。あんたなら話が通じそうかなと思ったので様子を見てたのよ」
「何だ? もしかして村の男達を食べたのには何か理由があるというのか?」
「ええ。あ、私今はこんな姿してるけど、本当は猫又なのよ」
「ほう、猫又がなんで男達を?」
「実はね、この辺によそから妖怪、いやあれは妖魔っていうのかな? まあそいつが流れてきたのよ。でね、そいつめちゃくちゃ強くて私も素では勝てなかったのよ。だから」
「男達から精気を吸い取って力を蓄えてたのか」
「うん、追っ払えたら皆元に戻すつもりだったの」
「それなら村人達にきちんと事情を言えばいいだろうが」
「言ったけど誰も信じてくれないし怖がるんだもん。具吉さん一人をのぞいては」
「具吉? ああ、あの婆さんの息子か」
「ええ……ぽっ」
猫又は頬を赤らめた。
「なるほど。想い人も一時的とはいえ、辛かっただろ」
「うん……でもあいつほっといたら人間も妖怪も滅ぼしそうだし」
「よし、拙者も手伝うからそいつを退治しようか」
「うん。やっぱあんたはわかってくれると思った。でね、あいつは山の上にいるの」
「よし、では行くか」
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