負けない!
仕事帰りになんとなく立ち寄る癖がついた、ショッピングモールのエスカレーターに運ばれながら、そういえば私、美月と朝倉さんが付き合い始めたきっかけとか、聞くの忘れてた。
ふと思い出して、溜め息が零れる。
だってずっと一緒に、彼氏いない歴を積み重ねてきたのに。バレンタインやX'masっていった、カップルのイベントだって、二人一緒だったから、なんてことないよって笑ってこれたのに。
これからは、私一人で寂しさを受けとめなきゃいけないの?勝手に一人で幸せにならないでよ。バカ美月!
やっぱり知らなくていい。二人の馴れ初め聞けるほど、余裕ないんだから。
でも、このまま引き離されたくない。せめて近づきたい。美月みたいに、いきない彼氏は無理でも、出逢いくらいは、私だってほしいよ。
エスカレーターから見上げた先に、黄色い柱が目立つロフトが見えてきた。
ビタミンカラーの店内に入ったら、BGM
が私の好きな曲に変わった。
ちょっとだけ気持ち、浮上したみたい。
そうだ、まずは物からでもいい。例えばストラップとか。ハートのモチーフのものは、恋愛運を引き寄せるとか言うし。子どもっぽくて何が悪い?
美月に対する、羨望と嫉妬心に負けない支えが欲しかった。
『育てたあなたを幸運に導く』がキャッチフレーズの、四葉のクローバーの園芸キット。
ストラップやめて、これにしようかな。っていうのも、スマホのオリジナルカバーがずらりと並ぶその横に、可愛いストラップが沢山あったんだけど、胸を抉るような先客がいたから、慌ててコーナーの反対側に逃げ込んだ。
手をつないで熱心に選んでいるカップルに、別れろ別れろ別れろ!と、不穏な念力を送っていた時、視界に入ったのが、この淡い緑色の鉢植えだったってわけ。
ハートの恋愛運をとるか、緑の幸運をとるか。暫しの浚巡。
「それ、珍しいっスよね」
背後から黄色いジャンパーみたいな制服姿の男が、私の手元を覗きこんでいた。
「四葉のクローバーが、珍しい?」
鉢植えに視線を落とした私に、男はそうそうと頷く。
「よく摘んだり、押し花にするって人は多いけど、育てるってあんまり聞かないじゃないっスか」
あぁ、そういうことか。と納得しながらついでに訊いてみた。
「これって育てたら、本当に幸せになれると思う?」
男は顎を撫でながら
「それは、俺にもわからないっスね」
困ったような口ぶりだ。単なるキャッチフレーズを真に受けるなよ、面倒くせぇ客だな。とか思われたかも。
「まあ、幸せになれるかどうかは別として、いいことあるんじゃないっスかね」
俯きかけた私の頭上に、その言葉は優しく落ちた。いいことの中に、私の望む出逢いだってあるかもしれないじゃない。
「ありがとう。これ買っていくわ」掌に感じる、鉢植えの重さを抱きしめるようにして、私はレジに向かった。
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