スペオペ風 ウサギとカメ

桂かすが

スペオペ風 ウサギとカメ

 とある辺境星系で疫病が流行しました。即時通信網での連絡を受け、銀河帝国政府はすぐにワクチンを乗せた輸送船を送ることにし、業者を募りました。

 名乗りを上げたのは二社。ラビット社とタートル社です。

 双方、うちのほうが早い!と譲らなかったので両方に依頼をすることになりました。幸いワクチンは十分にあったので、両方にワクチンを乗せ、先に届けたほうが勝ち、報酬を多く受け取れます。

 

 タートル社のラムスクープシップがのったりと出発しました。星間物質を集めながらゆっくりと着実に加速していくのです。初速は遅いですが安定した加速が見込め、ほぼ時間の狂いがなく届けることが可能です。

 対してラビット社のジャンプシップは重量場を利用した偏差グラビトンジャンプで高速移動が可能です。計算によると、タートル社の60%程度の時間で先に到着できるはずです。ただしエネルギーを馬鹿食いするので、途中の補給が不可欠です。辺境宙域は補給路が確立していませんし、政府がラビット社のみに任せる判断ができなかったのは、そこが不安材料だったのです。


 当初の予想通り、ラビット社がタートル社をゆうゆうと引き離し、順調に先行しました。タートル社の船も予定通り光速を突破し更に加速続けていましたが、どうやらラビット社がそのまま勝利しそうな情勢です。


 しかし終盤、ラビット社にトラブルが発生しました。予定していた補給地点に良質のエネルギー物質がまったくなかったのです。速度重視の航路計画を作った弊害で、もはやジャンプするエネルギーは残っていません。通常航行でつぎの補給地点へ向かうと、500年はかかってしまいます。

 ラビット社の船は観念して救難信号を発信しました。

 

 そこにタートル社の船が減速しつつ通過しようとし、救難信号をキャッチしました。


「ラビット社、助けは必要か?」

「不要だ、タートル社。物資を届けられたし」

「トラブルの原因は何か?」

「ただのエネルギー不足なり。船内環境は何ら問題なし。其方の旅の安全を祈る」

「エネルギーの不足はいかほどか?」

「450テラエルグあれば、目的の星域にたどり着けるであろう。近辺の補給地の情報ありや?」

 少ししてタートル社から返事がありました。

「ある。航路情報を送る」

「おお、なんと有り難い!」

 ラビット社は喜びました。近場に補給地があれば、もう勝負には勝てないにせよ、救援を待つ必要はなくなります。

 しかし届いた航路情報を見て、ラビット社は返事をしました。

「これは受け取れない」

「我々はすでに減速シークエンスに入っているし、これが最適解である。時間が何よりも優先だ。違うか?」

「……感謝する、タートル社」

 ラビット社は速度を合わせ、タートル社の射出したエネルギーを受け取りました。

 タートル社の船のエネルギーがあれば、ラビット社の船はタートル社の船がそのまま航行するより3日は早く、辺境星域に到着することができるのです。

「我々はまたゆっくりと加速して辺境星域に行くこととしよう。旅の安全を、ラビット社」

「旅の安全を、タートル社」


 こうしてワクチンは無事届けられ辺境星域は救われました。

 負けたタートル社は赤字となりましたが、ラビット社とタートル社の競争は銀河宇宙でも評判の競争となり、その後タートル社も十分な利益を得ることができたのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る