第28話 飛行機に乗りました

 ロボットがいた。


 と言っても、二足歩行の物ではなく円柱型で、R2-○2のボディのみのようなものが宙に浮いている。


 というか、いつの間に現れたのだろう。まるで転移してきたかのように、一瞬で現れた。


「何なんだ、お前たちは! 私に無礼を働けばどうなるのか分かっているのか!」


「今スグソノ手ヲ放シテ投降シテクダサイ」


 太い人は狼狽えていたが、それでも自分の優位を疑っていなかった。そんな相手に対してもロボットは変わらず説得していた。


 よくよくロボットの声を聞いてみると、ネギを持ったりしている某ボカロの声にそっくりだった。


「いい加減にしろ! 儂から離れろ!」


 太い人はそう言うと、ロボットを手で払い除けた。


「警告! 警告! 公務執行妨害ニヨリ犯罪レベルヲ2ニ変更シマス。ソレニ伴イ武装レベル1ヲ解除シマス」


 すると、再びアラーム音が鳴り、Cの形の手みたいなものがロボット一体につき二個現れた。その先端にはバチバチと光るものが見えた。恐らくスタンガン的な物だろう。


 それを見た太い人は自分の身の危険を感じたのか、魔法の詠唱を始めた。


「くっ、我は求む――」


「警告! 警告! 魔力感知! 対象ニ敵意アリ! 犯罪レベルヲ三、武装レベルヲ二ヘ移行、強制執行モードニ入リマス!」


 魔法の詠唱が始まると、ロボットのアラーム音が強くなり、謎のビームが出てきた。


 それをまともに喰らった太い人は、叫ぶ間も無く意識を途絶えさせた。


「お客様、お騒がせして申し訳ありません。ルールを守れない方は此方の法により裁かれますので、ご容赦ください。それでは、空港都市ゲートウェイをお楽しみ下さい」


 先程絡まれていた係員が何事もなかったように笑顔でそう言った。そして太い人はロボットに連れて行かれていた。


 太い人はロボットに囲まれて横たわったまま浮いているのは、魔法かなんかなのだろうか。


「次の方、此方へどうぞ!」


 いつの間にか自分の番になっていた。あんなことがあっても普通に仕事をしているとは、こういうクレームはよくあることなのだろう。


「ショウさん、呼ばれてますよ」


「はいはい」


 騒ぎのあった方を見ていた俺に、お下げ髪が催促してきたので、ダラダラと受付に向かっていった。


 受付には20代後半と思われる女性が行っていた。他の受付も見てみるが、大半は若い女性であった。


……これは創設者の趣味なんだろうか?


「お客様は当空港のご利用は初めてですか?」


「いえ……、初めてです」


 地球では航空券を買ったことはあるはが、同じとは限らないのでそう答えておいた。


「それでは簡単にご説明させていただきます。当空港では東方大陸行きの飛行機が出ています。それに乗るためには此方で航空券を買っていただく必要があります。

 飛行機の座席には三つクラスがあり、そのクラス毎に設備や値段が違います。一番上はファーストクラスで値段は五十万センとなっています。二番目はセカンドクラスで二十五万センです。三番目はサードクラスで五万センとなっています。

 設備の違いとしましては、座席の広さや機内での軽食の内容などに差があります。座席はサードクラスの大きさを一とすると、セカンドクラスは三、ファーストクラスは五となります。また、座席の質にも違いがあります。

 軽食は、セカンドクラスとファーストクラスに付きます。違いとしましては、ファーストクラスの方が種類が多いことです」


 要するに、日本で言うところのファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスのようなものだった。


 ファーストクラスやセカンドクラスだと先程のような面倒な貴族がいそうだったので、一番安いサードクラスを選んだ。


「サードクラスですね? では、お二人で十万センになります」


 ん? 二人? 


 俺は疑問に思い横を見ると、にこやかな顔でこちらを見ているお下げ髪がちゃっかりいた。こいつの分も払うのは不服ではあるが、ここで言い合うのも面倒なので後で請求することにした。


「では、此方が航空券になります。これが無いと搭乗出来ませんので、無くさないようお願い致します。ご搭乗の際はあちらのゲートで係員の指示に従って下さい」


 そう言われ受付嬢の示した方を見てみると、搭乗ゲートと書かれた看板が見えた。恐らくそこから三階に行き出国審査を受けたりするのだろう。


 俺達は航空券を受け取ると、搭乗ゲートの方へと歩いて行った。


 この世界にはパスポートのようなものは無い。ギルドカードが身分証のようなものであるが、それでも身元がはっきりするものではない。そう言いった観点から防犯対策は結構厳重にするのだろうか。


 と思っていたら、拍子抜けであった。出国審査として行われたのは二つだけ。まず、ゲート型金属探知機のようなものを潜る。その後、受付で身分証明、俺の場合ギルドカードを見せる、と東方大陸に向かう理由など二、三の質問をされただけだった。


 特に問題無かった俺達は、四階の待合所で寛いでいる。ここではなんと、飲み物がセルフサービスとなっていて、その種類はこの世界では見ることの無かったコーラやメロンソーダ等、日本のファミレスでよく見たドリンクバーそのものであった。


「ショウさん、ショウさん! これ凄いですよ! ボタンを押すとジュースが出てきますよ! しかもこれ冷たいですよ! これがタダなんて太っ腹ですね!」


「あー、確かにこっちじゃ珍しいな」


 中央大陸では冷蔵技術はほとんど発達しておらず、飲み物がぬるかったのを思い出した。料理が良かっただけにそれが少し残念だったのは覚えている。まあ、竜の里では普通に冷たい飲み物が出ていたから、今の今まで忘れていたが。


「ショウさんの世界ではこれが普通なんですか。かなり便利な世界だったんですね」


「まー、この世界よりは圧倒的にな。ただ、東方大陸の方がもっと便利な気はするけどな」


 そう言って俺は手元の東方大陸のすゝめに目を落とした。そこに書かれていた内容は、現代の地球よりも遥かに発展している東方大陸の技術である。挙げればきりがないが、最も目を引くのはクリーンエネルギーと食物作成のオートメーション化である。


 前者は空気中の魔素を魔力に変換し、それをエネルギーにしているらしい。


 お下げ髪曰く、これ自体はそこまで珍しくはないようだが、東方大陸ではそれぞれの変換効率が百パーセントであることが異常であり、普通は良くて十パーセントらしい。つまり、通常では魔素からエネルギーになるまでに百分の一となっており、とてもじゃないが使える物ではなく、人によって魔力の補充をする必要があるようだ。


 因みに人間の魔力は魔素を吸収することで回復する。普通の魔法使いならば一晩で回復していることから、変換効率が高ければ十分魔素でエネルギーを使えることが分かる。


 後者の食物作成のオートメーション化であるが、東方大陸には専用の場所があり、そこではあらゆる作物が育てられ、家畜も飼育されている。天候などは作物の状態で逐一変わるようになっていて、家畜の餌も自動で与えられる。


 また、収穫されたものは保管庫に仕舞われる。保管庫は入れたものの状態を維持もしくは加速させる機能があるようだ。これにより食べ物が腐ることは無いし、必要に応じて熟成させることも出来るらしい。そして、保管庫にあるもので東方大陸での食料は賄われていて、注文された時にここから必要量取り出され、自動で調理されて提供されるらしい。


 東方大陸のすゝめを読んでいるうちに時間は経ったようで、何処からともなくアナウンスが聞こえてきた。


「搭乗時刻となりました。航空券をお持ちの方は搭乗口までお越しください」


 どうやら出発の時間になったらしい。俺は持っていた冊子をストレージに入れ、搭乗口へと向かった。

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