第26話 特訓しました

 竜王に指導してもらう間、俺は城に泊まる事になった。食事も用意してもらったのだが、かなりレベルが高かった。地球にいた頃では食べたことのないが、一流ホテルの食事っていうものは恐らくこういうのを言うのだろう。念願のハイパーキャトルの肉も出てきて、思う存分堪能することが出来た。


 いやあ、これを食べられただけでもこっちの世界に来て良かったと思える。何せリアルでは、肉と言ったらグラム当たり五十円前後の鶏肉が常で、たまに豚肉が食卓に出てきて、牛肉なんて特別な日にしか食べることはなかったからなぁ。


 とそんな感じで、食事を満喫した俺は用意された部屋で休むことにした。




――――――




 さて、明けて翌日、早速特訓が始まる。俺は昨日赤龍達と戦った場所に来ている。ちなみにお下げ髪は竜の里で情報収集すると言って別行動をしている。来た当初はあんなに怖がっていたのに、商魂逞しいというか何というか……。


 兎も角、神力の訓練とは一体何をするのだろうか。


「では、これから始めるが、お前は神力についてどれだけ知っている?」


「神の権限が行使できる何か凄い力って事だけで、まあ、よくわかってません」


 正面で腕を組んでいる竜王に神力について問われたが、よく考えてみると何も知らないことに気づいた。


「では、まず神力について説明してやる。そもそも神力とはその名の通り神の力だ。この力はこの世界の本来の姿に干渉出来ると言われている」


「この世界の本来の姿?」


「そうだ。一般の認識では、魔法等はこの世界の事象の書き換えを行っていると考えられている。だが実際はこの世界で起こり得る事象しか行使できない。

 例えば、ファイアは火を起こす、ウィンドは風を起こす等、魔法でなくとも起こり得るものだ。また、その威力はあくまでもこの世界で起きる最大のものにとどまる。

 だが、神力を用いた場合、その枷は外れ、限界が無くなりどんな現象でも起こす事が出来る。

 分かりやすいのは時空魔法だな。時魔法は、本来進むだけの不可逆的な事象である時間に作用し、時間を戻すことや、過去に行くことが出来る。空間魔法であれば、お前が使ってるその靴の様に転移等のように、本来繋がらないはずの空間を繋げることが出来るとかだな。

 また、神力は神格者でなくとも、ある程度は持っていることもある。例えば、呪いや召喚系統の魔法を使える者がそれだな。こういった者達は神格者になる可能性があるが、殆どは神力の事を知らずに一生を終えるな」


 なるほど。魔法と一括りにされている中にも、さり気無く神力が必要なものがあるのか。


「まあ、何となく分かったけど、結局神力を使うにはどうしたらいいんですか?」


 薀蓄はどうでもいいので、早く使い方を知りたかった俺は、急かすようにそう言った。


「ん?ああ、じゃあ、手を出してくれ」


 そう言われて、俺は右手を前に出した。すると、その手を竜王が掴んだ。今、俺達は握手している形になっている。


「これは?」


「今から神力をお前の身体に流す。それで神力を感じろ」


「は?」


 碌に説明のないまま、急に手から何かが流れて来るのを感じた。恐らくこれが神力なのだろう。


「この感じが神力ですか?」


「ん?もう感じることができたのか。なら、さらに流し込んでいくから、それを体から放出させるようにイメージしろ」


 そう言われると、先ほどよりもかなりの量が流れ込んでくるのを感じた。そして、段々と身体が熱くなり、息苦しくなってきた。


「くっ、かはっ」


「どうした?早く体内から出さないと、お前の体が持たんぞ!」


 やっぱり、危険な感じだったのか。というか、そんなのやらせるなって。まあ、今は結構ヤバい感じだから、文句を言うのは後にしよう。


 俺は身体中に巡っている神力に意識を集中した。すると、僅かではあるが体から出ていっているのがわかった。要はこれを意識的にやればいいわけだ。


 ゆっくり息を吐き、呼吸を整え、身体の中心から外に追い出すイメージをする。すると徐々に放出される量が増えているのがわかった。後はひたすらその繰り返しで、外へ外へとイメージし、神力を放出していった。放出量が多くなってくると、息苦しさも無くなり、随分楽になった。


 かれこれ一時間位はやっていただろうか、俺は完全に神力を感じることが出来るようになった。また、その副産物と言うべきか、神力の他に魔力を感じることが出来るようになった。竜王に聞いたところ、魔力は神力の下位互換みたいなものだからじゃないかということらしい。最も、魔力を感じることが出来なかったのに驚かれたりしたのだが。


 さて、こんな感じで神力を感じることが出来るようになった訳だが、これは序の口らしく、まだまだ訓練は続くようだ。


「では、次に進める。まず自身の神力を表出させてみろ」


 そう言われて、俺は先ほどの感覚を思い出しながら、神力を放出した。何と言うかオーラっぽいものが身体中から溢れ出てきた。


「うむ。では神力の放出を半分ほどに抑えてみろ」


 そう言われて神力の放出を抑えた。ちょっと梃子摺ったが、そこまで苦労せず出来た。


「出来たな。では神力を目に集中させろ。今まで意識してなかっただろうが、相手のステータスを確認するときには必ず目に神力が集中するはずだ。さらに、目に神力を集中させることで神力や魔力等の力の流れが見えるようになる」


 次に、神力を目に集中した。始めてから暫くは、神力は体中に分散されていたが、慣れてくると眼だけに集めることが出来た。しかし、ステータスを見ることは出来なかった。竜王のが見えないのはいいのだが、離れた場所で訓練をしている一般兵の物も見えなかった。


「えっと、ステータスが見えないんですが?」


「それは集中させている神力が少ないからだろう。さっき神力を減らしたのはコントロールしやすくするためだ。部位ごとに集中させることが出来たら、徐々に神力を増やしていけ。そうすればステータスも見ることが出来るだろう」


 段々と増やしてみると、別の場所から神力が溢れてきた。これが意外に難しく量が増えれば増えるほどやり辛くなっていった。


 結局、出来るようになるまで二時間ほどかかったが、全力で神力を解放してもコントロールできるくらいにまでなった。


「やはり、と言うべきか、流石と言うべきか……。普通はそこまで出来るようになるためには、数百年修行を積むものなんだがな。」


「は!? というか、そんなの普通の人間だったら寿命で死ぬだろ、それ!」


 あまりの衝撃的な内容に思わず突っ込んでしまった。いや、無茶苦茶なことをやらされている感じはあったが、そこまで難しいものだとは思わなかった。


「神力を手にした時点でその種族から逸脱した存在になるから、その種族の寿命なんて関係ない。それにお前の力は明らかにおかしかったから、大丈夫だと踏んだだけだ」


「は?」


 あんたに言われる筋合いはないと思うのだが。まあ、おかしいことは認めるが……。


「納得いかないという表情だな。まあ、仕方ないだろう。他の神力者にあったことが無いのだろう?」


「ああ」


「普通、神力はあくまで自身の力を拡張させる手段に過ぎない。先に言った様な魔法とかだな。ただ、お前はそもそも神力によって自身の力が決められているようだ」


「と言うと?」


「つまりだ、普通はお前のように神力しか特殊能力が無い奴はいない。というよりも、そもそも神力が特殊能力に表示されることは無い。それこそ本物の神と呼ばれるような存在でもなければな。そういった意味では、お前は既に神であるとも言える。

 まあ、それはいいとして、お前の特異性は自身のステータス設定だ。そんなことはこの世に生きるモノであればまず出来はしない。すると、お前は何なのかということになる。

 もしかしたら神族かとも思ったが、それにしてはこの世界のことを知らなすぎる。そう言った意味では、異世界からの転生者と考えるのが妥当だろう。転生者自体はそれほど珍しいもんでもないからな。

 だが、そうすると神力を使える理由が無い。では、お前は何なのか。まあ、結論としては神が作った肉体に異世界の魂を突っ込んだ存在ってとこが妥当だろう。お前の武具もそんな感じだしな」


「はあ」


 何か人間辞めたと思ってたら、いつの間にか神になっていたらしい。確かに魂だけこっちに連れてきたとか何とか説明された気がするが……。


 まあ、何はともあれ神力のコントロールも出来たことだし、これで特訓は終わりらしい。結局、一日で終わってしまったので、今日のところはもう一泊して、明日にでも東を目指すことにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る