第22話 竜の里を訪れました

 竜の里、それは北方大陸の中央に存在する竜族の住まう場所。創世記より存在する竜王を頂点とした絶対王政にして実力至上主義の国である。国交は断絶されているが、外の文化を取り入れないということは無く、それらを吸収し独自の文化として築き上げている。また、町並みも中央大陸ではゴシック様式の中世ヨーロッパみたいであったのに対し、此方ではヴェルサイユ宮殿のようなバロック様式の王城が中央にあり、町並みも近世の雰囲気を感じる。


 そういうわけで現在、竜の里に居るのだが、どうもイメージとのギャップに戸惑っている。普通、竜の里って言ったら山の中とか山岳地帯で所々に竜がいるってのを考えていたわけだ。なのに、普通にフランスに海外旅行に来たような感じなのである。これでは“里”ではなく“街”とか“都”とか言った方がしっくりくる。


 百歩譲ってそれはいいとしよう。ただ、竜の里に居るのが全員人型なのは納得いかない。確かに、漫画やアニメでは竜やその他諸々が人化するのはよくある。ただ、そう言った場合は鱗とか尻尾とか何かしら名残があるはずなのに、ここで見かけるのは完全に人族と見分けがつかないのである。


 ちなみに、飛竜は里の前で俺達を降ろし街の中に入ると人化していた。どうしたのか聞いたところ、この里には特殊な結界が張られていて、防御機能は勿論の事、その他にも様々な機能があり、その一つにどんな種族でも結界内にいる限り人化するという機能があるらしい。人族を下に見てるとかそういった設定はどうしたとツッコミを入れた所、それが嫌で里の外に居たとか何とか。また竜族でも全員が全員、他種族を下に見ているわけではないらしい。まあ、そこの辺りは人族でも一部で亜人差別とかあるようだし、個人差の範囲なんだろう。


 さて、そんな風に悶々としていた所、ふと声を掛けられた。


「では、これから私は竜王様に報告へ行きますので、ショウ様達は、今日のところは宿でお休みになって下さい。恐らく、明日には竜王様にお目通り出来ると思いますので。宿ですが、ここの道を真っ直ぐ行って右手にある“羽休め亭”に行ってください。私の名前を出せば、快く泊めてもらえるはずです」


「ああ、分かった」


「それでは、失礼します」


 そう言って、飛竜はヴェルサイユ宮殿モドキの方に向かって行った。


「何か疲れたし、さっさと宿に行って休むか」


 結局、竜の里に着いた頃には日が暮れており、半日ちょっとの初めての空の旅で疲れがたまっていた為、俺は真っ直ぐ宿へと向かった。後ろからお下げ髪が付いて来て何か言っていたが、覚えていない。




――――――




「ここか」


 俺は“羽休め亭”と書かれ看板が吊下げられた建物にたどり着いた。その看板には、竜が羽を折り畳み丸くなっている絵が描かれていて、その宿を象徴するようであった。中に入ると、ホテルのロビーのようになっていて、カウンターには一人の女性がいた。女性は風格のある女将といった感じで、スッと背筋を伸ばし凛としていた。


「すいません。飛竜のストライダーから紹介されてきたんですが」


 俺はカウンターに居た女性に話しかけた。すると、女性は少し驚いた表情でこちらを見て、すぐに笑顔になった。


「人族とは珍しいねぇ。しかもあの子の紹介と来たもんだ」


 受付の人が何やら意味深な事を言いだした。面倒事でなければいいが……。そう考え、聞かない方がいいかとも思ったが、手遅れな気もしたので聞くことにした。


「あの飛竜をご存知で?」


「知ってるも何も息子だしねぇ。まあ、あっちこっち飛び回ってて、偶に帰って来たと思ったら貴方達のような訳ありの客を家に紹介していくしょうもない子さ。と、そんなことより家で泊まるのかい? 一人一泊七千五百センで朝食付きだよ。何泊するんだい?」


「そうですね。まあ、取りあえず一週間お願いします」


「そっちのお嬢さんはどうするんだい?」


 そう言って、女将さん (仮)はお下げ髪の方を見て尋ねた。


「えっ、あっ、はい! 私もショウさんと同じでお願いします!」


 慌てふためくお下げ髪を見て、彼女は左手を口元に置きクスッと笑った。竜の里に入ってから妙に静かだと思っていたら、どうやら萎縮していたらしい。


「別にとって食おうなんて思ってないから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。けど、それが普通の反応かね」


「何か俺が異常だと言われているみたいですが?」


「自覚は無いのかねぇ」


「……、初対面ですよね」


「そうだね。まあそう言われたくなければ、もう少し力を隠すことだね」


「はあ、……取りあえずお金です」


「はいよ。じゃあ鍵を渡すけど、無くしたり壊したりしたら弁償してもらうことになるからね。あと、朝食は六時から十時までの間で、それ以外の時間は有料になるから気を付けるように」


 俺達は鍵を受け取り、泊まる部屋へと向かった。


「あの、ショウさん!」


 部屋に入ろうとすると、お下げ髪に呼び止められた。


「ん? 早く休みたいから、用があるなら手短に」


「あの、ですね、その……」


「はあ、じゃあ明日の朝食の時でいいか?」


 なかなか話を切り出さないので、さっさと寝たい俺は部屋に入ろうとしたが、後ろから手を掴まれた。


「待ってください! あの、同じ部屋で寝ては駄目ですか!」


 一瞬、何を言ってるんだこいつと思い、彼女の方を見てみると、潤んだ瞳でこちらの顔をのぞき込んでいた。恐らく、竜族といった人族にとっては超常の存在が闊歩しているここで、一人でいることが不安なんだろう。普通ならここで慰めたり、イケメンなら添い寝みたいなことをするのかもしれないが、俺にそんなスキルは無い。ということで、完全スルーの方向に決めた。


「あー、寝言は寝てから言うように。それに、ここで何かが起こるわけでもないんだし、自分の部屋で休め」


「そんなぁ」


 俺は彼女の手を剥がし、部屋へと入った。彼女の情けない声が聞こえたが、まあいいだろう。




――――――




 さて、一眠りする前にステータスの確認をしなくてはいけない。何せ神鳥を倒したんだ。ランクが上がっていても不思議ではない。ステータスを確認したところ、案の定変わっていて、第八級神相当となっていた。


 第八級神の権限として、自身のステータス設定各三万まで、中級レベルの魔法・法力・呪法の無詠唱使用、特殊魔法の一般・探索、習熟能力の武術(中級)、自分より下位の存在のステータス確認、既知の固有能力(但し、一部例外あり)とあった。


 はて、固有能力とは何ぞやということで、調べてみた所、特殊能力の分類の一つらしい。特殊能力の分類というのは、魔法(魔法や法力など)や武術(剣術や槍術など)の習熟能力、特定条件下で発動する固有能力、常に発動する常駐能力がある。習熟能力の後ろには()があり、初級、中級、上級のいずれかが表示されるようだ。


 今までは何となくでやっていたが、そう言われると確かに熟練度があるのと無いのがあった気がする。まあ、気にするほどのことも無かった訳だが。因みに、現在使用可能固有能力は威圧、咆哮の二つみたいだ。


 また、呪法が中級まで使えるようになったみたいなので、メニューで確認した。すると、対象を毒状態にするポイズンや眠り状態にするスリープといったメジャーどころから催眠を掛けるヒプノタイズや相手を自在に操るマリオネットなどがあった。中には相手を麻痺状態にするパラライズは、用途が完全にスタンと被っていて、そういったものが他にもいくつかあった。また、状態異常系以外にも相手の身体能力を下げたり、特殊能力を封じたりするものもあった。これで戦術がかなり広がったが、まだ自身の魔法を使い切っていないのに新しいのを覚えても、どうせ何個かしか使わない気もするが。


 とまあ、そんな感じで新しい能力を確認し一息ついたところで、俺は床に就いた。

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