第20話 昔話を聞きました
俺は動揺しつつも、それを表に出さないように努めて、聞き直した。
「えっと、今何と?」
「ん? 其方等はこの世界とは別の世界から来た者達かと聞いたのだ。ああ、そんなに警戒せずともよい。別に何かするわけでもないし、そもそも出来ないからな。異世界人に会ったら伝えるようにと代々言い伝えられていることがある」
「出来ない?」
とりあえず、心配はなさそうであるが、確信が欲しかった。
「うむ。それを知らないことこそ異世界人である証拠でもあるのだがな。……まあ、それはともかく、この世界には“勇者の天罰”があるのだ」
どうやら墓穴を掘ったようだ。まあ、しょうがないし、話を進めよう。
「勇者の天罰?」
「簡単に言うとですね、この世界の人間が異世界人に害をなしたとき、その者に関する全てのモノがこの世界から消滅してしまうんですよ。それで一国が滅んだっていう話もありますしね」
俺の問いに隣に居たお下げ髪が答えた。
「それはまたどうして?」
「まあ、これはお伽噺として子供の頃から聞かされたりもしているが……。簡単にでいいなら話すが、どうする?」
「お願いします」
「そうか、わかった」
ゲームの時には無かった新しい設定のようだったので、聞くことにした。
「かつて魔王が存在し、魔物やモンスターが世に蔓延っていた時代、とある王国が魔王を倒すべく今では禁術とされている勇者召喚の儀式を行った。そこで召喚されたのは、戦いはおろか魔法すら知らない年端のいかない少年であったという。しかし、彼には類稀なる魔法の才があり、瞬く間に世界最強の魔導士となった。そんな彼は自分を保護して鍛えてくれた国に恩を返すべく魔王討伐の旅へ出たそうだ。その道中、彼は様々な出会いがあり、多くの仲間も出来ていた。そんな彼も魔王相手では厳しいと思われていたが、難なく魔王を倒し仲間と共に国へ帰還した。そうして世界に平和を齎した彼は、旅の途中で出来た愛する者と共にこの世界で静かに暮らすはずだった……。
魔王が居なくなり一年が過ぎたある日、彼の愛する者が攫われたのだ。その日、彼は数日かかる依頼を受けており、家にいなかったところを狙われた。彼は自身の力を使い、彼女を見つけ出した。彼は彼女を攫ったと思われる犯人宅へと向かった。ここで彼は間違ってしまった。彼はあまりにも優しすぎ、人を信用し過ぎていた。だからだろう、ちゃんと話せば彼女を返して貰えると思ってしまったのは……。結果から言うと彼女は死んでしまった。その過程に何があったのかは伝わっていない。交渉決裂でその犯人が殺したのか、彼女が自害したのか分からない。ただ、結果としてこれが彼を変えてしまった。
彼女が死んだ後、彼は犯人を殺し、その繋がりのあるものは全て消していった。それが個人であろうと国であろうと。そして、彼は犯人達を滅ぼした後に世界にこう宣言した。
『俺はこの世界を許さない。そして俺の大事なものを傷つける奴は生かしておかない。今後同じようなことがあれば、それを行った者はもちろん、そいつに関係するものは全て滅ぼす。これは絶対にして、未来永劫変わらないものと思え!』
その後、彼の姿を見たものは居ないそうだ。
それから千年後、再び魔王が現れた。当時の主要国も勇者召喚を行い異世界から人を呼び寄せた。この時は四人召喚されたらしい。その中の一人の少女は全く力が無く、他の三人は勇者としての力があったそうだ。魔王討伐までの流れはここでは割愛させてもらうが、三人で魔王の討伐は出来ず封印することになった。その時、隔離世界としてできたのが、ここと似て非なる世界で“第二世界”と呼ばれている。斯くして、この世界に再び平穏が訪れた。
しかし、やはり平和になるとよからぬことを考える奴が出てくる。召喚された力のない少女を人質に勇者たちを取り込もうとした輩が出た。しかし、其奴はその少女を攫ったとき謎の死を迎えたそうだ。そして、その者と関わりのある者も全てが変死したらしい。それが原因かは分からぬが、実際に国が一つ機能しなくなるくらいは人が死んだようだ。これは偶然とは言い難く、初代勇者の天罰であると結論付けられ、今後勇者召喚を行うことは禁止とし、異世界から来た者がいた場合、その者には極力干渉しないことを定めたのだ」
国王は話終わると、ふぅーと息をつき椅子に深く座りなおした。
「とまあ、そういうわけだ。この事があるから国家ギルド間相互不干渉規約だったり、緊急依頼が強制ではなかったりするわけだ。異世界人は高確率で基礎能力が高く、かつギルドに所属することが多いからな」
「ふーん。何というか、ちょっかい出す奴も奴だが、それに対しての罰が次元を超えてるな。さすがは魔法で伸し上がった勇者ってところか」
俺はいつの時代も下らない事を考える奴は居るんだなと辟易しつつ、勇者の規格外っぷりに舌を巻いた。何というか、そんな恩知らずがいれば、俺も同じことをするかもしれない。……まあ、そんな大事な人なんか居ないが。この件はこんなもんでいいだろう。あとは、先程伝える事があるとか言ってたな。
「そういえば、伝える事って何ですか?」
「ああ、それは、帰りたければ時空神殿を目指せ、だそうた」
何というかざっくりしてるな。まあ、帰る手掛かりが得られたのは予想外だった。やっぱり、あの神様の情報だけじゃなく、この世界での情報収集も大事なんだということを心に刻んだ。
「ちなみに、それは誰から言われた事ですか?」
「それはわからん。何分にも初代国王の時代から伝わっている事なのでな。恐らくは、初代勇者ではないかと言われている」
「そうですか。他には何か無いですか? 時空神殿の場所とか、他の異世界人はいるのかとか」
得られる情報はなるべく得たいので、国王に尋ねてみた。
「時空神殿の場所は、竜の里がある北方大陸より遥か北にあると言われている。詳しい場所は分からないが、竜の里ならば何か手がかりはあるやもしれん。他の異世界人については言うことは出来ない。何が勇者の琴線に触れるか判らんからな」
「そうですか」
期待はしていなかったが、あまり情報が得られず、俺は肩を落とした。これで話は終わりらしく、俺達は国王に別れを告げ、部屋を出た。その後はコンラートさんに城門まで案内され、俺達は城を後にした。
――――――
ギルド酒場にて、俺達は一つの丸テーブルを囲んでいる。座っているのは、俺、アズマさん、お下げ髪の三人である。何故こんなことになっているかというと、城を出た後、お下げ髪が一時的にでもパーティーを組んだ者同士、最後に話をしましょうとか言ってこうなった。俺はあまり乗り気ではなかったが、お下げ髪があまりにもしつこかったので行くことにした。
「それでは、ランクB昇格とそれぞれの新たな旅立ちを祝して乾杯!」
お下げ髪はそう言うと、手に持っていた木製のコップを掲げた。俺とアズマさんもそれに倣って、コップを掲げた。
「かんぱーい」
「乾杯」
「二人とももっと嬉しそうにしましょうよ!」
「あのなあ、俺はそもそも乗り気じゃないし、アズマさんは元々そんなにテンション高くないからな」
「はあ、まあいいです。じゃあ、気を取り直して。アズマさんはこれから騎士として王国で働くんですよね?」
「ああ。別れ際に、コンラートさんに明日また来るように言われたな。その時、詳しい話があるんだろう」
「そうなんですか! しかし、事情は分かりますが、それでもよく引き受けましたね?」
「まあな。デメリットもあるが、それに目を瞑れば、まあいい職場だからな。冒険者なんて不確定な職よりかはいいと思ってな」
「おい、お下げ。何でそんなに王国にきつく当たるんだ?」
「ショウさん! もう名前で呼ぶ気はないんですか!? はー、……で、王国にきつく当たる理由ですか? まあ、そんなに深い理由は無いですよ。まあ、簡単に言えば、安全な場所でふんぞり返ってるだけの人間に仕えるつもりはないというだけです」
「手厳しいな」
「アズマさんが困ってるじゃないか。謝れ、お下げ」
「あ、すいません、アズマさん。というか、ショウさんの世界ではどうか知りませんが、この世界ではいつ死んでもおかしくないくらい、命は軽いものなんですよ? それを信用出来ない人間に捧げようと思いますか?」
「んー、そういうもんか」
「そういうもんです。で、ショウさんはこの後どうするんですか? また、始まりの街に戻るんですか? それとも時空神殿を目指すんですか?」
「ああ、一応帰らないといけないし、時空神殿だな。まあ、まずは北に行って情報収集するけどな」
「そうですか。けど、北へはどうやって行くんですか? 大陸間への移動手段は船か飛行船ですが、北へはどちらも出ていませんよ?」
「ん? 移動手段が無いのか?」
「本当に何にも知らないんですね。北方大陸は竜の里があるのは知ってますよね? 竜族は閉鎖的な種族で国交は行っていないんですよ。それで、向こうに港を作れなくてですね……。それに彼らは自力で大陸間を移動できますし、船等の必要性がないのも要因ですね。」
「ふーん、まあいいや。多分何とかなるし」
「何とかなるって……、まあ、ショウさんなら何とかしそうですね」
「ショウなら大丈夫だろ」
二人に何か微妙な表情で納得されているようだった。なんかショウが変人の代名詞に聞こえたのは気のせいだろうか。うん、気のせいということにしよう。
この後、ゴブリンルーラー討伐の時の話をしたり、盗賊団の討伐の話を聞いたり、その間俺が何をしていたのか聞かれたりと、これまであったことを話してお開きとなった。
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