テンプレ上等!

下トl

第1話 人間辞めました

「……はぁ、はぁ。うぉぉ!」


 俺は目の前で瀕死になっているゴブリンへ全力で剣を振り下ろした。ゴブリンは蓄積したダメージで動くことができず、そのまま剣で真っ二つになった。すると、ゴブリンは光の粒子となって消えていった。


「ふぅ。これで最後の一体か。しかし、レベル99で最弱モンスターのゴブリンとサシでの勝負がやっととか、ほんとクソゲーだな」


 そうやって愚痴をこぼしていると、レベルアップを知らせる、ウィンドウが出てきた。


『おめでとうございます! 経験値が4509になったため、レベル100となりました! ▼』


 ようやく100になったか、と感慨深くウィンドウを見ていると、いつもは無いはずの続きがあった。


『レベルが100になったため、様々な特典が与えられます。そのためには以下の選択肢に「はい」と答えてください ▼』


 これはチートっぽい能力が得られるのか? 何かのフラグか? と期待半分不安半分で続きを見た。


『人間辞めますか? はいorいいえ』


「は?」


 俺は訳がわからず、しばらく呆然とした。




――――――




 VR技術が確立して十数年が経った。VR技術は初めはゲーム機器として利用されていたが、その有用性が認められ、現在では医療や教育など様々な分野で用いられている。VR技術を用いたゲームで最も人気を博しているのがVRMMOである。


 俺、渡会翔 (わたらいかける)もその例外になく、VRMMOにハマった一人である。王道RPGからまったり生活モノなど様々なジャンルをプレイしてきた。そして、いまハマっているのが「Normalization Online」というゲーム。これは、人間を滅ぼそうとする魔王を倒すという一見したら王道RPGなのだが、そのプレーヤーの能力設定にかなり問題がある。


 まず魔法が使えない。これは他のVRMMOでもある事なのでまだいい。次に初期能力が村人以下である。これは本人の能力を反映したものであると説明書には書いてある。確かに魔物なんかの出る世界で生活している人より、現代っ子である俺の能力が低いのは当たり前だ。だがゲームにそこまでリアリティは求めていない。そして極めつけは、レベルが上がっても能力がほとんど上がらないことである。初期能力だと複数人でパーティを組んで最弱モンスターであるゴブリン一体をやっと倒せるくらいで、ソロで倒せるようになるにはレベル50までかかった。しかも、それ以降もほとんど能力が上がらない。


 こんな理由でクソゲー扱いされ、コアなユーザーやドMユーザーしか残らなかった。俺はコアなユーザーの方で、決してドMユーザーではない。そんなゲームを俺は高校二年の夏休み開始と同時にやり込んでいた。一応それなりの高校で、学部を選ばなければ大学に行けるため、成績が落ちない程度に勉強をして、他の時間はゲームに費やしていた。


 とまあ、そんな感じで進めていたのだが、レベル50を超えてからはソロで始まりの森のゴブリン狩りをひたすらやっていた。そうしてレベル100に到達したら、さっきのメッセージが出てきたわけである。


「うーん。この選択肢はアニメとかで良くみるけど、「はい」って答えると凄い力と引き換えに面倒事に巻き込まれるのが相場なんだよなぁ」


 と言いつつ、この選択肢に魅力を感じていたため、迷わず「はい」を選択した。すると、急に体が光り始め、意識を失った。




――――――




「……っは! ……ふぅ、大丈夫か」


 意識を取り戻した俺は焦って辺りを見回した。そこは気を失う前にいた森の中であり、安堵の息を吐いた。そもそも、このゲームには死に戻りが無く、死んだらキャラメイクからやり直しという面倒臭い設定になっている。なので、セーフティエリア以外で放置することは絶対にしない。しかし今回、不意打ちのごとく気を失ったのでかなり焦ったわけである。


「さて、無事だったことだし、一度村に帰るとするか」


 落ち着きを取り戻した俺は、特典など色々確認したい衝動を抑えて、安全確保のため始まりの村に戻ることにした。




――――――




 始まりの村。ゲームを開始すると、この村の教会から物語が始まる。プレーヤーは魔王を倒すために異世界から召喚された者という設定である。そんな人間が何でこんなステータスが低いんだとか、物理だけで魔王を討伐するのかとかいろいろ突っ込みがあるが、そんなことを言っても始まらない。ちなみに、魔法はプレーヤーが使えないだけで、NPCの上級冒険者、エルフや妖精などの他の種族、魔物や魔族などは普通に魔法が使える。こんな理不尽があっていいのか! と言いたい。


 まあ、それは置いといて、俺は今宿屋に向かっている。宿屋の泊まっている部屋は自分しか入れないため安全である。安全というのは死ぬ可能性という意味ではない。ログアウトした場合、アバターはその場に残るため、他のプレーヤーからの干渉を受ける。つまり、セーフティエリアである以上PKは無いが、装備品などが奪われたりするのである。これが宿屋に泊ると安全であるという意味だ。


「はぁ、疲れたぁ!」


 宿屋の部屋に着いた俺は、脱力してベットに寝転がった。


「さて、お待ちかねの特典の確認でもするかな」


 ようやく人心地が付いた俺はまず自分のステータスを確認した。




 名前:ショウ

 性別:男

 称号:人外(第十級神相当)

 HP 10000【設定可】

 MP 10000【設定可】

 ATK 10000【設定可】

 VIT 10000【設定可】

 AGI 10000【設定可】

 INT 10000【設定可】

 MND 10000【設定可】

 DEX 10000【設定可】

 LUK 10000【設定可】

 特殊能力:神力




「……は?」


 名前、性別ここまではいい。その下は種族:人族だったはずだが称号に変わってる、というか人外って何? ステータス未設定って? あと魔法すら使えなかったのに神力ってどういうこと? 色々訳が分からないので、困った時のヘルプを活用する。


 人外:人の限界を越えた者。第十級神相当の権限を持つ


 うーん、これが神力とかに繋がるのかなと考え、神力を検索する。


 神力:神の力を行使できる。行使できることは階級に依存する。


 この階級が人外の説明の第十級神相当っていうのに当てはまるのだろうか。なので、階級と第十級神を検索する。


 階級:神の位を段階的に示したもの。第十級から第一級まで十階級あり、第十級が最下位、第一級が最上位であり、その上に世界神が存在する。


 第十級神:神の階級で最も下の位。権限として、自身のステータス設定各一万まで、中級レベルの魔法・法力の無詠唱使用、自分より下位の存在のステータス確認


「ほう、何だかチートっぽいな」


 ちなみに、第一級神だとどういうことが出来るのかを調べようとしたが、権限がありませんと出た。つまり、自分の階級で出来ることまでしかわからないということらしい。


「じゃあ、あとアイテムでも見てみるか」


 そう呟いて、俺はアイテムストレージを開いた。


 所持品:

 ゴブリンの棍棒×101

 ゴブリンの腰巻×101

 ゴブリンの骨×101

 薬草×23

 ポーション×30

 神剣アマノムラクモ×1

 魔剣ムラマサ×1

 神衣カムイ×1

 パナケアネックレスS×1

 エレメントリングS×1

 リストアリングS×1

 テレポブーツS×1


「……何だ、これ?」


 ゴブリンの棍棒からポーションまでは今まで持っていたものである。その下からが特典なんだろうが、色々おかしい。


 神剣アマノムラクモ:天の叢雲をモチーフに神により作られた剣。あらゆる事象を斬ることができる。隠蔽効果あり。


 魔剣ムラマサ:妖刀村正をモチーフに神により作られた剣。あらゆる存在を斬ることができる。隠蔽効果あり。


 神衣カムイ:神により作られた服一式。あらゆる攻撃から身を守り、身体能力も向上する。隠蔽効果あり。


 パナケアネックレスS:神により祝福されたパナケアネックレス。あらゆる状態異常にかからなくなり、装備者の血が万能薬の効果を持つようになる。隠蔽効果あり。


 エレメントリングS:神により祝福されたエレメントリング。神力により行使する力が向上する。隠蔽効果あり。


 リストアリングS:神により祝福されたリストアリング。常時HPMP超回復効果がある。死ぬような攻撃を受けてもHPが1残る。隠蔽効果あり。


 テレポブーツS:神により祝福されたテレポブーツ。指定場所に瞬間移動することができる。転移位置に障害物がある場合、その付近に転移する。隠蔽効果あり。


「完全にチート装備だな」


 明らかにゲームバランスを壊しかねない特典を見て、呆れながらも正直嬉しかった。何せゴブリンをひたすら倒してレベルを上げるなんて苦行をしていたのだから、それに見合った何かが欲しかったのだ。それがこれだと言うと貰いすぎとも思わなくもないが、貰える物はありがたく貰う。


「さて、もう特典はないみたいだな。じゃあログアウトするか、……え?」


 特典の確認が終わった俺は、ログアウトをしようとする。しかし、メニュー画面からはログアウトボタンが無くなっていた。

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