2章ーリムル・ノームの思い出

【リムル視点】――


(ふふ。なんでしょうか、この気持ちは?彼の――オウマさんのお姿を見ていると、あの頃の思いが溢れてくるわ)


机を前に座り真剣な眼差しで真っ白な紙に、彼らが見つけたらしき解読不可の文字を書き出している惶真の姿がリムルの視界に映る。

その惶真の姿に、あの子――娘であるヴァニラが生まれるより前。まだ惶真と同じくらいの年齢の時に出会った今は亡き夫の姿が重なって見え、思わず懐かしさが胸いっぱいになって来るのだった。


リムルがまだ惶真の同じ位の年頃。

リムルは生れながら体が丈夫と言うわけはなかった。

元よりリムルの種族は【獣人族】の中でもひ弱とも呼ばれ称される【兎人】だった。

魔力を持たず、戦いおいての能力が一番弱い種族。

ただ、ひ弱と呼ばれる【兎人】には特殊な能力を持っている者が多かった。

その特殊な能力の一つが、外見を人の姿に偽装することが出来る能力。そして、魔力を有していない代わりに魔力とは異なる力。自然に満ちている自然の力―自然力エナジーを取り入れその力を”獣氣”として扱うことが出来た。


その自然力エナジーを更に応用することが出来る種が獣人族以外にも存在している。

それは人敵勢力と認識されている魔人族に匹敵する寿命を持ち、”精霊回廊”と呼ばれる特別な力を有する【エルフ】と呼ばれる者達だった。

彼らは自然力エナジーの元である精霊の力を”魔法”と言う形で行使できた。その魔法は精霊と同調しその力を扱うことが出来る。そして精霊と同調させる唯一の方法。それが”精霊回廊”と呼ばれる特殊技能だった。

この”精霊回廊”は【エルフ】の一族のみが持つ特別な能力。

例え同じように自然力エナジーを扱う術を持つ獣人族であっても、”精霊回廊”を持たないが故に精霊と同調することが叶わないため”精霊魔法”を行使することはできないのだった。


獣人族に出来るのは集めた自然力エナジーを身体機能の向上に充てる事くらいだった。そして自然力エナジーによる身体強化は、その強化に沿った身体負荷が掛かるものだった。


もっとも、あまり体の丈夫とは言えなかったリムルには、普段から”自然力エナジー”による”獣氣”を用いることはなかった。

丈夫と言えない体に負荷を掛けては本末転倒だった。



リムルは兎人の獣人である父と母から生まれた。

白い髪に、おっとりとした赤い瞳。

兎人は容姿が優れて生れやすいと言われており、リムルも体は丈夫とは言えなかったが、人の目を引き付けやすい容姿であった。

実際、現在暮らしている村でも好意的に接する者は多かった。もっとも、それはリムルが”擬態”の能力によって人間の様に見せていたからだった。

実際に正体が明るみになった途端、今まで好意的に接してきていた者達から悪意をぶつけられることになっていた。


リムルにはある才能があった。

それは言語の本質を読み取ることでその”本質”を理解することが出来るというものだった。

幼い頃からリムルは本を読んだり聞いたりするのが好きだった。

特に昔話になっているこの世界の人間の祖と言われている12人の神人による神話物語を好んでいた。

リムルは自身の解読能力を生かしつつ、”言の本質”を見極める力によって多くの言語をリムルは学び得た。


リムル達の家族は、”擬態”を用いて人に交じりひっそりと暮らしていた。

兎人の”擬態”は直接触れられなければ正体が明るみになることはほとんどない。あとは自然力エナジーを用いる際には”擬態”が解けるくらいだろうか。

また相手のステータスを見る能力でもなければ、である。


リムル達家族もひっそりと人と交じりながらの暮らしていたのだが、ある時にその正体が噂され、危機に陥ることもあった。特に獣人族に対しての差別意識が根強い帝国の支配する地であったことも要因の一つだった。

その際には感知能力も高い方であるので、難を逃れつつ各地を放浪と言う形で住処を変える生活を送っていた。


そしてそんな生活の中、リムルの家族はもっとも3つある大陸の中で帝国から離れている島を選び、その島で最も辺境に値する村を居住の住処に選んだ。


その村こそが今リムルの家があり迷宮ガルダの近くにあるこの村だった。

そしてリムルはこの村であの人と出会った。



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