超絶美人な姉にかわりイケメン貴族に嫁ぎたいのですが

爽月メル

第1話 現れたイケメン貴族

「おい、戸を開けろ。迎えに来たぞ、マーガレット」

 その声にあの日の記憶が蘇る。

 本当に来ちゃったよ⋯⋯この人。待ちわびていた時ではあるものの喜びより本当に来たんだという驚きの方が強い。


 ギュッとドレスの裾を握る。この日に備えて用意した、高めのドレス。没落貴族だからってバカにされたらたまらないから、化粧も滅多にしないけどしてみた。

 たぶんマーガレット姉さんに似てる。これで、もしかしなくても?⋯⋯。

「おい!マーガレットいるんだろ!はやく扉を開けろ!!」

 お前は借金取りか!と突っ込みたくなるような口調にイラついてくる。それが好きな人に対する態度!?

 姉だったら確実におびえているだろう。

 が、私はこんなことでおびえてなどいられない。この生活から抜け出すためにもなんとしてでもコイツに嫁がなくてはならないのだ。

そもそもなぜ、没落貴族である私、コトネが貴族に嫁ごうと意気込んでいるかというと……。

事の発端は五年前。

 私、コトネは姉(美人な上に性格もいいという女神)マーガレットと共に市場にきていた。

 透き通るような白い肌にハチミツのように艶やかに流れる金髪。一度見ると目を離せなくなるスカイブルーの大きな瞳。香りたつような美人の彼女を、通り過ぎる人の多くは二度見する。

 中には"ナンパ"なんて下卑た真似をしてくる奴もいる。そんな奴らの中にはもちろん柄の悪い奴らもいるわけで⋯⋯。

その日、

「君可愛いね〜、どこの子?俺らとちょっと遊ばない?」

などと唐突に声を掛けてきたのは中年の賊らしき男数人だった。

 イケメンの好青年ならまだしも、中年の賊の分際でうちの女神に声を掛けるとはいい度胸だ。

「すみません。急いでいるのでどいてください」

 おどおどしている姉の前に立ちそういうも、オヤジ達の瞳は姉に釘付けで私など視界の端にもうつっていないようだ。

 確かに私は美人じゃないし、姉と見比べたら本気で姉妹か疑うレベルだが、ガン無視はひどいじゃないか。

 ぺちゃくちゃとダサい口説き文句を並べながら姉に近づいてくる男共にイラつきもピークに達する。

「しつこいです。はやく姉からはなれ⋯⋯った!!⋯⋯」

 オヤジの一人に思い切り肩をおされて無様に尻もちをつく。

「コトネ!」

 慌てて駆け寄ってくる姉に平気だ、といって微笑む。

 気づけば、私と姉、オヤジ共を囲むギャラリーができてる。

 みんなひそひそと話すだけ。誰も助けてくれようとしない。

 そりゃ、私は不美人だし助けてくれなくても仕方ないさ。だけど、姉の事は救ってくれよ!

 そう、その時だった。やつが現れたのは。

「野蛮な輩め、さがれ!彼女が困っているだろう!」

 声高らかにそういって私の目の前に颯爽と白馬で登場したその人はさながら王子様。

 かっこいい⋯⋯男の人に優しくされたのなんて初めてだ。いつも、姉ばかりチヤホヤされてたから……。


 男の人の姿を確認するとその一目でわかるお家柄の高さからか恐れをなしたように一目散に逃げ出すオヤジ共。

 いい気味だ。


 男の人が白馬から降りてこちらを振り返る。その一瞬がどれだけ長く感じられただろう。

「あっ、ありがとうございます!」

「大丈夫ですか?美しいお嬢さん」

 甘い笑みと共に差し伸べられたその手。

 胸をときめかせそんな手に手を伸ばしかけた私だが、途中でそれが私の隣で膝をついている姉に向けたものだと気づき何ともいえない気持ちで地面に手をつく。

 いや、わかってたさ。姉が女神で、私はその足元にすらおよばないことぐらい。けどさ〜、少しくらい期待させてくれよ。

「えっと⋯⋯あの⋯⋯」

とどもりながら横目でこちらをみやる姉。救援依頼だ。

「すみません。姉が困ってるし、先を急ぐので」

 立ち上がりそういうが、その人から返事が返ってこない。不思議に思って俯くその人の顔をのぞき込むと、考えこむような表情をしている。

「あの、どうかしました?」

 そう声をかけるとハッと顔をあげ、姉の方を見やる男の人。

「決めた!私はあなたと結婚する!!とはいえ、私はまだ十三。結婚が可能となる十八になったらあなたを迎えにいこう!!」

 早口でそうまくしたてる男の人には唖然とする。きっと私だけでなくその場にいた野次馬の方々も皆一様に思ったことだろう。この子はいきなり何を言い出すんだ、と。

 そうこうしている間にとても同い年とは思えない少年は来た時と同様に颯爽と去っていったのだった。




 そう⋯⋯その出来事がすべての発端⋯⋯。

 あの日から二年ほど経った時だろうか。私の唯一の家族であった病弱な姉は亡くなってしまった。

 だから⋯⋯

「マーガレット、いるのだろう。調べはついてる」

 おい、おい。ちゃんと調べたのかよ。マーガレットさんはいないっての。

 でもまあ、助けてもらったのは事実だし、出来ることなら嫁ぎたいし、案外タイプだし、心の中でいろいろつぶやきながらゆっくりと扉を開ける。

「んっ?使用人か?マーガレットを呼んでくれ」

 使用人……だと?

こんなバカみたいに高いドレス買うために私が連日野草生活した苦労も知らずにこの男……!

「ふざけないでください。私はマーガレットの妹のコトネ。あなたの嫁になる女です」

 んっ?今、私⋯⋯

「うわあぁぁぁ、忘れてください!今のなし!!」

「ああ、忘れる。じゃっ」

 バタンッ

 勢いよく閉じられる扉に危うく顔面がぶつかるとこだった。

 というか⋯⋯

「まって!!」

 扉を開け叫ぶ。

「私じゃ、だめなの!?」

 自分が姉に似てると思ったことは一度もない。けど、同じ血が通ってるんだ。ある程度同じだろう。たぶん⋯⋯

「ああ。お前みたいの、まじ無理。マーガレットが亡くなっちまったとは聞いてたがやっぱり事実だったんだな。」

 そういって深くため息をつく。なんだ、知ってたんだ、こいつ。

「じゃあ、わざわざ自分の目で確かめにきたの?」

 そうたずねるとそいつはさもめんどくさそうな口調で

「家来がマーガレットに妹がいる、っつってたから、マーガレットがほんとに亡くなっちまったかどうか確認するついでにみようかと思ってきたんだよ」

 そういって去ろうとする。

「待って!」

 大きな声でそういう。没落貴族な上に家族一人もいないとか、こんな寂しい人生もう嫌。

 だから⋯⋯!!

 女からプロポーズなんておかしいけれど、ほぼ初対面だけど、

「あなたのお嫁さんにしてください!」

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