122区 熊本名物

カッパのいた本屋から、歩くこと10分。

一度大きな道路を渡ったが、それだけ歩いてもまだアーケードの中にいた。


なんとも長いアーケードだ。


「さぁ、ここだよ」


えいりんに案内された場所は、どう見てもただのお土産屋さんだった。戸惑う私を置いて、えいりんはどんどん奥へと入って行く。仕方なくそれに続くと、奥には小さなテーブルが5つ程並んだ空間があった。


その一つに私達は座る。お店の人が水を持って来ると同時に、えいりんは美味しいから食べてみてよと、料理を注文する。料理名を聞いて一瞬ビックリしたが、そういえば熊本の名物だったことを思い出す。


待ち時間もさほどなく、私達の前に料理が並ぶ。


「私、馬刺し食べるの生まれて初めて」

そう。熊本名物と言えば馬肉だ。ただ、山口県にいるとなかなか食べる機会もなく、まさにこれが初体験だった。


馬肉は予想以上に柔らかく、口の中でとろける様な気がした。しかも思ってたほど臭みもなく食べやすかった。なにより美味しい。


えいりんはせっかくだからと、高菜チャーハン、からしれんこん、だご汁、太平燕を追加で1人前たのむ。それらを2人で分け合って食べる。


だご汁と太平燕は名前を聞くのも初めてだったが、出て来た物を見る限り、だご汁は野菜と豚肉を味噌で味付けし、団子をいれたもの。大平燕はちゃんぽんの麺が春雨に変わったような食べ物だった。


食べてみると、どちらも笑いが出そうなほど美味しく、えいりんから「さわのん、本当に幸せそうに食べるんですけど」と突っ込まれてしまう。


「もうお腹いっぱい。まさか、ここまで熊本名物を堪能出来るなんて思わなかった。えいりんのおかげだよ。うちの姉なんて、今年もファミレスだったし。それに馬刺しなんて見る機会もそんなにないもんね」


「まぁ、熊本ではスーパーに馬肉コーナーがあるくらいメジャーな食べ物なんですけど」

甘い物は別腹だからと、さらに追加注文したいきなり団子を頬張り、えいりんが驚きの発言をする。


「それは嘘でしょ」

私もいきなり団子を頬張りながら疑いの返事をする。


あ、この団子、イモとあんこが入ってる。


「いやいや、ほんとだって。そうだ、お姉さんに聞いてみなよ。私も熊本に来た時にビックリしたもん」


えいりんに言われ、姉にメールを打つとすぐに返事が返っていた。


どうも偶然スーパーにいたらしく、証拠の写真まで添付してあった。同じ日本でも、ここまで違うものかと私は素直に驚いてしまう。

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