49区 文化祭準備

DVDを見た次の日、私達は家庭科調理室にいた。


文化祭の模擬店で出す料理は、顧問と家庭科の先生に試食してもらい承諾を得ないと、当日出展出来ない決まりとなっている。


ちなみに駅伝部はお好み焼きを作ることになっていた。わりと誰でも出来るし、多くのお客さんに売るためには、大量に作れる物の方が良いだろうという理由からだ。


小・中の調理実習で見て来たが、晴美の料理の腕は当時と変わらずかなりの物だった。手早く野菜を切り、てきぱきと小麦粉を混ぜ、油を引き、生地を薄く延ばして野菜や肉を盛り、パッとひっくり返し、あっという間に完成。ちなみに、隣が広島県ということもあり、広島風で作っている。


さらには、葵先輩も晴美に負けず劣らず上手かった。「両親が忙しいから、よく料理はするのよね」と、私達に説明しながら、いとも簡単に生地をひっくり返す。


私と久美子先輩、紗耶はどんぐりの背比べ。晴美と葵先輩に比べるとあきらかに手際が悪かった。でも、味の方は問題ない。


問題は麻子だ。まったく料理が出来ない……。

だったら、どれだけ良かったか。


麻子は晴美とほぼ同じくらいの速さで野菜を切り、まったく無駄のない動きで、晴美以上に綺麗なお好み焼きを焼いてみせた。これには私達も驚く。


せっかくなので試食をすると……。ほのかな甘みの中に酸味が広がり、後から苦味がしっかりと自己主張をして来る。


具体的に言うと、とんでもなくまずい。


そもそも、どうやったらまずいお好み焼きを作れるのだろうか。変な物を隠し味に入れたのならいざ知らず、調味料などもみんなと同じ物を使っている。しかも見る限り、麻子と私達で調味料の分量があきらかに違う感じもしなかった。


「あさっち、ちょっとこの野菜と肉で野菜炒めを作ってくれないかな」

晴美が残っていた野菜と豚肉を麻子に渡す。麻子は「それくらい簡単よ」と、やはり手慣れた感じで野菜炒めを作る。それを試食すると、やはりまずい。


「これは……。正直原因が分からないかな」

晴美が野菜炒めを食べ、なんとも渋い顔をする。結局、葵先輩の判断で麻子は売り子専門にされてしまった。


「あと聖香も売り子ね」

葵先輩の一言に私は首を捻る。なんで私が? 理由がまったく分からない。


「模擬店を出す部活で女子部員がいるところは、1名出すことが決まりなのよね。大丈夫、聖香なら良い線行くと思うわ」


葵先輩は自分のカバンからA4の紙を一枚取り出し、机の上に置く。

その紙を覗き込んだ私は思わず声を上げてしまう。


「ミス桂水開催のお知らせ?」


「そう。けいすい祭初日のメインイベントね。これに出てもらうから、聖香は売り子専門ってことで。その方が途中抜けやすいでしょ」

いやいや、まずはなんで部員の中で私が選ばれたか説明して欲しいのだが……。


だがこの後、具体的な説明もみんなからの反対もなく、私がミスコンに出るのは決定事項となってしまった。


「水着審査もあるから、スクール水着を持って来てね。売り子も水着でやって良いから」


葵先輩の一言は、私が考えていたことを一瞬んで消し去るくらいに衝撃だった。冗談だろうと思いプリントを見ると、本当に「要:スクール水着」と書かれており愕然とする。


うちの学校、なんでこういうことに対してはのりのりなのだろうか。

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