45区 アクシデント

「おっと、これはアクシデントか! 残り400m。城華大附属高校の石川がお腹を押さえて、一瞬立ち止まるような感じになりました。これは大丈夫か? 止まりかけたようにも見えましたが、どうにか走っています。しかし、これは誰の眼から見てもあきらかに失速しています。石川が失速しています。石川苦しそうだ。1年生ながら、強豪城華大附属高校でレギュラーを勝ち取った石川ですが、ここに来てあきらかに失速しています」


脇腹を押さえるようにして走る姿がテレビにアップで映し出される。その表情は非常に苦しそうで、思わず画面から顔を逸らしてしまいそうになるくらいだった。


「ここで先頭が入れ替わります。先ほど抜かれた熊本県代表・鍾愛女子高校が再び先頭へ。おっと、監督ルームの映像が映っています。城華大附属高校阿部監督、非常に険しい表情をしております。なによりも石川を心配してのことでしょう。そして、城華大附属高校ここでさらに順位を落とし、これで3位に後退。相変わらずお腹を押さえる石川。非常に……非常に苦しい表情です。残り300m、どうにかタスキを繋げて欲しい」


ここで映像が中継所に切り替わった。


「さあ、第4中継所、城華大附属高校の永野綾子がすでにスタンバイしております。もう中継所からも石川が見えています」


そこには高校3年生の永野先生がアップで映っていた。今も十分に細いが、当時の体はさらに細く引き締まっており、髪も今以上にショートヘアーで、耳に少しかかる程の短さだった。その姿を見て、恵那ちゃんと麻子は感動の声を上げていた。


「智子ラスト! 頑張れ! あと少し!」

永野先生が必死で声を掛けている。その間にも次々と各校のタスキリレーが行われていく。やはり由香里さんの言葉に間違いはなかったと言うことか。


「頑張りました石川。先頭と55秒差。9位で今、城華大附属高校がタスキリレー。正直、優勝は厳しいものになってしまったか……」

と、走って来た石川選手に映像が切り替わる。


「ごめんなさい。ごめんなさい」

叫ぶような声を出しながらも、彼女はお腹を押さえたまま泣き崩れている。

付添いの選手がそんな彼女を必死でなだめていた。


「ねぇ、これって本当に城華大附属が優勝出来るの?」

麻子がそう口にするのも無理はなかった。


桂水市駅伝程度のレベルならまだしも、これは全国大会だ。それもアンカーで55秒差。正直、私も結果を知らなかったら、「絶対に無理」とキッパリと言い切ってしまうだろう。


しかし、事実は小説より奇なりとはよく言ったもの。

ここから私達は奇跡とも言うべき走りを目の当たりにする。

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