42区 娘??
夏合宿が終わったからと言って、夏が終わったわけではない。今年の夏は相当に機嫌が良いらしく、午前8時からの部活でさえ嫌になる暑さだ。盆を過ぎると若干はましになるかと思いきや、今もってニュースでは「今年一番の暑さを記録」と言う言葉を耳にする。
盆を過ぎると駅伝部に新しい出来事が増えた。9月の上旬にある文化祭の準備だ。
ちなみに高校名は桂水と書いて「かつらみず」だが、文化祭は「けいすい祭」と言う名称となっている。
そのけいすい祭では模擬店の出店が部活単位でも認められている。
「せっかくだから、うちらもなんか出そうと思うのよね」
葵先輩がそう提案して来るが、その時点ですでに生徒会と永野先生、さらには家庭科教師の承認印までもらっており、事実上の決定事項となっていた。
部活終了後、全員で毎日のように模擬店の打ち合わせをしているが、その大部分がただのおしゃべりとなってしまい、ほとんど進んでないのも事実だ。
「ちょっとジュースでも買って来ようかな」
今日もいつものように、部活終わりに打ち合わせと言う名のおしゃべりをしている最中で、晴美が部室を出て行く。
が、1分もしないうちに戻って来た。財布でも忘れたのだろうか。それを聞こうとすると同時に、晴美の後ろに人影があるのに気が付いた。
「その子は誰かなぁ~?」
紗耶がその子と言うとおり、どう見ても小学生にしか見えない女の子が晴美の後ろに立っていた。薄緑のワンピースが涼しげで、見ているだけで暑さを忘れさせてくれそうだ。
それに、手に持っている編み込みのトートバックと足元のサンダルが、より涼しさをかもし出している。そうかと思えば、肌はしっかりと日に焼け、小学生にありがちな毎日学校のプールに通って遊んでいる姿が容易に想像できた。
「永野綾子って人を探しているんです。あたし娘の永野恵那です」
部室にいる誰もが驚きの声を上げる。
そう言えば、合宿の時に永野先生の過去を聞いたが、結婚しているかどうかは聞いてなかった気がする。いや、でもその前に今は1人暮らしをしているとか言っていたような……。
私の頭の中を様々な考えが駆け巡っていく。
「歳いくつ」
久美子先輩がすっとメガネを上げながら尋ねるが、自分が聞かれているとは思わなかったのだろう。少し間が空いた後に、その子が「小学5年です」と慌てて答える。
とりあえず、職員室にいるであろう永野先生の所まで連れて行くことになった。
歩きながら、私はふとあることに気付く。さっきこの子は小学5年生と言っていた。
永野先生の年齢が現在33歳。つまり22歳の時の子供ということになる。それ自体は世間一般から見れば特に問題ではないし、おかしな話でもない。
でも、今回に限ってはおかしいのだ。22歳の頃といえば、永野先生は実業団にいたはずだ。いや、産休とかあれば……。
「あ、お母さん」
その一言は私の考えを全て吹き飛ばす突風のような声だった。
職員室前の廊下で、永野先生に出会ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます