33区 事件の真相
麻子の案内で辿り着いた紗耶の家。黒い屋根に白い壁、大きな窓にベランダ。各パーツはどこにでもある、ごくありふれたものだった。問題は、それらを合わせた大きさが普通の家よりもあきらかに大きいことだ。
麻子と晴美が、「あたしの家よりはるかに大きい」「私の家なんか比べ物にならないかな」と、口を大きく開けて家を見上げていた。
高校総体の時に、紗耶は葵先輩の家を豪華な家と言っていたが、この家は、豪華と言う言葉ではとても収まり切らない。
ふと、少し前に紗耶から、父親が会社の経営者だと聞いたことを思い出す。
みんなが『藤木』と書かれた表札の前で、お互いの顔を見て頷く。それが家を訪ねるという合図となった。
麻子が先頭を切って玄関まで行き、チャイムを押す。中から声がして玄関が開き、紗耶が出て来た。部室で見たとおり、普段とは逆で、右側にお団子を作っている。ただ、服は制服からTシャツとハーフパンツというラフな格好に変わっていた。
誰もが次の言葉が見つからないのか、沈黙が辺りを支配する。
その沈黙は、すぐに意外な形で破られた。奥から声がして、また1人誰かが玄関先まで出て来たのだ。
「ちょっと亜耶。わたしのアイスクリーム食べたでしょ。起きたら食べるって朝言っ……。あ、お客さ……あさちゃん! あれ、はるちゃん。って、みんながいるんだよぉ~。なんで?」
あ、いつもの紗耶だ。喋り方を聞いて一番にそう思う。
それと今、亜耶と呼んでいた。これってもしかして……。
「とりあえず、みんな上がってよぉ~」
私が答えを提示しようとする前に紗耶がそう言うので、みんなでそろってお邪魔することにする。
紗耶の家のリビングはとんでもなく広く、40帖くらいはあるように思えた。
その広さに驚いたが、外から見た家の大きさからすると納得の広さかもしれない。
紗耶に言われ、私達はソファーに座る。駅伝部が全員座っても、まだゆとりのある大きなソファーだ。
亜耶と呼ばれた子は部屋から逃げようとしていたが、「せっかくだからみんなを紹介するよぉ」と紗耶に両肩を抑えられ、無理矢理私達の向かい側にあるソファーに座らされる。亜耶はなぜか随分と気まずい顔をしていた。
「みんなごめんねぇ~。昨夜から熱が出ちゃってさぁ。初めて学校を休んじゃった」
紗耶が恥ずかしそうに笑う。きっと私達がお見舞いに来たと思っているのだろう。
「それがさやっち。今日は休んでないかな」
晴美の言葉が理解できなかったのか、紗耶が首を傾げる。
「うちら、学校から紗耶を追いかけて来たのよ」
葵先輩の説明に、紗耶は本気で理解出来ないという顔になる。
そんな紗耶に麻子が一から説明を始める。
「亜耶……。ちょっと聞きたいんだけどぉ~」
紗耶が普段よりもトーンを下げた声で亜耶に詰め寄る。
亜耶は決して紗耶と目を合わせようとせず、苦笑いをするだけだった。
「今日、父さんと母さん早出だったから、朝はわたし達だけだったよねぇ。それで、わたしが今日学校を休むって言った時に、『紗耶きついでしょ。私が桂水高校に連絡してあげるから、寝ときなよ』って言ってたと思うんだけどなぁ?」
「でも、紗耶が休むって連絡、学校に入ってないのよね」
「それにさやっち、今日学校に来てたかな」
葵先輩と晴美が事実を述べ紗耶を見る。紗耶はため息をついた。
「亜耶だよぉ~。それ!」
その一言に全員が亜耶を見ると、観念したのか、彼女は真相を語り出す。
ここからは、推理ドラマの解決シーンを見るようだった。
朝、紗耶に連絡を頼まれたが、亜耶は桂水高校に電話をせず、自分の通う高校に欠席の連絡をしたそうだ。そして紗耶の制服を着て、桂水高校へとやって来たそうだ。亜耶は普段高校まで自転車で通っているため、自転車が家に置いてあると不自然に思われると考え、家から近いのに駅まで自転車で出かけたらしい。
桂水駅では、紗耶の自転車が分からずに徒歩で学校へ。学校についても、席や教室が分からないので他人から見ると不思議な行動だらけだったのだ。
どうやって紗耶のかばんや制服を借りれたのかは不明だが、まぁ上手くやったのだろう。
紗耶が双子と知らなかったら、これは騙される。現に、私達は誰も分からなかったし、紗耶と亜耶はそれくらい似ていた。
ただ、同じ中学から桂水高校に進学して来た子達にはバレバレだったらしい。
でも、その辺は逆にネタバラシをして協力してもらったそうだ。
そういえば、仲の良いクラスメイトとあまり会話せず、中学の同級生とよく話をしていたとさっき聞いた気がする。
「そうだねぇ。よく考えたらわたしが双子の妹って話したことないよねぇ。それにわたし達、一卵性で本当に顔だけは似てるんだよぉ~。中身は結構違うんだけど」
「だね。外見の大きな違いといえば、左胸にホクロがあるのが紗耶で、ないのが私ってことくらい……」
「じゃぁ、さっそく脱がして確認してみま……」
亜耶の一言に、葵先輩が反応する。
だが、言い終わる前に久美子先輩が葵先輩の頭を思いっきりしばく。
「でも、わりと楽しかったかな」
晴美が紗耶と亜耶を交互に見ながら笑う。
まぁ、確かに解決してみればそうだが、途中は何がなんだがさっぱりだった。正直、途中まで本当に紗耶の記憶喪失を疑っていたが、それは内緒にしておこう。
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