24区 女子3000mタイム決勝3組目
私はそのまま第2ゲート付近で応援してゴールの方に向かうことにした。
トラックの外側が一段低くなっており、そこが通路になっていた。すでに他校の人間も何人かいる。きっと私と同じく応援のためだろう。
どこで応援しようかと、ゴールと第2ゲートの間でうろうろしていると、反対側のスタンドにあるオーロラビジョンに映像が映る。
それを見て、山口と熊本ではビジョンの位置が反対だと気付く。熊本では今私がいる真上辺りにあったはずだ。
オーロラビジョンには、3組目のスタート前の様子が映し出していた。すでに選手はトラックに入り流しなどをしている。スタートはもうすぐだ。
選手たちがスタートラインに並びだすと、それをカメラが捉えビジョンに流す。
と、藍葉が大きく映る。
先ほど久美子先輩の800mで見たのと同じ蛍光オレンジ一色のユニホーム。胸の所に大きく黒色で『城華大附属』とネームが入っている。
他にも『聖ルートリア』や『泉原学院』といった強豪校の選手も映る。
そして、次にオーロラビジョンに映ったのは葵先輩だった。
真新しい桂水高校の青と白のユニホームは、やはり輝いて見える。
そう思いながら、映像を見ていてあることに気付く。高校総体は各種目に各学校から3名までエントリーできるのだが、蛍光オレンジのユニホームが全部で3人いる。
つまり、城華大附属は学校から出場出来る3名全員が3000mで一番速い3組目にエントリーしていることになる。さすが県内最強チームだ。
選手が全員スタートラインに並び、遠くで聞こえるピストルの音と共にレースが始まった。
スタートしてすぐに1人の選手が飛び出し先頭に立つ。山崎藍葉だ。藍葉が先頭に立つと、後ろに8人の集団が続く。その中に葵先輩も含まれている。それに藍葉以外の城華大附属の選手2人もこの集団の中にいた。
集団がトラックを半周する。競技場のあちこちから応援が聞こえる。スタンドを見ると、麻子と紗耶、久美子先輩が必死で応援してる姿が見えた。
「葵先輩、良い位置です。落ち着いて行きましょう」
もうすぐ目の前を通過する葵先輩に向かって、私もありったけの声を出して叫ぶ。
しかし、その声に一番反応したのは山崎藍葉だった。
私の声が聞こえたのだろう。先頭を引っ張りながらも、私の方をギロッと見る。
なんだか、「あなたそこにいたのね」と言われたような気がした。
藍葉を含めて9人の先頭集団が形成され、その5m後ろに第二集団が出来る。今のところは2つの集団でレースは動いているようだ。
そこからトラックを2周する間も9人の先頭集団は一塊のまま走り続ける。応援をしながらなので確かなことは分からないが、どうも先頭集団のペースがわずかに上がっているようで、後ろの集団との差が15mくらいに広がっていた。
葵先輩も7番手でしっかりと先頭集団の中にいる。
このまま頑張って付いて行ってほしい。
そして先頭が1200mを通過するとレースが動いた。
藍葉の後ろに付いていた聖ルートリアと泉原学院の選手が先頭へと出る。
抜かれた藍葉がそのまま先頭に喰らい付いて行く。その後ろにもう1人城華大附属の選手が付く。これで先頭が4人。そこから3m開いて、さらに別の城華大附属の選手が引っ張る5人の集団が新たに出来る。葵先輩はこの集団の最後尾。全体で言うと9番目だ。
見た感じ、葵先輩のペースはさっきと変わってない。きっと先頭に出た2人がペースを上げたのだろう。葵先輩はスタートから落ち着いた走りをしている。その証拠に肩も上がっておらず腕も楽に触れているし、なにより表情にゆとりが見えた。
集団が私の前を通過して行く時、3番目を走っていた藍葉が顔をこちらに向ける。
「藍葉頑張れ! 落ち着いて行こう」
こっちを見て来た藍葉に応援で返事を返す。
さっきほど麻子に「仲が悪いの?」と尋ねられたが、けっして私と藍葉は仲が悪い訳ではない。確かに喋ればきつい言葉も出るが、基本的に会えばよく喋るし、中学時代は同じ種目に出れば、えいりんを含め3人でダウンジョグをすることもあった。
確かにレースとなれば3人とも「負けたくない」と言う気持ちが、まるで炭酸ジュースを振って開けた時のように、ものすごい勢いで溢れて来て、いつも競り合いになっていたのも事実なのだが……。
私を見てきた藍葉は、顔を戻すと、前を走っている2人の選手を抜きにかかり、また先頭に立ってみせた。
もしかすると今のは、「さぁ、しっかりと私の走りを見てなさいよ」と言う意味だったのかもしれない。
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