神々に忘れ去られた形

木島別弥(旧:へげぞぞ)

第1話

 第二創世暦二〇〇九年四月五日、ドーピング・ウーの村は一族全員で、伝説の秘宝『財宝わきいずる泉』を手に入れる旅に出ることにした。

 とてつもない富と金と財宝と、魔具に神具に秘宝を束ねた歌えや踊れの富貴を集めた『財宝わきいずる泉』があるという。それはどんなものでも使えば、天変地異に奇跡を起こし、神々にも匹敵する力を得るという。『財宝わきいずる泉』に住む者は宇宙を支配し、他の誰よりも幸せに生きるという。そんな宝島の伝説を人々は流布し、宇宙の片隅にある『財宝わきいずる泉』にたくさん人は集まりつづけた。

 ドーピング・ウーの村も例外ではなく、宝島『財宝わきいずる泉』に行こうと人々が言い出した。なんと、村人全員が住みなれた星を捨て『財宝わきいずる泉』に旅に出ることを決断したのだった。村はお祭り騒ぎだった。村人総出で宝島騒ぎを決定したその時に、たった一人、はぐれ者の少年がいた。名をジャラテクといった。

 ジャラテクは村では目立たない子供だったが、一人秘かに神殺しを夢見て、作戦を練っていた。だから、ジャラテクにとって『財宝わきいずる泉』を目指すのは神の意思に従う神の手下であり、自分で自分の旗を掲げるものではなかった。

「みんなで『財宝わきいずる泉』を探しに行くぞ」

 若き族長カノウがいった。

「おれも『財宝わきずる泉』を探しに行くぞ」

「わたしも『財宝わきいずる泉』を探しに行く」

 みんなの声が一致した。ただ一人、ジャラテクだけはみんなにのり遅れていた。

「おれは銀河皇帝になるよ」

 そんなズレたことをいっていた。ジャラテクだけ仲間外れだった。その日、あったという乱交集会にも参加できなかったのだった。

 ドーピング・ウーの村は全財産をはたいて宇宙船ドーピング・ウーを建造した。そして、この宇宙のどこかにあるという『財宝わきいずる泉』を探す旅に出た。

「旅はきっと困難だぞ」

「おう」

「どんな困難にも負けないぞ」

「おう」

「絶対に『財宝わきいずる泉』にたどりつくぞ」

「おう」

「いいか、ついてこれないやつは見捨てていくぞ」

「おう」

「立ちふさがる敵は全部やっつけていくぞ」

「おう」

「よし、みんな手を組め」

 みんな手を組んだ。

「ドーピング・ウーが『財宝わきいずる泉』を手に入れるぞ。いちばんでかい声出してけ」

「ドーピング・ウーが『財宝わきいずる泉』を手に入れるぞ」

 そして、ドーピング・ウーの村は故郷を捨てて、どこかにあるともしれぬ『財宝わきいずる泉』を目指して旅に出た。


 旅は激動を極めた。見知らぬ星の警備艇に通過禁止といわれた時、戦争をして押し通ったこともあった。『財宝わきいずる泉』の情報を手に入れるために、ドーピング・ウーの村人は歴戦の傭兵になり、情報局員になっていった。宇宙船ドーピング・ウーをとめられるものは何もなかった。

 そんな中、ドーピング・ウーの村人ジャラテクとメキは暗闇の中で会っていた。

「ジャラテク、あんたはゴミクズだ。わたしは覚えている。あんたは『財宝わきいずる泉』を探してないんだ。あんただけちがうんだ。あんたが任務をサボって、調査の手を抜いているのを知っているのよ。あなたは組織の裏切り者よ」

 メキにすごまれ、ジャラテクはビビッた。どうする。ジャラテクは考える。

 ジャラテクも『財宝わきいずる泉』には行ってみたい。しかし、そこにたどりついたとしてもとどまりはしないだろう。ジャラテクの目的は神殺し。『財宝わきいずる泉』の力も利用して、神殺しに挑むだけ。そのための作戦も練ってある。ジャラテクにはリトルリップという道具がある。

 リトルリップとは、宇宙が膨張しすぎて物質が消滅する現象ビッグリップの小型発生装置である。これを使えば、神にも傷をつけられると信じていた。もちろん、これを使えば、メキだって一撃で殺せる。だが、殺してはいけない。メキのことはよく知っている。真面目で、自分の意思で考え、強い信念を持ち、オシャレにも気を使う女の子だ。かわいい少女なのだ。しかし、今ではすっかり歴戦の猛者となり、一流の女性兵である。

 だが、メキはジャラテクのことをあまり知らなかった。村人の中の平凡な男の子だと思っていた。

 メキは思った。こいつが『財宝わきいずる泉』を目指していないなら、殺すと。

「あなたが旅立ちの時に言ったことばを覚えている?」

「覚えていない」

「銀河皇帝になりたいよ」

「そうだったっけ」

「『財宝わきいずる泉』と銀河皇帝の地位のどっちが欲しいの?」

 もし、銀河皇帝といったなら、殺そうと思った。本気だった。こいつは宇宙支配と銀河支配のどちらが大きいかもわからないくらいバカな可能性がある。

「どっちでもいいよ」

 メキは一瞬迷った。だが、すぐに気づく。こんな答えをするのなら、こいつは将来、みんなの足を引っ張る。ひとつの隙も見せてはいけないドーピング・ウーの船員にあるまじき人物だ。

 殺意。

 こいつは失格だ。こいつに生きる資格はない。

 メキの短刀がジャラテクの腹を狙う。ジャラテクは跳びはねて払う。二刀目をジャラテクはリトルリップで受けた。この時、リトルリップが壊れたのである。

 運が悪かった。リトルリップの故障により、宇宙船ドーピング・ウーは隣の宇宙に宇宙ワープしたのである。この少年少女の決闘が、ドーピング・ウーの旅を絶望的に困難にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る