第27話 番外編 ―― SFはニッチを目指すのか ――

 これまで「SFを還元して読む」ということを書いた。あるいは「SFを書く際に設定を還元して考える」ということを書いた。

 さて、では問題だ。「還元」したなら、自称SFの (それもライトめの) どれほどに還元しきれないものが残るだろうか。

 だが、作品数はそれらの方が多い。パルプ雑誌の時代から、それは変わらない。そして、それらの作者は自作がSFであるという主張を曲げないだろう。その主張を曲げないというのはあたりまえだ。そんなに簡単に曲げるなら、なんの矜持も持っていないのだろう。

 だとしても、今、私たちは一つ基準を持っている。つまり「還元しつくした後になにか残るものはあるのか?」という問いだ。

 では、多数を占める「還元しつくされる」自称SF作品はどうなるのだろう? あるいはそれらの特徴にはなにがあるのだろう?

 まず、「還元されつくされてしまう」のであるから、大局としてそれらの作品をSFとしているものは存在しない。ならば、残るのは細部だ。作品Aと作品Bは「ここに差異がある」と言える部分もあるだろう。その連鎖によって、作品Aと作品Zは大局においても差異があるとも言えるかもしれない。ただし、それは差異の継ぎ足しによって得られる大局における差異であり、その継ぎ足しを辿れば、結局大局における際は存在せず、微小な差異が存在するのみだ。

 その意味において、副題となる。「SFはニッチを目指すのか」。正確には「目指すのか」ではない。既に「目指している」のだ。還元されつくされない作品を除いて。


 SFはジュール・ヴェルヌのH. G. ウェルズによって書き尽されたとも言われている。ならば、ニッチであることを受け入れなければならないのだろうか。そうではない。問われていない疑問はまだまだある。既に問われた疑問であるなら、より深く問えばいい。


 なぜニッチを目指すのだろう? 結局のところ、それは読者にとっての理解のしやすさであり、あるいは作者が想定する読者にとっての理解のしやすさだろう。理解のための基準点が必要であり、その基準点は新しい作品に近い方がいい。そういう、作者側の理解だろう。

 だが、この前提は崩れかけている。アメリカ発ではあるのだが、ここ十年ほど次第に一部のSciFiドラマは、視聴者にとってのそういうわかりやすさを捨てている。正確に言うなら、視聴者の理解力を過小評価していないということだ。

 この流れは日本にも上陸するだろうか? ドラマを選ぶ側、出版社側しだいとしか言えない。日本SFを前提としてそれらを選ぶ限り、それらは本格的に上陸し、日本SFの一つの流れとして根付くことはないだろう。それは翻訳などにおける編集側だけの問題ではない。日本SFの編集にも依存している。両者がどう関係し、影響しあうかはわからない。だから、もしかしたら根付く可能性は0ではない。

 そして、もちろん日本SFの作家の行動も無視できない。のだが、この十年か二十年ほど、ある種の没落期にある。没落期と言うと異論もあるだろう。だが、「番外編 ―― SFの読みかた ――」に書いた山本弘や他の (自称) SF作家の意見を見れば、説明はいらないと思う。SFという概念は、もはや「ガジェット」と同義になっているのだ。そのような (自称) SF作家は当てにできないだろう。

 ならば、新人賞を取るような新しい作家はどうだろう? 残念ながら、こちらも期待はできない。新人賞を取った後、どのような作品を出すかはわからないが、日本SFの編集者がそもそも関わっているという問題がある。日本SFの基準でノミネートされるのだし、そしてだいたいは日本SFの作家がかかわっている。例外はあるものの、どれほど期待できるだろうか。


 では、インディーズ・レーベルではどうだろう? 海外ではなんとか成り立っているところもある。だが日本ではとなると、期待するのは難しいだろう。この十年か二十年の没落期がそのまま影響しているからだ。

 なら、「お前がやれ」という声もあるかもしれないが、こういううるさいことを書いているため、すくなくとも敬遠されているだろう。それでも協力してくれるという奇特な方がいるなら考えないでもないという程度だ。


 日本SFはニッチを目指しているし、SFっぽい中でニッチを目指すことがSFだと思われている。「SFってなんなんだろう?」という疑問はすでに死んだ疑問である。すくなくとも、翻訳SFを買い支えている少数の人を除いて。

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