第139話 とんでも超出力熱魔法
一瞬の歪んだ景色。
それが明けると、眼前にマグレーディのドームが広がる。
人間界惑星上空700キロからの超高速移動は終わり、ローン・フリートと第3艦隊は目的地に到着したのだ。
俺はすぐさま、辺りを一望する。
探すのは、マグレーディへの攻撃を行う帝国艦隊第4艦隊。
俺たちが撃破すべき相手だ。
目だけではなく魔力も使えば、すぐに見つかるはず。
「いました! あそこです!」
誰よりも早く敵を見つけたのは、ロミリアだった。
彼女、敵を見つけるの得意だよな。
でもまさか、俺だけじゃなく第3艦隊よりも早いとは思いもしなかったが。
1秒ぐらいで見つけていたぞ。
ロミリアの指差す方向には、ドームに向けてビームを放つ6隻のレイド級の姿。
一方的な熱魔法攻撃に晒される、マグレーディの光景。
帝国の意地と、セルジュへの反発が、マグレーディ国民の命でもあるドームを破壊し尽くそうとしている。
何もかもを利用して出来上がった帝国は、もはや何もかもを破壊することでしか、自分たちの存在意義を示せないのだろうか。
そんな哀れな集団、さっさと引導を渡してやろう。
「ロッド司令、俺たちが敵旗艦に突っ込みます。第3艦隊は敵旗艦以外の敵艦へ牽制をお願いします!」
《まるで、フォークマス奪還作戦を思い出しますね。分かりました、お任せください》
言われてみればそうだな。
今回は奪還作戦ではないが、ロッドたちと6隻の敵艦隊に突っ込むのは、フォークマスのときと同じだ。
ただし、今回はダルヴァノとモルヴァノが、ガルーダの直掩機である。
「ダリオ艦長とモニカ艦長は、ガルーダに付いてきてください。さっきと同じ戦法で行くので」
《しかし司令、それでは先ほどの二の舞では?》
ううむ、やはりそう思われるか。
でもダリオとモニカに、いちいち作戦を説明する時間はないし、必要もないんだよ。
《異世界者様が同じ戦法で行くってんだ! あたいたちはそれに従えば良いんだよ!》
《そうだが……》
慎重すぎるダリオとは正反対の、モニカの言葉。
妻のその勢いに押されてか、ダリオの言葉が続かない。
つくづくバランスの取れた夫婦だこと。
「ダリオ艦長、同じ轍は踏みませんから、安心してください」
《……了解しました!》
おお、説明しなくとも納得してくれた。
これが信頼というヤツなんだろう。
いや~、信頼って良いですね。
話が簡単に進んで、面倒なことが少なくなるんだから。
「で、敵との距離は?」
「約12キロです」
「よし」
想像以上に敵との距離は近い。
これなら短距離砲も届く距離だ。
実際、第4艦隊に向けて放つ第3艦隊のビームは、横殴りの雨のようである。
今すぐにでも俺たちは、敵艦隊に突っ込むべきだ。
だがその前に、1つ言わないとならないことがある。
「航海士、敵旗艦真横の座標と、超高速移動のための必要魔力量割り出しを」
「りょ、了解しました!」
「ヘッヘ、なるほど、そういうことか。まったく無茶ばっかりだぜ、アイサカ司令は」
さすがはフォーベック艦長。
もう俺の考えを理解してくれたようだ。
ならばこれ以上の心配はない。
「防御壁の出力を艦首に集中! ローン・フリート全艦、敵艦隊に突っ込むぞ!」
微塵の迷いもなく、俺はエンジンを全開にし、ガルーダを急加速させた。
いくら艦内重力装置があろうと、加速直後のGは抑えられない。
一瞬とはいえ俺たちは、自分の座る椅子に押し付けられ、その加速を体でも感じる。
たった12キロの距離なんて、あっという間だろう。
第3艦隊の攻撃だけでなく、俺たちの突撃にも焦る第4艦隊は必死だ。
俺たちに艦の真横を見せるヤツらは、マグレーディのドームに対する攻撃を中断、砲をこっちに向けてきた。
向けられた砲は、その全てから、光魔法の青白いビームが撃ち出される。
美しい光のショーではあるが、あのビームの標的は俺たちだ。
果たしてあれを切り抜けられるか。
前回の反省を活かしてか、第1艦隊がいないせいか、ヤツらの攻撃の手が厳しい。
こちらの防御壁は点滅だけでなく、小さなひびすらも入っている。
防御壁が消えることはないだろうが、艦も揺れるし少し怖い。
怖がってたら、戦ってなんかいられないけど。
「座標確認! 必要魔力量は2万8009・66MPです!」
「ロミリア、魔力の用意を手伝ってくれ!」
「え? は、はい!」
大事なのはこの作業だ。
たった数秒で、やけに細かい魔力量を用意しなければならない。
これに関しちゃロミリア次第である。
「全艦、敵旗艦へ光魔法攻撃!」
敵の防御壁を剥ぎ、丸裸にするための攻撃。
さっきの戦闘で、この攻撃が有効なのは確認済み。
再びの一斉射撃。
まるで放射状に襲いかかるビームの中を、第4艦隊旗艦のみを狙って突き進む光魔法。
おそらくこの時点で、第4艦隊旗艦は超高速移動の準備をはじめたはず。
「敵旗艦に光魔法の直撃を確認! 防御壁の破壊、成功!」
敵のビームのわずかな隙間から、こちらの攻撃の直撃を肉眼でも確認。
第4艦隊との距離も近い。
だが、ここで熱魔法攻撃を行ったところで、結果は見えている。
「急減速!」
咄嗟に俺は、前方スラスターを全開にし、ガルーダを急減速させる。
いきなりの減速にダルヴァノとモルヴァノは対応しきれず、俺たちの真横を飛び抜けていった。
速度の遅くなったガルーダに、敵からの攻撃が集中する。
おかげでこちらの防御壁も、どうやら限界が訪れたようだ。
敵の光魔法の直撃で、艦首の防御壁が吹き飛び、艦が大きく揺れる。
もう知らん!
艦首が被弾しようと知ったことか!
「魔力の用意できました!」
「よし! 超高速移動開始!」
ロミリアの用意が終わったと同時に、俺は用意された魔力をエンジンにぶち込む。
と同時に、外の景色は大きく歪み、しかしすぐに、いつもの宇宙が広がった。
もちろん移動はしている。
ガルーダの目の前、十数メートルの位置に、敵旗艦がいるのだから。
俺はガルーダを、相手の艦橋、そこに第4艦隊司令の姿が見える程、近くに移動させたのだ。
あとは何をするべきかなんて、決まっている。
こちらも向こうも、どちらも防御壁を一部喪失した手負い。
それでも今の状況を完璧に理解している分、俺の攻撃の方が早い。
自分で操作する中距離砲に、さらに調子に乗って700MPを詰め込み、狙いを敵旗艦艦橋に定める。
そして間髪入れず、俺は中距離砲からとんでも超出力熱魔法を撃ち出した。
発射の衝撃にガルーダはわずかに後退、俺たちと敵旗艦が真っ赤な光に照らされる。
超出力の熱魔法となると、ビームは溶岩以上に煮えたぎるようだ。
そんな恐怖のビームが4本、敵旗艦の艦橋を呑み込む。
おそらく、第4艦隊の司令は姿形を残さず、完全に消え失せたことだろう。
ビームが過ぎ去った敵旗艦は、そのビームが直撃した部分を綺麗に削り取られ、真っ2つとなる。
破片の1つすら飛ばさず引き裂かれた敵旗艦。
ガルーダはその隙間を、ゆっくりと通過していった。
あまりに綺麗に分裂したためか、敵旗艦の断面からは、無傷の食堂まで見える。
なんだか俺、すごくヤバい攻撃をしてしまったようだ。
俺の攻撃にビビったのか、第4艦隊全艦も攻撃を中断している。
第4艦隊旗艦は葬り去った。
残った敵も俺に怯えてるようだし、降伏勧告でもしてみよう。
「こちら共和国艦隊助っ人のローン・フリート司令、相坂守。今すぐに帝国艦隊を離反し、共和国艦隊に合流せよ」
しばらく、沈黙が辺りを覆い尽くした。
敵からの回答はなかなか来ない。
とはいえ攻撃もしてこないので、もうちょい待ってみよう。
《我らは共和国艦隊に合流する!》
《私たちもだ! もう帝国に味方する義理はない!》
《共和国に背いたこと、許してくれ!》
数分程は待たされただろうか。
残された第4艦隊の内、3人の艦長が、ついに帝国からの離反を決意してくれる。
一方で2隻の軍艦は、帝国から離反することなく、超高速移動を使い消えてしまった。
まあでも、これで3隻の軍艦と、多くの艦隊乗組員の確保に成功した。
マグレーディ上空戦は、俺たちの勝利だ!
《こちら勇者村上! 反発する魔界の軍艦も片付けたぜ! 見たか俺の力!》
《トメキアだ。異世界者の活躍、素晴らしい。魔界は我々に任せて、異世界者2人は人間界惑星のために戦ってくれ》
タイミングよく、魔界艦隊の戦闘も俺らが勝利した模様。
戦争の終結は、もう目の前だな。
《アイサカさん、3回目のマグレーディ救出、ありがとうございます。もうアイサカさんは、マグレーディの守護神ですねぇ》
「ヤンか。そっちは大丈夫なのか? 帝国騎士団の片付けは?」
《スイアさんのおかげで、城は安全です。あとぉ、マリア殿下を先頭に国民たちも騎士団に抗ってくれたので、もうすぐ騎士団も降伏すると思います》
「マリアが先頭にだと?」
《そうなんですよぉ。スッチー仕込みの剣の腕、すごかったです》
おやおや、マリアは順調に王女様路線を踏み外しているようで何よりです。
でもおかげで、マグレーディの安全は保たれそうだ。
空も地上も勝利とは、嬉しいね。
想像以上に帝国の瓦解が早い。
これも全て、セルジュ陛下のおかげだ。
そのセルジュ陛下は、果たして無事なのだろうか。
人間界惑星の地上では、まだ戦闘が続いているはずだ。
戦争終結は目の前とはいえ、油断はできないな。
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