第60話 懐かしの地上

 ガルーダの改造案をまとめあげ、俺はガルーダの停泊するドックを出て行った。

 あとはフォーベックとメルテムに任せる。

 ジェルンを撃破するため、戦争を終わらせるために傷だらけとなったガルーダ。

 あれがどのように生まれ変わるのか、今からでも楽しみである。


 日は傾きはじめているが、それから俺は迷わず共同墓地に向かった。

 マグレーディでは埋葬が普通で、そこに名前を刻んだ丸石を置くのが墓の一般的な形式らしい。

 俺は規則正しくずらりと並んだ墓の中から、部下の墓を探し出す。

 部下の墓はまだ真新しかったために、すぐに見つかった。


 自らの意思とはいえ、俺の指示に従い死んでいった17人の部下たち。

 こんな俺に命をかけて付いてきてくれた17人に、俺は手を合わせ、感謝する。

 謝罪をするべきかどうかは迷った。

 ここで俺が謝罪してしまっては、17人の選択がまるで間違っていたかのようになってしまう。

 だが、彼らが俺の指示で死んだのも事実。

 悩んだ挙げ句、俺はただ頭を下げることしかできなかった。

 死んだ17人は今、何を思ってるんだろうな。


 その後しばらく、俺は墓地に居続けた。

 特に理由はない。

 ただなんとなくだが、そこを離れる気にならなかっただけだ。

 日は沈み、辺りは暗くなっている。


「あ、やっと見つけました」

 

 不意に後ろから話しかけられる俺。

 相手が誰なのかは振り返らずとも分かる。


「どうしたロミリア。わざわざ俺を探しにくるなんて」


 俺の後ろで、ミードンを肩に乗せるロミリア。

 彼女の手には花束が。

  

「お墓参りと、アイサカ様を探しに……」

「そうか」


 17の墓の前に花束を置き、短く黙祷するロミリア。

 手を合わせることはない。

 これがこちらの世界での墓参りなのかな。


「俺を探しにきたってことは、なんかあったか?」

「はい。ロンレンさんが呼んでました」

「分かった。すぐに帰るよ」


 ヤンに呼ばれるってことは、だいたい何かある。

 俺は少し急いで、夜の街をロミリアと一緒に歩いた。

 しかし共同墓地から城までは距離がある。

 

 途中で歩くのを諦め、馬車に乗る俺とロミリア。

 テキトーに選んだ馬車だったため、ちょっと狭い。

 2人で密着する感じだ。

 おかげでミードンの尻尾が俺の顔にずっと当たってきて、なんともウザ可愛かった。

 なぜかロミリアは楽しそうだったがな。

 

 城に到着すると、俺は真っ先にヤンの部屋へと向かった。

 が、廊下でヤンを見つけた。

 アイツはいつも通りメイドと楽しそうに会話し、ちょくちょくボディタッチをしている。

 ホントに邪のかたまりだな、あの野郎。


「あ、アイサカさん! 話があるんです!」


 ヤンも俺に気づいたようで、大声で俺を呼ぶ。

 俺とロミリアは彼の側に歩み寄った。


「ちょっと待っててね」


 メイドを追い払い、仕事モードに入るヤン。

 とはいえ、彼の仕事モードは普段とあまり変わりない。

 いつもの軽い調子で話しはじめる。


「元老院がアイサカさんを呼んでます」


 あ~、ついに来たか。

 ジェルンを倒すために人間界惑星に入ったからな。

 いずれ何かしらあるとは思っていた。

 やっぱり怒られるんだろうか。


「場所はいつも通り元老院ビルです。ボクも一緒に行くのでぇ、すぐに用意してください。出発は明日です。じゃ、そういうことなんで」


 それだけ言って、ヤンはメイドとの会話に戻ってしまう。

 すごく事務的な連絡だったんだな。

 それなら魔力通信だけで伝えても良さそうなもんだが。

 ま、ちょうど帰る良い機会になったけどさ。


 ロミリアとはそこで別れ、俺は自室に戻る。

 ガルーダが修理及び改造のため、現在の俺の自室はマグレーディの客室だ。

 

 部屋の備品はガルーダの自室から持ってきたもの。

 ただし数は少なく、傷だらけの備品だ。

 これは、ジェルン撃破のときに艦内重力装置を切ったせいで艦内が滅茶苦茶なことになり、備品の半分が壊れたせいである。

 これついては、本が破けるなどしたロミリアからも、やんわりと文句を言われている。


 俺は明日のための準備をはじめた。

 とはいえ準備するものはほとんどない。

 そのためさっさとベッドに横になると、そのまますぐに熟睡してしまう。

 起きたら翌日の朝だった。

 良かったよ、準備するものがなくて。

 

 焦りながら起きて2時間後。

 俺たちはダルヴァノに乗ってヴィルモン王都へと向かった。

 

 マグレーディ出発時、俺は窓の外に目を向ける。

 そこにあるのは、大穴のあいた第1ドーム。

 

「あそこでアイサカさんが助けてくれなかったら、全滅でしたよぉ」


 同じく外を見ていたヤンが、いつもの笑みを浮かべてそう言った。

 あのとき、彼はマグレーディ城にいたはずだ。

 当然、攻撃してくる魔界艦隊も、それに対してヤケクソアタックするガルーダも、どちらも見ていたはずである。

 そして、すぐそこに死の危険が迫っていたことも理解していたはず。

 その上でのヤンのこの言葉には、表情とは対照的に重みが感じられる。

 

「アイサカ様の優しさは、やっぱり間違っていなかったですね」

「ニャー」


 俺の横で微笑むロミリアとミードン。

 そういや彼女は、俺のヤケクソアタックに賛成してくれていたな。

 あの時は間違った選択だと思ったが、そうか、間違ってなかったのか。

 なんつうか、彼女は俺のことを優しいと言うが、ロミリアの方がよっぽど優しいよ。

 

 ダルヴァノ艦内で昼食を済ませ、夕方近くになってヴィルモンに到着する。

 天気は曇天だ。

 俺とロミリア、ヤンは小型輸送機に乗り換え、元老院ビルへと向かう。

 今日は10月15日だから、ヴィルモン王都に来るのは3ヶ月半ぶりになるな。

 いやはや久しぶりだ。

 

 元老院ビル前に小型輸送機が着陸し、俺たちはヴィルモン王都の地を踏みしめる。

 ロミリアとヤンはピサワン以来だけど、俺にとっては久々の惑星だ。

 どことなく安心感がある。


 目の前にそびえるのは、近代的なガラス張りの超高層ビル。

 はじめて異世界に来た時は、世界観ぶち壊しだと思った建物。

 でもなぜだろう。

 今は異様に懐かしさを感じる。

 元の世界にあったのと同じような建物に、俺のホームシックが刺激される。

 まさか元老院ビルに懐かしさを感じる時が来るとは……。

 

 ただし、元老院ビルにお迎えはなかった。

 仕方ないので、俺たちはさっさと元老院議場に向かい、こちらから到着したのを伝える。

 そして控え室で、呼ばれるのをただただ待った。

 飲み物とかそういうのは出てこない。

 やっぱり嫌われてんのかな、俺たち。


「議場に来てください」


 1時間ぐらい待たされ、ようやく呼ばれる。

 俺たちは服装を整え、議場へと向かった。

 なお、離れてくれなかったのでミードンも一緒だ。

 ペット同伴で参加を許されるなんて、驚いた。

 

 照らされた円卓と、光が届かず真っ暗な裏方。

 ピサワン市民議会とはかけ離れた、重苦しい空気。

 そこに集まる複数の王。

 できれば2度と、ここには来たくなかったよ。


 参加する王は、前より少ない。

 どうやらノルベルンのイヴァンとシェンリンの女王が参加していないな。

 よりによってサルローナの王はいるけど。

 なんでだよ、イヴァンが参加してあいつが参加しなけりゃ良かったのに。

 

 驚いたのはグラジェロフだ。

 あそこは1度も王様を見たことがなかった。

 しかし今回は、まだ10歳にも満たないような小さな男の子が参加している。

 あれが王様……ではなさそうだな。


 誰1人としてマグレーディ生まれではないけれども、俺たちはマグレーディの人間だ。

 だからセルジュ陛下のもとへと向かう。

 ヴィルモンに幽閉されてだいぶ経つが、セルジュ陛下は元気そうだ。


「あ、お久しぶりです。どうです、その……娘は頑張ってますかな?」


 マグレーディ代表、セルジュ陛下の俺たちに対する第1声は、娘についてだった。

 挨拶とか全部飛ばして娘のことを聞いてくるとは、よっぽど心配なんだな。

 ここは包み隠さず言っておこう。


「エリーザ殿下もマリア殿下も、国民に愛され、立派な姿で頑張ってます」

「アイサカさんの言う通りですよぉ。だから安心してください」

「そうか! うむ、さすがは父上の孫だ」


 おや、さすがは我が娘とは言わないのね。

 そりゃエリーザのおじいちゃんの方が、王としてはすごそうだもんな。

 言っちゃ悪いが、セルジュ陛下はどことなく暗愚臭がするし。

 それを自覚してるのかも。


「では、これよりアイサカ=マモルの扱いについて再度審議する」


 これまた久しぶりに聞いた、あの男の声。

 元老院議長、ヴィルモン王、リシャールの言葉だ。

 3ヶ月半ぶりのヴィルモンで、俺は再び元老院の審議にかけられることとなる。

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